62 夜のタマーランド
翌日、すっかり寝静まった夜更け、美咲達5人と富崎の一行は、カッタクルスに乗り出発した。
皆フル装備だが、相変わらず格好はまちまちだ。目的地は当然、タマーランドである。
新しいカッタクルスは、大型バス並みの長さになった。中に乗り込むと、後部はモニター付き豪華座席が五人分あり、前部には様々な機械類が詰め込まれている。今日の運転は富崎さんだ。
「新フェンガーは作製中でね、これを司令部代わりに、一通りの設備を入れたんだ」
レオが説明する。
思い思いに時間を過ごすと、カッタクルスは高速を下りてタマー市に入り、付近の目立たない山道の空き地に車を停めた。タマーランドを眼下に見渡せる高さだ。満月に照らされ白く浮かび上がるタマーランドは、幻想的な世界を際立たせている。
「じゃあこれを」
と言って、彩が奥のロッカーからネコを五体持って来て、床に置いた。
可愛いと思って美咲が触ると、感触が生物ともぬいぐるみとも違う。
「これは彩さんの?」
「そう、前に説明したノイビオロよ。同期したら、操れるわ」
言われるがままにジョニーと一体を同期させてセッティングすると、美咲の視界がシンクロし、床より少し上の映像が眼の前に広がる。上を向いたら丁度彩のスカートの中が見えてしまい、慌てて移動させる。今日も紐みたいな下着で、一見ノーパンかと勘違いした。
彩の仕事場で少しやったが、もう一度練習してみた。あの後からも改良されたようで、壁をよじ登ったり、そこからジャンプも出来る。メンバー全員セッティングを完了し、席について待機した。
「じゃあ良いかな。ちょっとこれ見て」
レオが声をかけると、天上から大型モニターが下りて来て、周辺の地図が写し出された。
「これがタマーランドの全景図」
周辺地図が拡大され、タマーランドの全体像に切り替わる。入口からタマーキャッスルまでは一直線で、周りにアトラクションが点在する。キャッスルから奥に行くと以前ピカ吉達がいた発電所の丘で、更に奥は研究設備や大きな池がある。その辺は立ち入り禁止区域のようだ。タマーランドの外縁は、殆どが山麓の森林に囲まれていた。
「アトラクション、あれから沢山作ったみたいだね。プチモンゾーンが草原、廃墟、山、小川の四つ。他にも、カーレースが出来るサーキットや、障害物競走のアスレチックゾーン、あと幼児向けのメリーゴーランドや観覧車なんかの乗り物広場。他にゲームコーナーらしき建物が、四つぐらいあるよ」
「森林から潜入しますか?」
「そうだね。まずノイビオロを侵入させて、園内の調査をお願い。指揮役として僕は残るよ」
4人は外に出た。虫の鳴き声の他は何も聞こえない。静かに四体のノイビオロを解き放す。それらは本物のネコみたいに、森林に向けて駆けて行った。4人も追いかけるように四方に散る。
ジョニーとの同期で、ネコの目線も視界に入った。森の中だが、やはり壁で区切られている。木をよじ上りつたわせ、タマーランドへと侵入させる。活動中のケラミュ達はいなそうだ。
細心の注意を払いつつ、進んで行く。東京もこんなに自然が一杯なんだと感心しながら、注意深く観察する。高感度赤外線カメラで見る風景は見づらいが、徐々に操作にも慣れて来た。
美咲は近くの森の中で待機することにした。武蔵野樹林は雑木林なので、スギ等の針葉樹林は少なく不規則な広葉樹林の世界だ。足の踏み場に困りながら入ると、大きなケヤキの木を見つけ、体を支えられる枝に上り潜伏した。
『そろそろ森を抜けるよ』
ジョニーが連絡する。
「オーケー。何が来るかな?」
タマーランドの概略図は衛星写真で把握してるし、公式ホームページもある。
だから美咲のネコが進む先が、草原地帯とも分かっていた。
だが問題は、プチモン達だ。
ケントロスなんかが来たら、一発でやられる。
イーバイぐらいなら、助かるんだけど。
『草原に入ったよ』
「どう? プチモンいる?」
『未だかな…… あっ!』
「どうしたの?」
『向こうでバトル始まったかも』
「すいません、見つかりました!」
直樹からの声が聞こえたのと同時に、タマーキャッスル近くで雷光が轟いた。すると、
ビー、ビー、ビー!!!
と、四方からけたたましく警報が鳴り響き、プチモンの鳴き声が聞こえ始めた。
『行ってみる?』
「もう隠れても無駄かもね。入った方が早いわ」
『いいの? 指令ないよ』
「こう言うのは、混乱してる時に入るのが一番楽なのよ」
美咲は腰に携帯するLP銃を取り出し、飛翔してタマーランド内へと侵入した。
「創造主様、侵入者です! ……あっとすんまへん!」
猿渡池辰也が慌ててジェニファーの寝室に入ると、既に目覚めて上半身を起こしたジェニファーの寝間着は、スケスケなネグリジェであった。鍵がかかっておらず、無意識に入ってしまった。
「たっちゃんのエッチ! 着替えるから司令室で待ってて!」
「は、はい!」
意外に発育の良いジェニファーを見て、すっかり別な意味で目が覚めた猿渡池である。




