51 デビュー
『本日はコメンテーターとして、タマーランド支配人の猿渡池辰也さんにお越し頂きました。こんにちは、猿渡池さん』
『ええ、こんにちは』
大翔を送った後に点けた朝のテレビ『八時だよ!』に、猿渡池が登場していた。最近よくテレビでよく観る。直接会ってはいないが、知った顔がテレビに映るのは、不思議な気分だ。
少し前、彼等は衝撃的な記者会見を行った。
▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶
『えー、ほ、本日はお忙しい所お越しいただき、誠にありがとうございます。それでは最近巷を騒がす光る生物とタマー遊園地跡に関し、わたくし猿渡池辰也から、説明させていただきます』
あれは昼間二時のワイドショーだった。
高級ホテルからの生中継で、偶然美咲も観ていた。
あの時の悪役らしい黒マントに変な服と異なり、まともなスーツ姿だ。
立ち上がり一礼すると、フラッシュが焚かれる。
『テレビとネットで話題になって久しいですが、準備が遅れて正式な記者会見が今になったことを、お詫び致します』
再び丁寧なお辞儀をする。
フラッシュの嵐にも耐え、一分ほど同じ姿勢だ。
『それで本題ですが、私達は最先端の技術開発を行っている集団で、この度、最高の技術を駆使して新たに作ったロボット生命体を開発しました。《ケラミュ》と呼んでいます。いま、その中の一体を連れて来ました。おいで』
そう言われ会見場に現れたのは、ピカ吉だった。
その姿に、感歎の声があちこちから上がる。
『挨拶して』
『はじめまして、ピカ吉と言います』
オーー
喋る!
スゲエーー
会見場はざわめいた。正にプチモン。
ゲームやテレビの世界から、そのまま出て来たかのようだ。
『これだと仕込みと思われますからね、どなたか質問して下さい』
『え、BNNテレビです。じゃあ私の隣に居る方の服装を言って下さい』
『質問ありがとう。黒のスーツにノーネクタイ、朝毎放送の方ですね』
『毎朝東京新聞です。最近興味のあることはなんですか?』
『他のケラミュ達とタマーランドで披露する予定の、ダンス練習です』
『好きな芸能人は居ますか?』
『特にはいないです』
その仕込みでは無い会話に、会見場の雰囲気も驚きに包まれていた。猿渡池の話は続く。
『えー、このようにピカ吉を始めケラミュ達は、従来のロボット工学とバイオテクノロジーを駆使した融合体で、自然な動きも出来ますしAIで自律的な行動も可能です。生物のように体内でエネルギー産生しているため体温もあるから抱きつけば温かいです。
それで、何故この製品をお見せしたかと言いますと、この度タマー市にありましたタマー遊園地跡を購入致しまして、このケラミュ達と一緒に遊べる、《タマーランド》を開園する運びになりました。
その準備中にヒトダマ騒ぎも起こって釈明したかったのですが、如何せん最高機密の技術で盗もうとする輩もおり、準備中は存在を公に出来なかったので、今となった次第です。例えばこのように、産業スパイ達の暗躍がありました』
会場には、YourTubeでも一部アップされていた、美咲達の動画の写真が映されていた。
『やはり天は見ていると言うか、こいつらは先日壊滅的な打撃を受けて消滅し、今はこうやって安心して発表出来るようになったのです。
そしてタマーランドですが、単なる遊園地ではありません。私達もケラミュの改良に日々精進する必要があるので、研究所設備もありますし、また日本文化に触れる為の美術館や博物館も建てる予定です。また料金は格安で、子供達は無料でこのケラミュ達と触れ合う事ができるのです』
辰也が話し終えると、スライドでタマーランドのCM映像が流された。
プチモン達やペッピーやガンドムなど、見慣れたキャラが実体化され本当に動いている。
『それでは質問の時間に移りたいと思います。どうぞ』
『タマー遊園地跡の買収に怪しい団体が関わっていると言う噂がありますが、本当ですか?』
『いえ、タマー市長と都と交わした契約に、不備はないと思っております』
『版権はクリアしてるんですか?』
『勿論、各社から承諾を取り付けております。日本文化振興のために快諾していただきました』
『従業員はいないのですか?』
『はい、正確に言えば別棟にオペレーターが常駐し、非常時は問題無いように対処いたします』
『週刊誌によれば官邸の意向があるとか書かれていましたが、実際のところはどうなのですか?』
『いえ、そう言った事はありません』
▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶
あの記者会見から猿渡池の知名度は全国区となり、テレビ受けが良かったのか、時々コメンテーターとして登場する。また時折かみながらも微妙なコメントが受けて、ちょっとした有名人だ。
「たっちゃん上出来!今日も格好良かったよ!」
収録終了後、ジェニファーから連絡がきた。
「ありがとうございます、創造主様。しかしああいうのは苦手で……」
凛々しかった記者会見とは裏腹に、猿渡池は疲れ切っていた。
「タマーランドの計画の為にも頑張って! 明日のテレビもサービス、サービスぅ♪」
「あ、はい……」
得意では無いが、心地よい疲労感の猿渡池であった。
某日某所にて
「レオ様、今回ばかりは残念でしたね」
「ああ、どうも。それでアネキ達のバックには、誰がついてるの?」
「かなりの大物のようです。官邸も逆らえないとか」
「あちゃー、こりゃ、復活も厳しいか」
「お辞めになるのですか?」
「なんで? そんな訳ないじゃん!」
「その言葉を聞いて、安心しました。何かありましたら、何時でも言って下さい。力になります」
「ありがとう。じゃあね、龍乃宮君」




