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59 トミえもん

 相変わらず空っ風が吹きすさぶある冬の日、美咲は少し訓練がてら山を幾つか飛び越えていた。まるで忍者だが、フォットを着ればそれくらい当たり前なので、すっかり慣れている。


 この辺りは過疎地のため、美咲を見て驚く人もいない。


 あ〜四月から大翔の世話、どっしようかな〜


 飛び跳ねながら、美咲は別のことを考えていた。三月で保育園も卒園だ。近くの公立小学校に入るのは決まっている。学童施設もあるが、環境が変わって大丈夫だろうか。


 そんなことを考えながら、市街地の近くまで足を伸ばした時、公園で何やら不穏な喧嘩を見かけた。


「くそっ! この野郎!」


 近づいて様子を窺うと、男の子が何かを、ボコボコ蹴っ飛ばしている。人みたいにも見える。


「何やってるの?」


 いじめかと思い声をかけると、「やばっ」と男の子は走り去った。


 美咲はその倒れている物に近づいた。ずんぐりむっくりとしたそれは、人では無かった。『う、うーーん』とうめき声を出すそれは、ロボットだ。


「大丈夫?」


 美咲は手を貸して起き上がらせ改めて見ると、二足歩行ネコ型ロボットであった。長年使い古されていた劣化か、色あせていて少しみすぼらしい。


『のぶ太君は?』


 美咲に礼も言わず、名乗ろうともしない。

 このロボットは、さっきの子だけが気がかりのようだ。


「あの男の子? どっか行っちゃったけど」


 するとロボットは焦った様子で、『お〜い、のぶ太くう〜ん!』と声を出し、あの子が走り去った方向へと追いかけようとした。


 だがガタガタ大きな音を立てたかと思うと、ドタ!! とまた倒れ、動けなくなる。どうも、足の部分がいかれたようで、モーターの空回りする音がした。


「ちょっと、これじゃまずくない? 直しに行こうか?」

『す、すいません……』


 幸いロボットは、美咲より一回り小さい。

 美咲はそのロボットを抱きかかえて山を越え、LITへと戻った。


「レオ、いる?」


 レオのいる家の縁側に来てみると、ちょうど何やら工作をしている。


「どうしたの、おばちゃん?」

「この子、直せる?」

「ふんふん。うん、足の関節なら簡単だよ。ちょっと待ってて」


 そう言うと、奥から何やらモーターや幾つかの部品を持って来て、器用に関節部分の交換をした。こういう時は、普通に頼りになる。


『あ、ありがとうございます。ぼくトミえもんです』


 ここに至り、ようやくロボットは名乗って、2人に礼を言った。


「まあ良いけどさ、かなりガタがきてるよね。どうしたの?」


 美咲も気付いていたが、レオもやはり気になったらしい。そのロボットはあちこち壊れている。関節部を直したから二足歩行は元通りだけど、腕や胴体や顔にも、何かで叩かれたか、歪んでいる。


『実はご主人であるのぶ太君なんだけど……』


 トミえもんは悲しそうな顔になり、話を始める。


『ぼくは、のぶ太君が小学生になったとき、入学祝いに両親から、ご購入頂いたんです。初めて会ったのぶ太君の喜んだ顔、ぼくも嬉しかったな。直ぐに懐いてくれて、とっても仲良しでした』


「へえ、そうなんだ。世話役ロボットを買えるって、相当お金持ちなんだね」


 レオは事情を知っているのか、確認のためか聞く。


『はい、元々は東京の田々調布に住んでいました。ですがお父さんの事業が傾き、こちらに引っ越して来たら、ロボットの僕がいるのを周りがからかい、いじめられたんです』


「じゃあ、あなたが外に出なきゃ良かったんじゃないの?」


 美咲が聞く。


『それもそうですが、やはりのぶ太君は、おっちょこちょいで勉強も出来ず何のとりえもないダメ人間でして、やっぱり僕がいかなきゃ、ダメな時が多かったんです』


「そっか」


 さっきの逃げて行ったクズっぷりを思うと、確かにあの子も大概だろう。


『そのまま小学生も終わったのですが、中学受験にも失敗して東京に戻れず地元の公立中に進むと、イジメは更にエスカレートしまして…… のぶ太君も、僕をストレス発散のはけ口にするくらいしか、やること無くて、辛い日々のようなんです…… 僕もどうしてあげれば良いか、分からなくて……』


「秘密道具とかないの? お腹のポケットの中に」


 と美咲が聞くと、トミえもんは不思議な顔をして、


『そんなのある訳ないじゃないですか。これ、飾りですよ』


 と答えた。


「まあ、自業自得だよね」


 レオは冷静に突き放す。齢も近いし、あまり同情の余地はないのだろう。


『そう言わないで下さいよ。僕もこのままじゃ、あと数年でスクラップです。最近は頭の回路も故障気味で、僕がいなくなったら、誰ものぶ太君を助けてくれません。そう思うと、辛くてどうして良いのか、分からなくなるんです』


 涙ながらそう話すトミえもんは、本当に悲しそうな顔であった。


「なんか出来ないの? レオ?」


 美咲が懇願する。こういう話には、ちょっと弱い。

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