63 逆転
「で、何が来たの?」
着替えて司令部にやってきたジェニファーが、猿渡池に聞く。
「あ、はい、どうもこれで」
モニターに映し出されたのは、破壊されたロボットネコだ。
「どうせこんな事するの、あいつしかいないわね。警戒レベル5で。ケラミュ出動よ!」
ビビー、ビビー、ビビー!!!
再びタマーランド内で警報が鳴り響いた。さっきと多少違った音だ。
「バレたかな?」
雰囲気の変化を感じた美咲がロボットネコを使って周辺の様子をチェックすると、ケラミュ達がタマーキャッスル周辺に続々と集結する姿が映し出された。何か指示を受けたようで、再び散り散りばらばらになる。
どうも、不審者の探索を始めたようだ。どのケラミュも、目がライトになってあちこちを照らし始めている。
『どうする? 美咲?』
ジョニーが心配げに聞く。草原の中に極力気配を消して潜むが、月明かりで見やすいところにケラミュの目から出るサーチライトがあちこちを照らす今、発見されるのも時間の問題だ。
「こちら美咲、既にタマーランド内に侵入中。草原地帯にいます。オーバー」
「こちら直樹、まだタマーランド外で待機中。指示お願いします。オーバー」
「こちら彩。同じく待機中。オーバー」
「こちらレオ。おばちゃん、自分も行くから、耐えてて。皆もよろしく」
つまり援軍到着まで耐えろってことか。浩リーダーからの連絡は無いし、不安になる。
ザザッ!
ドシン、ドシン!
ケラミュ達が捜索している足音が聞こえる。大型もいるようだ。
様子を見ながら視界を外れるように避けて進む。
だがどこに行けば良いのか、美咲は悩んだ。
ケラミュのコア部分があるとしたら、研究室だろう。
それなら、奥の立ち入り禁止区域が一番怪しい。
斥候として、美咲はロボットネコにそちらへ行くよう指示した。
次はどうしようかと思いつつひょっと美咲が頭を上げると、ケラマツと目が合った。
「まずい、ばれた!」
ビコビコー!!
ンガー!
ゲロゲーロ!
美咲を確認したケラミュ達が、大群で地響きをあげて向かって来る。
やむを得ず美咲は飛び出し、とにかく包囲されないように逃げ回った。
『どうする、美咲? ヤバそうだけど』
ジョニーが心配そうに聞いてくる。
「これ使うしか、ないっしょ!」
そう言うと、都合良い場所にきた美咲はLP銃を構え、最前列のピコチュウ向けて撃ち放った。
ビビー!!
柔らかいピンク色のレーザーが、ピコチュウの脳天に命中する。
ビコビコ、ビコッ!!
直撃直後、撃たれてピコチュウは攻撃的だった。
だが、
……ビコ、ビーーコーー
zzz……
想定通り、ピコチュウから攻撃色が消え、寝始める。
計画通りだ。
『やったね!』
ジョニーも安堵した表情になる。AIのくせに怖がりなんだ。
「よっしゃ、これでいける!」
ここからは、美咲のターンだ。
美咲は冷静にピコチュウやケラミュ達の頭を狙い、LP銃を撃ちまくった。
そして一頻り終えた後に残ったのは、安らかに眠るケラミュ達だった。
「えー!! 何あれ? あの脳筋でかパイ馬鹿女、何やったの?」
突然の出来事にジェニファーはあっけにとられ、眼が点になっていた。完全に想定外だ。
「何か、新しい製品を開発したようです。ケラミュ達を安眠させたようで」
「そんなの見れば分かるわ! おっさん、じゃあどう対策すんの!」
今までの余裕はどこへやら、珍しくヒステリックに当たり散らすジェニファーは明らかに狼狽している。
「いや、そう言われても…… 今初めて見ましたし……」
「てめえふざけんな! 金貰ってんだからそれくらい何とかしろおぉお!!」
「は、はい!」
返事はいいが、猿渡池もどうして良いのか分からなかった。




