49 ゼルネロス、強し
そう言いながらゼルネロスは天を見上げた。すると頭にそびえる二つの大きな角が、今度は電極の役割を果たし、オーロラのような眩い光が頭上に輝き始める。そしてその光はゼルネロスの周囲から、波動のように広がっていった。
浩もレオも、倒れている美咲や直樹、彩達も、何が起きたのか分からず、一瞬の間があいた。
ガガガガガガッ
突然山林で咆哮が起こり、未だかつて経験したことがない大地の震動が、襲いかかって来た。
キャーー!!
うわー!!
一メートルの移動すらままならないほどの、激しい揺れだ。その長さは数十秒程度かも知れないが、おさまった後も起き上がれない美咲達に対し、ゼルネロスは悠然と構えていた。
浩はふらつきながらも立ち上がり。更に攻撃を繰り出す為にルタンチャーをアックス型へ変えた。
『勝負は既に決している。諦めるが良い』
無表情ながらはっきりと勝利宣言するゼルネロスを、浩はきっと睨みつけると、
「まだまだぁーー!!」
とルタンチャーを投げつけた。だがゼルネアスは瞬時にバリアを張り、ルタンチャーは勢いも虚しくバリアにはねつけられ、乾いた音をたてて地面に落ちた。
更にさっきの余韻も覚めやらぬまま、再び揺れが起きる。
だが今度は地震と言うよりも、大地の奥で爆発したような感触だ。
「すいません、ピカ吉を封じ込めるゲートが壊れました! 逃げていきます!!」
地下から通信があったその刹那、更に一段と大きな爆発が、LIT全体を揺るがした。いつの間にか玄関に、ピカ吉がいた。久々の地上を満喫しているようだ。
『やあ、そろそろ帰るね。色々ありがとう。ここが無くなるのは残念だけど、楽しかったよ』
和やかな声で話しかけて来ると、ケラミュ一団に加わり、何処かへと去って行った。彼等を止めようにも、断続的に続く揺れでは跳ぶのも敵わず、美咲達は無力だった。
もうゼルネロスしか、残っていない。
『残念ながらそろそろお暇するが、君たちも逃げた方が良いぞ。あちらをご覧』
そう言われてゼルネロスが示す方向をみると、直樹の仕事場がある湖畔の更に向こうにある山頂から、もうもうと煙が立ち上がり始めたかと思うと、急に雷鳴が轟き、噴火した。
ゴゴゴゴゴーー!!!
山には火柱が立ち上り、火砕流が谷を駆け抜け辺り一帯を火の海にする。そして流出するマグマがゆっくりとだが確実にこちらへ迫って来るのが、はっきりと見て取れた。これはかなりヤバ過ぎる。
「全員退避!!」
浩はリーダーらしく言うと、カッタクルスを自動操縦で呼びだした。幸い間に合ったようだ。
『では幸運を』
そう言ってゼルネロスも、ケラミュ一団を追いかけ去って行った。吹き上がる溶岩と噴煙で見えないが、皆の研究室はもう跡形も無く破壊され消え去っただろう。幸いなのは、湖が防波堤の役割を果たし、マグマがこちらに接近するまで時間を稼げたことだ。
既に反対側の岸辺に到着したマグマは、水と接して、蒸気が凄まじく吹き上がっている。他方からもマグマが近づいて来るので、どちらにしても此処が飲み込まれる運命は免れない。
やがてカッタクルスが到着した。格納庫にあるトラックも含め、従業員を全て乗せた。フェンガーやエラーラも使いたいが、空中に舞う火山灰のリスクがあるから、無理だ。
「レオ、富崎さん、早く!」
一番遅くに館を出た富崎さんとレオは、色んな品物を持ち込んできた。恐らく大事な品なのだろう。マグマが建物まで到達するよりも前に、カッタクルスは出発し、脱出に成功する。
疾走するカッタクルス後部から見えた景色は、噴火して暴れる山と、燃え盛るLITの姿であった。道中は皆疲れ切り、殆ど無言だった。
突然の大惨事に呆然となりながらも、無事避難をやり仰せた美咲達は、疲労困憊で帰宅した。念のため、小村さんにお願いしていて良かった。もうクタクタで何もする気が起きない。
【臨時ニュースです。本日午後四時十五分頃、埼玉県と群馬県の県境にある浅母山が噴火しました。半径十キロ圏内が、現在立ち入り禁止となっています。繰り返します……】
夜のテレビニュースでもこの話題が出ていたが、現場は何も映し出されなかった。




