54 お酒はほどほどに
「ああ、おめえホントに分かってんの?」
「だから、カトガワ三人娘の1人は渡辺紀子だって言ってるじゃないですか!」
「じゃあお前、キャンテースのメンバー全員フルネーム言えるか!」
「そんなの知りませんよ!」
気がつくと浩と直樹で、何やら議論がヒートアップしている。
「じゃあイドオンとガンドムとボトムスで監督違うのどれですか?」
「アニメなんか知らねーよ! じゃあ東京ジャイアント九連覇の次に優勝したチーム知ってるか?」
「え、阪神チーターズじゃないんですか?」
「何言ってんだ、だから若い奴は……」
「老い先短いくせに」
「あぁ! なにぃい!」
浩リーダーは、今にも直樹につかみ掛かりそうな勢いだ。
「ちょっと、今日は皆いつもの着てないから、浩さん暴れたら止められないですよ」
富崎さんだけ、冷静に状況を把握している。さすがプロの執事。
だがみんな悪酔いしていて。収拾がつきそうにない。
「リーダー、大人なんだから駄目っすよ〜」
無駄に美咲が絡みに行く。
「お、美咲くんだ! 良いおっぱいしてるね〜 僕にもムギュしてよ、ムギュ〜 ぐほっ!!!」
ハグの代わりにみぞおち一発が入り、哀れ浩は昇天した。
油断した浩の、自滅とも言える。
「だいたいミサキさあ、あんたこれおっきすぎんのよ〜」
彩が、今度は急に美咲へ絡み出した。何が大きいかと言えば、胸についてるおっぱいだ。
「いやあ、すいません……」
ちょっとここは彩の顔を立てる。
「何よこれ! ほんと良い揉み心地じゃない! どうせ私なんか、貧乳ですよ、ヒンニュー!!」
そう言いながら、執拗に美咲の胸を触り続けた。女だから気持ちいい場所を知ってて困る。
「あ、やめてください……」
先輩である手前もあり、浩のようには対処出来ない。
「アヤ、ちょっと困ってるから」
直樹が助け舟を出す。
「アァアア? じゃあナオキ君の〜ちょっと良いとこ見ってみたい!」
突然、彩がコールをかけ始め、沢山のお酒が直樹のグラスに注がれた。日本酒なのかウィスキーなのかワインなのかテキーラなのか、何だか良く分からないが危険を感じさせる色だ。直樹は彩の迫力に気圧されて、飲む選択肢しかなかった。
宴もたけなわ、と言うか皆やけになって好き放題し始めた結末は、当然の帰結であった。
「……お客様、申し訳ありませんが、続きはお外でお願いします」
ガタイの良い店員達がやってきて、半ば強制的に追い出される。
外に出ると皆特に何も喋らず、思い思いに帰り始めた。
彩がぼそっと「計画通り」と言いつつヘロヘロの直樹を連行した気もするが、定かでは無い。
美咲も酔っ払って、その後どうやって帰ったのか憶えていなかった。
気付いたら家の玄関近くでだらしなくのびていて、明け方に大翔に起こされる始末であった。
ただ、拳に返り血がついていた。
朝、小村さんにお願いする訳にいかず、吐きそうになりながら自転車を飛ばし保育園へ送る。
帰ってくると、またぐったりと横になった。
これからどうなるのか……
(ま、お金もあるし、何とかなるっしょ)
こうなってもあまり深く考えない、美咲であった。




