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47 地上に出たら……

「まずい!」


 珍しく浩が先頭になって、地上へと戻った。

 この前の敗戦を、気にしているのかも知れない。


 5人が地上に出ると、玄関には、先日より大勢のピコチュウ達が埋め尽くしていた。その様は圧巻で、キューキュー鳴く声は、可愛いよりも恐怖の方が遥かに勝る。


 いや、ピコチュウだけではない。プチモンに出てくる、様々なプチモンスターらしき姿があった。プチモンGOをやっている人がこの場にいたら、垂涎ものだろう。だが仮想空間(バーチャル)ではなく現実にいるプチモン達は、全く友好的ではない


「うわー、ヒトカゲン! ゼニノカメ、カビドン、イーブウもいる! 池にはケロマチ! あ、ルチャブリとモフクロー飛んでる! やっぱ可愛い〜」


 美咲だけは興奮気味にまくしたてるが、他の誰も聞いてない。そもそも相手は敵だ。


「彼等は攻撃モード?」

「いえ、特に変わってないですけど」

「しかし、まずいなあ。やっぱり取り返しにきた?」

「そのようですね」


 向こうもこちらを見てフラフラと揺れているが、まだ襲いかかってはこない。様子見らしい。決断力がない浩も同様、お互いに対峙するだけで、暫く時間だけが過ぎた。


 すると突然プチモン達は、モーゼが海を渡った時のように、さっと道を開け始めた。そこには一本道ができ、その道を一匹の大きな獣が、ドシンドシンと迫力をもって歩いて来る。


 それはピカ吉より遥かに大きく、鹿かトナカイのようだ。

 その獣が持つ威厳は、5人を圧倒した。


「あ、ゼルネロス!」


 美咲は思わず叫んだ。大翔と映画で観た時のポケモンに、良く似ている。大きく苔むした角は荘厳で、何者も寄せ付けない風格を漂わせていた。


「これならルゴアとかホーオウとか来ないかな〜」


 美咲だけ、別の世界に行ってる。


『諸君に告ぐ』

「うわ、こっちも喋った!!」


 先ほどピカ吉と会話をしたから免疫はあるものの、やはり驚く。

 浩は硬直して、何も言えなくなった。


 ゼルネロスみたいな巨大トナカイは、落ち着き払っており、低くよく通るバリトン声で演説を続けた。


『我が主からのメッセージだ。受け取ってくれたまえ』


 そう言うと、角を利用した立体映像が、空中に現れた。

 そこには、男の姿が映されている。


『え、え、マイクテスト。あーいいか。こほん、LITの諸君、はじめまして。我が輩は、秘密組織MGの幹部だ』

「あ、猿渡池辰也さんじゃ?」


  おもむろに彩が言う。


 その声を聞き相手を見ると、男は酷く驚き、狼狽した。

 どうやら、生放送のようだ。


「え、あんたは下前谷? あ、あー今はそれは置いておく。と、とにかく諸君! 我がMGのケラミュを返してもらおう! そもそもお前らが勝手に盗んで行ったんや、犯罪や! 返してもらうで!」


 男は正体がバレて酷く慌てたが、何とか言いたい事は、言ったらしい。


「そっちの方こそ犯罪に使ってんじゃないの? ガンドムやペッピーの件もあるし」


 レオが答える。


「な、何でそれを知っとるんや! いいから返せこら、ガキ! 怒るでしかし!!」

「そう言われると、返したくないな。ちゃんと正式な依頼もあったんだから」


 レオは全く屈しない。


「レオ、いつからそんな聞き分けの無い子になったの?」


 画面が突如切り替わり、美少女が現れた。


「あ、アネキ!」


 今度は、冷静だったレオが驚愕の顔になり、急に態度がソワソワし始める。

 初めて見る、レオの姿だ。


「姉?」

「え?」

「なに?」

「マジ?」

「ホンマか?」


 2人を除いてこの場にいる全員が、驚いた。


「そうよ〜 あんたのおしめを替えたの、誰だと思ってるの? いじめっ子に泣かされて仕返ししてあげたの、だれかな〜? もっと秘密言っちゃう?」


 相変わらず美少女はドSのようだ。


「う、う……」


 明らかに、レオの歯切れが悪くなった。

 これが彼の弱点か。仕方が無い、姉とはそんな存在だ。


 生まれた時から自然と側に居た自分の同類を頼るのは、人間の本能であろう。生まれたてで右も左も分からない世界で優しくされたら、先導者と勘違いしても不思議はない。


 そうなるとしめたもの、立派なシスコン弟の出来上がり。思えば、生まれた時から負けている。生まれてこのかたずっと姉に振り回されている美咲には、レオの気持ちが少しだけ分かった。


「それにアネキ? いつからそんな呼び方になったの? 昔みたいにジェニファーちゃんて、呼んで欲しいなあ?」


 姉の目は笑ってない。


「じぇ、ジェニファーちゃん……」


 思春期の少年にこれは屈辱だが、レオは黙って応えた。

 過去、よっぽどの事があったようだ。


「じゃあ、私の作ったケラミュちゃん、返して欲しいんだけど? いい?」


 ジェニファーと呼ばれた少女は、畳み掛けるようにレオに命じた。


「いや、アネキそれは……」

「ジェニファーちゃんでしょ!!!! 何それ! 私が足し算かけ算つるかめ算、数学もろもろ、ε-δ論法、プログラミング、人工知能、ディープラーニング、情報科学、古典力学、流体力学、ロボット工学、ロケット工学、電気工学、機械工学、精密工学、エンジン工学、相対性理論、量子力学に量子化学に量子生物学、電磁気学、物性化学、有機化学、無機化学、薬理学、材料工学、地学天文学、地質学、金属学、分子生物学に水産学に畜産学に発酵学、医学全般、看護学、薬理学、建築学、哲学、近代経済学、マルクス経済学、西洋史に日本史、漢文、古典、それにちょっとエッチなこと教えてあげたの忘れたの!!!! 分かったわ、交渉決裂! 存分にやっておしまい!!!」


 少女は急に怒り狂い、通信は遮断された。

 あたふたするレオの様子が、少し可愛い。


 だがそれよりも、ケラミュと呼ばれたロボット達が、一斉に動き出した。

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