44 美咲の反撃
「サービスエース、この一瞬にかけるのです」
浩が次々と繰り出す殺人サーブに美咲は応対出来ず、コートで這いつくばるばかり。芝だから良かったが、これがクレーコートだったら泥だらけだ。
「立って下さい。コートで泣いてはいけませんよ」
息切れして座り込む美咲に、浩は非情な言葉をかけた。どっかの鬼コーチか。しかし、妙にムカつく。勝ち誇るその態度を見て、美咲の闘争心にメラメラと火がついた。
「美咲、まだいきまぁああす!!」
3ゲーム目、やっと美咲もコツを掴んで、サーブが入るようになる。
フォットの力で、瞬間移動並みにネット際によれるようにもなった。
ただやはり浩の方が一枚上手で、15ー40で敗れた。
浩3ー0美咲
「少しはやるようですね。でも手加減なしで、やらせてもらいますよ」
いかにもストレス発散で、浩は含み笑いをしながらジャンピング殺人サーブを撃って来た。今度は何とかラケットに当てたが、凄まじい衝撃でラケットが吹飛ばされた。手首が痛い。
「どうですか? まだ続けますか?」
その和やかな笑顔には弱き者をいたぶるような腹黒さが同居し、正義の味方とは縁遠い顔であった。先ほどの紳士な対応は上辺だけで、こっちが本性のようだ。
「はい、やります!」
だが美咲も、黙ってやられるタイプでは無い。
こんな親父は散々見て来た。
コートでの動きも、徐々に慣れ始める。
「うおりゃぁあ!!」
ラリーもでき、盛り返すシーンも増えた。
浩に、余裕ある笑みが消えつつあった。
「ミサキ、ウィン!」
遂に、40ー30で美咲が1ゲームを奪う。
こうなると浩の弱点、年齢による体力低下が響く。
浩3ー1美咲
「くそぉお!」
浩も本気を出し始めるが、何せ50代だ。汗だくとなり、情勢が不利になりつつある。やがて美咲のスピードは最大値となり、新たな境地へと達した。
「な、何だ……と……」
信じられない光景が広がる。
浩の目には、美咲が二人に見える。高速移動による分身の術だ。
気付けば弾も二つあった。
「うぉお!!」
一進一退のラリーが続く。だが浩には技の持ち合わせが、決定的に少ない。これも時代の差か。
「くらえ、波動球!!」
「ぐほぉ!」
見た事の無い軌跡を描く弾に、浩の動体視力はついていけなかった。
「美咲ゾーン!!」
「うぎゃぁ!」
「ブラックホール!!」
「ぐへぇ!」
「サザンクロス!!」
「げふっ!!」
見よう見まねで繰り出す必殺技が、ことごとく決まった。
もう浩はヘロヘロだ。でも美咲は容赦しない。
「これで最後、超波動弾!!!」
「へぎゃぁあああーーー!」
渾身の一発をまともに受けた浩は、そのまま近くの山まで吹っ飛ばされてしまった。
「ミサキ、ウィン!」
浩(棄権)3ー3美咲
「ふう、良い汗かいたわあ」
美咲は悪びれた様子も無くシャワーをかりてすっきりした後、エラーラに乗って戻って行った。




