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55 再会

 年の瀬も押し迫る師走の某日夕方。

 東京ドームは、ガールズ達が大半を占める熱気で溢れていた。


 今日はストファイのコンサート。

 美咲達も久しぶりに参戦だ。前楽園駅近くで待ち合わせる。


《吉澤:久しぶり! 元気?》

《美咲:吉澤さん、お久しぶりっす!》

《アッキ:モモミ、もうすぐ着くよ!》

《美咲:アッキ元気そうだね!》

《ミニヨン:ミサキョンおひさ〜 楽しみ!》

《美咲:ミニヨン、待ってるよ!》


 前々からの約束通り、美咲は久々に仲間3人と落ち合う。

 チケットも完璧にゲットした。


 凄まじい引力でファン達を吸い込む東京ドームは、沸騰して爆発しそうなほどに、熱く燃えている。


 大翔にも美咲手作りの応援衣装を着せ、託児所に連れて行く。


 一度一緒に観たことがあるが、鼓膜が破れそうな騒音と異世界へ行って大翔を省みない美咲の姿に、拒否るようになった。


 すまん、許せ。


 いよいよ開演のブザーが鳴る。

 真っ暗なステージが突如明るくなり、色とりどりのレーザー光が乱舞し始める。


 するとファン達は総立ちになり、歓声が一気にマックスとなった。


 夢の世界が幕開く。


 キャーーーー!!!!

 サコーーーーー!!!!!

 ミツジュンーーーー!!!!


『みんな! 元気だったー?』


 リーダーのかけ声でボルテージは最高潮、一曲目から激しいダンスを踊り出す。東京ドームは震動で揺れ、二階席はブチ壊れそうな勢いで、二時間半のコンサートが始まった。ド派手な手作りうちわをふり、今ばかりは一人の女になって絶叫を上げる、美咲であった。


 ……

 

 アンコール曲も終わり、宴の刻は儚く消え去り、現実へと引き戻される。

 ファン達の熱気ある発汗は、師走の冷たい空気と触れ、ドームから駅まで霧が立ち上っていた。幾らガールズ達が主だとは言え、やはり汗はちと匂う。


 そんなのは気にせず、美咲は久々に純真な乙女となってサコに会え、充足感で満杯だ。もちろん戦友達と一緒に帰りつつ、さっきまで居た夢の世界に未だ浸っている。


「ふ〜 やっぱ最高!」

「来て良かった〜」

「ミサキョン、ありがとう!」


 最初は1人で来ていた美咲が、徐々にネットや現実で知り合ったストファイ仲間だ。

 思い思いの衣装と小物を身につけ、各々の推しに忠誠を尽くす姿は眩く、絆は限りなく尊い。


「どうする? いつものお茶する?」

「そうだね〜」


 そう言いながら駅近くにある馴染みの喫茶店に入ろうとした時、


「おばちゃん?」


 突然、背後から懐かしい声がした。

 振り返ると、レオが1人で立っている。


 富崎さんもおらず、本当に1人だ。

 ダッフルコートでフードを被り、顔を少し隠していた。


「久しぶり」 

「ああ、どうも。突然どうしたの?」


 美咲は意外な出会いに、目を丸くした。


「おばちゃんに会いたくなってね。小村さんだっけ? に聞いたらここだって。元気?」

「ええ、おかげ様で。やっと落ち着いて来たから、そろそろ次のお仕事探そうと思っているとこよ」

「それでこのコンサート?」

「良いじゃない、息抜きしたいんだから」

「いえいえ。そうだよね。んじゃ、まだ無職?」

「そうよ」


 美咲は少し不機嫌になったが、対照的にレオの顔は明るくなった。


「良かった。また戻って来られる?」

「え?」

「やっとね、アネキに対抗出来る武器を用意したんだ。一緒にやれる?」

「武器? 殺したり傷つけるのはちょっと……」


 あの温かいピカ吉を思い出すと、殺生には抵抗があった。


「ああ、ごめん、ごめん。武器って言うと、語弊があるね。とにかくあいつらに対抗する算段はついたよ。それで、おばちゃんの力が必要なんだ。どう?とりあえずあの携帯つけといて。また連絡するから」


 それだけ言うと、レオはあっという間に雑踏へと消えて行った。


「なに、あのイケメン? LINES持ってるの、モモミ?」


 アッキが目ざとく反応する。フードで隠しても、女の感は鋭い。


「会社の人だよ」

「ミサキョン良いなあ〜 大翔くんも将来有望だし。うちの会社オヤジのセクハラばっかで」

「セクハラあるだけ良いじゃん! こっちは女ばっかで四十前半の禿げ男を巡って激しいバトルだよ!」

「まあまあ」


 喫茶店に入ってからも、スマホをいじる大翔をよそに女達の会話は延々と続く。

 語り尽くして流石に大翔も眠くなった時に、帰宅する。

 布団に入っても、美咲はまだ興奮気味だ。


 そのせいかレオとの会話も夢心地で、現実か幻だったか判然としなくなりそうな美咲であった。

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