41 ゲットだぜ!
そこには、何体、いや何千体もの光るピコチュウが、一面に蠢いていた。風が吹くたびに、軽い放電の光が、輪郭を伴ってチラチラと輝いている。一面に広がる光の草原は壮観で、青き衣の者が降り立ちそうだ。
「どうします?」
刺激しないように、囁き声でリーダーが皆の回線に繋げた。ピコチュウ達に、まだ反応はない。
睡眠中にもみえる。どうもこのピコチュウ達が、遊園地の電源らしい。
この高台からは、遊園地をすべて見渡せ、奥には大きな池も見えた。
「あの池には、ギャロドスとかいるのかな?」
美咲は思わずつぶやいた。
「何ですか? それ?」
直樹には分かってないようだ。
「みずタイプのプチモンですよ!」
何で知らないのか、美咲は不思議がる。
「ちょっと、数が多いですね」
直樹はそれに答えず、目の前のピコチュウに話を向けた。
「逆に一匹ぐらい、捕獲出来そうですよ」
浩が言う。
「確かに」
それではと、浩はおもむろに麻酔銃を抜き、近くにいる動きの鈍そうな一体のピコチュウ目がけ、打ち放った。うまく、命中する。
キュー!
標的にされた哀れなピコチュウは、小さく叫び、こちらを振り返りつつ、倒れ込んだ。麻酔が効くらしい。
その刹那
キュー、キュー、キュキューー!!
声も出さず大人しかったピコチュウ達が、静かに騒ぎ始めた。一斉に警戒モードとなったようだ。どのピコチュウも、目付きが赤っぽく鋭くなり、眩しく輝いている。
「これ、まずいんじゃない?」
彩が、冷静に指摘する。
「た、確かに…… まずかったですかね?」
自分で撃っておきながら狼狽する浩は、端から見ていても滑稽だった。
「まあ良いよ。捕獲したら速やかに退散」
レオが指示をした。
「了解」
音を立てないよう細心の注意を払いながら、直樹は、先ほど麻酔銃を打ったピコチュウ目指し、慎重にゆっくりとした動作で、一歩一歩近づいて行った。
「怖くないよ、ほら怖くない」
指を噛まれても大丈夫とか、言いそうだ。
自分の世界に入っているのか、直樹は回線がオープンなのも気にしていない。
「それじゃあ、ね、っと」
そっと優しく抱きかかえた直樹だったが、この時点で気付かれない筈は無く、無駄骨だった。
ギャー、ギャー!
原っぱ全体が怒りを帯び始め、青白い野原になったかと思うと、ピコチュウが一斉に動き始めた。まるで一個体の巨大な生物のように、襲いかかって来る。
「逃げろ!」
直樹はピコチュウをひしっと抱きかかえて、元来た崖を全速力で飛び降り、皆も後に続いた。崖の上では騒がしく鳴き喚くが、下りて来る気配はない。動きが制限されているようだ。
5人はそのまま、近くの大通りまで走り抜けた。
「はあ、はあ、はあ。ふうー。大丈夫だった?」
「何とか」
「輸送トラックは?」
「手配済みです。駅前近くで待機しています」
直樹から美咲に手渡されたピカチュウは、スヤスヤと安らかに寝息を立てている。ぬくもりがあるから、やはり生物みたいだ。可愛い。ずっと抱いていたい。
手配していた輸送トラックにピコチュウを乗せると、そのまま解散・帰宅となった。
「彩さんも乗せてもらったらどうですか?」
もう直ぐ出発しそうなトラックを前に、美咲は気になって言った。
「え、何故です?」
「だってその服、背中破れてますよ」
「ホント?」
そう言われ、背中に手を回し感触を確かめると、彩は顔を赤らめた。森か崖で、引っ掛けたらしい。途中から直樹が彩をチラチラ見ていたのを思い出し、少しキレ気味だ。
「ちょうど良いよ、バイオ部門は彩さんが責任者だから、一緒に行って管理の指示しといて」
レオも承認した。
「すみません、ありがとうございます」
おずおずと彩が乗り込むと、トラックは走り去る。
辺りは、週末の静かな住宅街に戻った。
美咲も他の3人と同じ電車に乗って、帰宅の途につく。反対側のホームは変わらず混雑している。だがこちら側はスカスカで、4人とも思い思いの席に座り、会話も無く各自の駅で下りて行った。
(あれ?)
帰り途、1人になった美咲はふと思った。
(わたしたち、これってム◯シじゃない?)
ピコチュウをゲットできた点は違うが、確かにやってる事は、悪役のロ◯ット団だ。しかしこの捕獲が後日LITを揺るがす大事件になるとは、美咲含め、誰も思っていなかった。




