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45 正体

 数日後、美咲は再びLITから連絡を受けて出社する。

 指示を受けて会議室に行くと、そこには珍しくメンバー全員がいた。


 レオもいる。まだ夏休み前の筈なのに、学校は大丈夫なのか謎だ。

 浩リーダーは美咲が来ると軽く挨拶を交わしただけで、目を伏せていた。

 直樹も含め、どうも美咲を見る雰囲気が最近変わったようにも感じる。やり過ぎたか。


「ようやく許可が下りてね。あのピコチュウ見に行こう。彩さん案内して」


 そう言われ彩は先頭に立って会議室近くのドアを開き、美咲が初めて見る階段を下りて行った。かなり深い。外はサンサンと照りつける夏であるが、地下深いせいか、冷え冷えしてきた。


 下りた先には仰々しく大きな扉があり、彩がカードをかざすと扉は音も無く開いた。入室すると、無機質な部屋の中には、白衣や帽子がおかれていた。


「感染保護用の無塵服です。99.99%大丈夫とは確認していますが、部屋の構造上もあるので、念のためお願いします」


 彩からの簡単な説明を受け、それぞれ白衣と帽子、マスクを付けた。更に続く扉の先にある小部屋へ1人ずつ順番に入り、勢い良くエアシャワーの風に吹かれた。その後、先に続く扉を開くと、やはり無機質な、少し薄暗い通路が続いていた。地下だから窓も無いし、ずっとこんな所にいたら気がめいりそうだ。一番最初に入って待機していた彩が、全員を確認して奥へ進むと、再び大きな部屋に出た。


「これで最後です」


 少しこもった声で、彩が説明した。


 静かな空間では、やはり白衣を着たオペレーターらしき人達が3人ほど、何やらモニター管理をしていた。そして前面は分厚いガラス張りで遮断されており、その先にある完全隔離された透明な飼育室の中に、ピコチュウがいた。ガラス張りだから、手に取るように様子が分かる。


 殆ど動かず、寝ているようだ。夜行性なのかも知れない。ずっと見続けると、美咲は直ぐにでも抱きしめて一緒にゴロゴロしたい衝動にかられる。あの柔らかい感触を思い出すとよだれが出そうだが、恥ずかしいのでぐっと堪えた。


「飼育室の周りは電気を通さない絶縁体にしてあるから、大丈夫」

「通気口から脱出する可能性は?」


 直樹が、不安げに聞く。


「絶対にないです」


 彩が即答する。


「取りあえず名前が無いのもなんだから、《ピカ吉》って呼んでます」


 続けて彩が言った。


 ……


 微妙な静寂の間があったものの、異論は出ない。

 直樹は何か言いたそうだが、結局無言だった。


「じゃあこのピカ吉に関する解析を、彩さんから」


 直樹が場を取りなす。


「はい。まず結論から言うと、これは遺伝子改変動物じゃありません。完全人工合成の生物、というか生物とロボットのハイブリットです」

「どういう事?」


「fCTで全身を高解像度スキャンた結果、骨格系は人工骨で使う特殊プラスチックが用いられ、脳は神経とグリア細胞からなる構造に加えて30%ほどプリント基板が組み込まれています。また胴体、手足にもメモリチップやCPUが埋め込まれています。関節はモーターでは無く脊椎動物と似たように軟骨や腱からなる構造物で、恐らく脳か他からの命令で伸び縮みします。

 普通ロボットの関節はモーターとギアの組み合わせからなりますが、このようにピカ吉は限りなく動物に近い構造を模倣しているので、多様な動きを可能にしています。あと非常に特徴的なこととして、生物と同じ柔らかい感触のあった肌や体内の構成物は、《チープセル》から構成されています。触ると温かいのは、ミトコンドリアによるエネルギー合成の結果です」


「チープセル?」


 浩がいぶかしそうに聞く。


「細胞の廉価版と言うべきもので、五年ほど前にドイツのオズワルド博士が発明したものです。

 最小限の構成物で出来た細胞で、埋め込まれた幹細胞以外に増殖能はありません。あとピカ吉の持つまともな臓器は、肺だけです。酸素を取り入れてエネルギー源にするためのようです。心臓はありませんが、呼吸した時、全身が協調して空気を取り入れる仕組みになっています。

 後は構造をとるどのチープセルも、細いケーブルがあってその周りで取り囲むように設計されています。チープセル同士は特異的相互作用を示す接着分子で出来ていて、だから基本、設計者の自由自在に綺麗に並べています」


「ふんふん」


 美咲以外のメンバーは皆、食い入るように聞いていた。表情の様子からだいぶ理解しているようだが、美咲にとっては宇宙語みたいで意味不明だ。


 しかたないから適当に相槌を打ち、分かっているふりをした。

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