42 男は怒り狂う
「申し訳ありません、ケラミュが一匹捕獲されました」
「なんやとぉおーーー!!! 怒るでしかし!!!」
男は激昂し、近くのゴミ箱を蹴り飛ばしかけたが、前の痛みを思い出し、直前でわざと空振った。
「型番は分かるんか?」
「はい、FP-10094601CAです」
「ほなモニタリングして居場所を出すから、あいつら使って迎えに行かせろ」
「御意」
男はモニター室に入り、該当するシグナルをオペレーターに調べさせた。
「該当する個体信号、識別出来ません」
「んな筈はないやろ。ほな拉致された時間帯から追跡せえ」
男はイライラしながらオペレーターに命じた。
「はい、分かりました」
少しの時間の後、
「出ました。群馬・埼玉の県境辺りまでは追跡確認しました」
「モニターに拡大せんかい!」
一面の大画面に、近辺の地図が映し出された。
時系列で、シグナルの移動が確認出来る。
「スピードからして、何かの乗り物に載せられてるな」
やがてシグナルは何かの敷地内に入り、消えた。
「ここは何処や?」
「何かの工場のようです。特に表記はされていません」
「衛星写真を」
「はい」
映し出された敷地は広く、シグナルと合成された箇所は、とある建物の中のようであった。
「どうしたの、たっちゃん?」
モニターが反転し、例の美少女が映し出される。
「あ、創造主様、も、申し訳ありません。ケラミュを一匹、あいつらに奪われました」
男は、モニターに頭がぶつかりそうなくらい平身低頭して、謝り始めた。立派で模範的な謝罪姿である。モニターに映るのならば、ジャンピング土下座もしそうな潔さだ。
男には、あの電気ショックの悪夢が、蘇っていた。
またあれを喰らうのは、何としても避けたい。
「そうなんだ。まあ敵状視察にもなるし、一匹ぐらい良いんじゃない? 通信遮断されてても、きっと今ごろ、向こうのデータを吸い取ってくれてるよ」
意外にも少女は特に怒りもせず、あっけからんとしていた。
「そ、そうでございますか。では暫くそのように」
セーーーフ!
男はほっとした顔をしてモニターを消し、先ほどの部下を呼び出し命令した。
「ゲームは面白くなきゃね。わたしも、遊びに行こうかな」
少女は軽い笑みを浮かべていた。
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ピコチュウを運んでから数日経ったある日、美咲は富崎さんから連絡を受けた。
明日の朝、車をよこすから来て欲しいとの事だ。いつものように大翔を保育園に送った後に、リムジンカーに乗って出社する。そこには珍しく、レオがいた。
「やあ、お疲れさん」
「どうしたんですか?また事件?」
身構える美咲をよそに、レオは笑っていた。
「おばちゃん、それはないよ。それより今日は何の日か知ってる?」
「……社長の誕生日とか?」
「いや、それはもっと後。はいこれ」
そう言われて渡されたのは、正社員証のカードだ。
今までの仮社員証より、しっかりした作りである。
「おめでとう。これで、福利厚生も少し良くなるよ。久々の正社員だから、こっちも嬉しいよ」
「はあ、そうですか」
頭がこんがらがる時もあるが、やる事自体は楽しいのであっという間の三ヶ月だった。給料もあがるから、助かる。お祝いにベエブレードの最新版を買って上げようかな。




