57 新製品
レオから美咲に手渡されたのは、小型の銃だった。見かけほど、重くはない。
「銃?」
やっぱり撃ち殺すのかと、美咲は陰鬱になった。
「違う違う。これ、持った人の思念をレーザー化して相手の脳神経系にパルスを当てるんだよ。おばちゃんみたいな母性本能強い人が使うと、動物の闘争本能を司る松果体を弱められるんだ。ちょっと試してみる?」
そう言うと、レオは土間から縁側に行き、ガラス戸を開けた。庭先には、野良猫が冬の微かな日差しを求め、のんびりと日向ぼっこをしている。
「じゃあ、やるね」
そう言ってレオは引き金を引くと、何か青白い光が猫に照射された。
にゃ?
猫は嫌がる素振りをみせ、光が当たらないように避けるばかりで、落ち着かなくなった。
「やっぱ自分じゃ駄目か。じゃあおばちゃん、やってみて」
銃を手渡され、美咲は戸惑う。
いきなり言われても何をどうすれば良いのか、自信がない。
まどろんでいた猫を邪魔するのは可哀想だが、思い切って引き金を引いた。
すると今度はさっきと違うピンク色のレーザーが出て、ネコに命中する。
途端に猫は大人しくなり、安らかな眠りについた。気持ち良さそうだ。
「ほらね、やっぱり。おばちゃんなら上手くいくでしょ?」
レオは得意げに3人に向かって言った。件の3人は土間で静かにお茶を飲み、特段反応はない。
「出すレーザーの色が、人の心で違うんだ。名付けてLP銃」
「LP銃?」
「”ラブ & ピース”って意味。最初に言ったように、これは今のところ、おばちゃん専用だよ。後のメンバーだと、逆に獰猛にさせちゃんだ。これからの特訓次第かな」
「これ、生き物じゃない彼等にも効くんですか?」
「それは恐らく大丈夫です」
彩が縁側までやってきて、答えた。
「わたしがピカ吉を解析したとき、脳部分にシナプス化したチープセル塊を見つけました。あれは行動や感情を発揮する時に活性化するようです。彼女が一斉に行動開始を指令したときも、総てのケラミュの脳神経が活性化して戦闘モードへと変換されたのを確認しています。つまり、生物と同じような脳の構造になっているから、このレーザーは有効と考えられます」
「良く分かんないけど、やってみろって事ですね?」
「まあ、そうね」
何にしても立ち向かう装備が整ったのは、心強い。
「良かった。多分大丈夫とは思ってたけど、予想通りで助かったよ〜
他のメンバーじゃあの波長のレーザーを出せないからね。おばちゃんが来る前のLIT、大変だったんだよ? 前にいた人は20代半ばの独身女性でおばちゃんより綺麗だったけど、あの2人に色目使って手玉にとるわ、社長と分かるまで自分をガキ扱いしてバカにするし、彩さんに無駄な挑発かけて全体が消耗したし。おばちゃん来て、何とかなってたってわけ。この銃が完成したとき、おばちゃんならうまくいくと思ったんだよね!」
彩は気まずそうに土間に戻る。直樹は甲斐甲斐しく2人にお茶をいれていた。
褒められてるのか貶されてるのか良く分からないが、これで未だましになったのか。
「武器は分かったわ。でもどうするの? いきなり乗り込んで行くの?」
「そこだね。まだ武器の精度も問題あるし、いきなり戦うのはリスクが大きいし、まずは特訓かな。身内を褒める訳じゃないけど、アネキはかなり優秀だから、準備しないと直ぐやられるね」
そう言う訳で、暫くは再び富崎さんの出迎えで出社し、訓練の日々となった。
美咲に宛てがわれた家もあった。大家族でも住めそうな家には、前の装備が一通りある。
やってみるとLP銃の扱いは意外に大変だ。最初はビギナーズラックな面もあったらしい。
朝に大翔と喧嘩して来社した時は、レーザーの色も青くなり、当たった動物の気性も荒くなる。
本当に心の状態を反映するようだ。平常心が大切か。レオは相変わらず、不思議な製品を作る。
「おばちゃんも怒るんだね」
レオは笑っていた。
「もちろんよ。大体レディに向かって失礼じゃない?おばちゃん、て」
「あ、嫌だった? 実は僕、お母さんが死んでから孤独で、誰かに甘えたかったんだ……」
レオは神妙な顔になって俯いた。意外な告白に驚く。
確かに、そんな話を酔っ払いながら富崎さんに聞いた記憶もある。
やっぱり未だ子供なんだ。
「本当? そうなの?」
美咲は同情しかけた。
「うっそぴょーん」
ふざけた顔をするレオに怒った美咲は、思わず猫に向けて引き金を引いた。
レーザーの色はオレンジで、美咲の代わりにと猫がレオに襲いかかった。




