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56 新LIT

 翌日の昼。半信半疑に電源を入れたLITの社用携帯から、着信音が鳴る。

 富崎さんだ。


「お久しぶりです、桃浦さん。昨日レオ様とお会いになられたと思いますが、明日都合つきますか?」

「良いですよ」


 やはり、幻ではなかったようだ。

 昔よりお金はあるけれど、今の生活は、張り合いが無い。


「ミサキ、何か良いことあったの?」


 大翔と一緒にお風呂に入っていた時に、急に聞かれる。


「なんで?」

「夜ごはん、たくさんあったから」


 そう言われてみれば、そうだった。

 調子に乗って、普段より二品ほど多く作っていたのを、思い出す。


 指定された時刻、以前のように待ち合わせ場所の公園に来たものの、リムジンらしき車はない。まだかなとベンチに座って待っていると、「桃浦さん」と、富崎さんの声がした。


 あれ?

 

 そこには、軽自動車の中から美咲を呼ぶ、富崎さんがいた。


「車変わったんですね?」


 後部席に乗り込んで、思わず聞いた。


「ええ、経費削減で」


 富崎さんも苦笑いだ。ただ雰囲気は以前と変わらない。


 リムジンの時みたいにスモークは貼られていないので、外の景色をゆっくり眺められる。美咲の住む街からどんどん離れて北上し、山野が現れた。前よりも、山奥らしい。


 冬で水が入らないけれど、山の麓まで田園が広がる風景は、美咲にとって綺麗な眺めだった。美咲の生活圏は、ずっと大都市郊外だ。田畑に連れて行ってもらった記憶は無い。田舎から上京したせいか、両親とも自然はあまり好きそうでは無かった。


 飯沢市も都心よりは自然があるけれど、バイパスや高速道路を走る車の排気ガスは体に悪い。思わず窓を少し開けて空気を入れると、ひんやりと新鮮な空気が流れ入ってきた。


 昔みたアニメみたいに、こう言う所で暮らすのも悪くないかな……

 ただ家の修繕やもろもろの雑事を総て自分でやるとなると、かなりの覚悟が必要だろう。


「場所はどこなんですか?」


 結構遠くまで来たので、気になった。道も悪くなり、時折揺れる。


「もう少しですよ」


 富崎さんの表情は窺えないが、楽しんでるような口調だった。



「ここ?」


 やっと富崎さんが停めたので下りてみると、そこは昔の農家みたいな、大きく古い家だった。修繕はされていて、一応住めるようだ。見渡すと、似た家が数軒点在している。


 ピューッと吹く空っ風の勢いが凄まじく、辺りの木がギシギシと揺れていた。何処かの山里みたいだが、2人以外の人影は見当たらず、生活感が希薄だ。


「やあ、おばちゃん来たね」


 玄関がガラガラと開いて出迎えに来たのは、正真正銘、健美里レオだった。


「ここが新しいLITなの?」

「うん。やっぱりある程度の広さが必要だから、探しまわったんだよ。この北風越村はもう少子高齢化で廃村同然だった場所でね、引越している地主の人達が全面的に協力してくれたんだ。とりあえず入って」


 中に入ると、土間があり、そこでは彩に直樹に浩リーダーが、炉端を囲んで座り、お茶をすすっていた。


「お久しぶり」

「あ、美咲さん、どうも」

「や、やあ美咲くん」

「皆さん、お久しぶりです」


 3人とも、変わっていない。特段仲が悪そうでも無いが、良くもない。

 ただ男共は美咲を恐れているのか、少し余所余所しい態度に感じた。レオが話を始める。


「お疲れさん。これで揃ったね。時間が少しかかったけど、何とか新生LITへの準備が整ったよ。あの時に基礎データは持ち出せたからね。何とかある程度製品は作り直せたんだ。ただ整備員とか雇う余裕がないから、使える製品も限定されちゃうけどね。ケラミュ対策も考えてあるよ。おばちゃん、タマーランドが今どうなってるか知ってる?」


「いえ、確かもう少しで開園とか」


 あの騒動も一段落し、タマーランドはもう少しで開園の運びとなるらしい。テレビでインタビューを受ける猿渡池も観た。少しかみ気味で関西風のアクセントだが、あの記者会見から人気は上々のようで、時々コメンテーターとしてもテレビ出演している。


「そうなんだよ。来月には始まるみたいだね。これからどうやってアネキの悪事を暴くか悩みどころだけど、とりあえず新製品作ったんだ。たぶん今度のは、おばちゃんが適任だから。これなんだけど」

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