52 一時休止の案内
それから数日経ったある日。
何時ものように大翔を保育園に送り、家で掃除をしていた時のことである。
ふとLITの社用携帯を見ると、着信ランプが付いていた。慌てて画面のロックを外す。メールだ。
《緊急ミーティングをするので明日夕方、代々森公園の噴水前に集合。 レオ》
いたずらかと思ったものの、翌日気になったので行くことにした。
代々森公園は羽赤駅近くにあって、電車を三つぐらい乗り継ぎ、少し遠い。
学生かなにか自由な人達が怪しく踊りの練習をしている中を通り、公園の噴水近くに行ってみると、確かにレオと浩、直樹と彩、それに富崎さんがいた。こんな場所で会うのは、不思議な気分だ。レオは、心無しか痩せたように見える。
「おばちゃんも来たね、ありがとう。みんなも良く集まってくれた。ご苦労様。
遅くなったけど、今日をもってLITは表立った活動を一旦休止するよ。
研究所が駄目になったし、マスコミとか色々面倒だからね。他の人達には明日伝える予定。まあ仕方ない。こっちの事情だし、君らは正社員だから、あと二年分支払うよ。それで良い? 今までありがとう。後の事務手続きは富崎に全部任せているから、細かい事は聞いといて」
あのメールから覚悟はしていたが、やはり心に穴が開いたようだった。
今までの職場とは全然違う人達で、なんだかんだ楽しめていた。
赤川コーチの特訓も懐かしい。
レオは、「何か質問は?」と皆に聞いた。
「すいません、使ってた製品持ってるんですけど、どうすれば良いですか?」
気になって美咲は聞いた。あの時に持ってきた製品は、押し入れに詰めて誤魔化している。
「そうだね。機密事項だから本来は回収だけどね。けどおばちゃんだったら、持ってて良いよ。どうせ誰かに渡すなんてないでしょ? 一応、子供の遊び道具ぐらいにしといて。外で使ったら一大事だから」
まあその通り。他の質問はなく、少し沈黙が続いた。
そろそろ終わるかとレオが帰りかけた時、
「あの……」
浩リーダーが弱々しく手を挙げた。
「飲み会やりませんか?」
▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶
何事もタイミング、だ。
あれは保護者会の打ち上げ時だった。由美ちゃんのパパ、大学生のとき男7人で何故かトラえもんの子供向け映画を観に行ったそうだ。何でそんな話になったのか覚えてないけど、周りの父兄さん達は笑っていた。
「どうして行ったの?」
「それが切符買う時も、皆無言で牽制しあうだけで、誰も止めなかったんですよ。そしたら買うしか無いし、買ったら入るしか無いですわな。もう周りは親子ばかりで気まずかった、気まずかった。まあ、今となっては良いネタですけどね」
その由美ちゃんパパの気持ちが良く分かる飲み会に、美咲はいま参加している。
普段の移動時でもお通夜なのに、何で好き好んでこのメンバーで飲まなきゃならないのか。呼びかけたリーダーも含め、皆分かっているけど仕方ない。最後だし、通過儀礼だろう。たまたま立ち寄った羽赤駅前の居酒屋一軒目で人数分空いてたのが、運の尽きだった。
「何飲みます?」
「取りあえず生中で」
「僕も」
「私はウィスキーのロック」
「わたしは杏サワーで」
「僕はウーロン茶」
「すいません、温かいお茶でお願いします」
飲み物が行き渡り、型通りのレオの挨拶とリーダーの乾杯で始まった宴会は、二秒で沈黙した。
何か喋った方が良いと分かりつつも、この場を和やかにする会話が思いつかない。
席の隣り合わせが浩と直樹、彩と美咲、レオと富崎さんであるのも、普段と変わらない。
これはまずい。時間は進むだけの一方通行だ。宴の時間は容赦なく流れて行く。




