60 のぶ太、頑張らない
「じゃあ、そいつにフォット着せてみる?」
レオが提案する。そいつ呼ばわりの時点で、あまり気が乗らない様子が透けて見えた。
『フォットってなんですか?』
「人間の力を数倍に増幅させるんだ。さっきおばちゃんが君を連れて山を越えたのも、その力」
『そうですか。ありがとうございます。でもイジメは陰湿で先生の目が見えないネットでの中傷とか無視が多いから、物理的に強くなっても、意味が無いと思います』
ロボットの割にトミえもんは人間を良く知っているようだ。
かなり学習能力が高い。
「んじゃ、ウェルクを目に付けて、テストで満点取るとか」
『何だか知りませんが、おバカなのぶ太君が急に満点取っても、不正を疑われるだけです』
これもその通りだが、レオにも良い案が思い浮かばない。
「そっか…… じゃあ真面目に勉強するとかは?」
『もうネトゲにはまっていて、集中力が保ちません。中一だし、手遅れだと思います』
「うーん…… そりゃ、無理だわ」
ウンザリした顔で、レオが言った。どうやらお手上げらしい。
「レオ、ちょっとあんた」
「だって、甘やかされてダメ人間になったんでしょ、それ変えるの難しいよ」
真っ当な正論を言われると、身も蓋もない。
かと言って美咲にも、良い案は思い浮かばなかった。
「トミえもんはどうしたいの?」
『僕はのぶ太君が幸せに暮らせれば……』
「しずかちゃんみたいな女の子、いないの?」
『いる訳ないじゃないですか。美咲さん、ああいう男子どうですか?』
「ちょっと無理」
美咲も即答だ。
「でも、何とかしてあげたいわね……」
モヤモヤした気分のまま、話は終わった。
その後、ある日の下校時間。美咲は気になって訓練がてら、あの公園近くに行き、鉄塔の上から周りを見回した。すると、下校する男子中学生の一団に出くわす。その一団の最後尾にいる子は、みんなの荷物を持たされていた。よく見ると、のぶ太である。
「あーこれ、先生絶対分かんない奴だ」
寄り道でもして時間帯がずれているのか、他の中学生はいない。
きっとこうして、普段から陰でいじめられているのだろう。
『人間は陰湿だね』
ジョニーが同情的に言う。
「ま、そんなもんよ」
『どうする?』
「私が出て行っても良いけど、どうしようかな……」
美咲が躊躇していると、
『こらー! のぶ太君をいじめるな!』
と、公園近くで、トミえもんが向かって行った。
まだ歪んでいて、走るたびにガタガタと音が鳴る。
「あ、また来たポンコツ」
「やられに来たぜ!」
と、男子達が口々に言い、数人がかりでトミえもんを引っぱり倒す。
『うわっ!』
ガタン!
ボカッ! ボカッ!
数の力に太刀打ち出来ず、あっけなくやられるトミえもんだった。
「ほんと、弱いのにいつもヤラレに来やがって。馬鹿なロボット」
「おらノブタ、ブーブー言ってないでスマホかせよ」
男子達は更に増長して、近くのコンビニの前に来るとスマホを奪うようにして店内に入り、沢山の食べ物やオモチャを買って来て、公園で騒いでいた。見ていて気分のいいものではない。
「こら! そこの中学校の子? 先生と教育委員会に言うわよ!」
流石に見かねて、美咲が出てきた。
「何だババア、俺のお父さん教育委員長だよ?」
1人のクズっぽい中学生がイキがって言う。
だがこの地域の住民ではない美咲にとって、大した意味はない。
「ババアっ何よ! ババアって!!」
中学生だからと穏便に済ませようと思っていたが、その一言で美咲に火がついた。
そして、数分後……
「ごめんなさい、もうしません〜」
「内申書あるから先生には言わないで下さい〜」
「今度イケメン紹介しますから、許して〜」
ボッコボコにやられて美咲に土下座してひれ伏す男子共の姿があった。
子供相手は勝手が違うから大分手加減したものの、それでも瞬殺だ。
イケメンには心揺れたが、ここはグッと堪える。
「もうイジメは止めるのよ。さあ帰りなさい!」
美咲の一声で、男共は散って行った。
後にはのぶ太と、動かずに倒れたままのトミえもんだけが残った。
「ほんと使えねえよな、こいつ。新型が欲しいけど、もう貧乏だから貰えねえんだよ。ちくしょう」
トミえもんに感謝の一言も無く蹴っ飛ばすのぶ太も、相当なクズだ。
「美人でおっぱいデカいお姉さん、それより僕を飼って貰えますか?」
今度は美咲に向かって、媚びるようないやらしい目つきで話しかけてきた。
背筋がぞっとするくらい、気持ち悪い。レオの言ってた意味が良く分かる。
「いや結構です。それより、トミえもんをどうするの?」
「なんだ、くそババア。もう良いっすよ。動かないしあんたが持ってけば?」
何だか胸がムカムカする終わり方だが、これ以上深入りしても無駄だ。哀れトミえもんは美咲に引き取られ、のぶ太は一言も感謝の言葉無く家へと帰って行った。




