40 光る生き物
夜も更け、やがて5人は目的の遊園地跡近くで合流した。
小村さんに世話を頼んだが、大翔はちゃんと夕飯を食べたのか、少し気になる。
「2人ともお疲れさん。何か異常あった?」
「いえ、特に何も」
「アメリカの軍事衛星をハッキングで一発だけど、昔やり過ぎて反撃されたから待つしか無いね」
「今夜出ますかね?」
「さあね」
その時、不自然にオルゴールの音が鳴り響いた。
はっとして5人が遊園地の方を見やると、いつの間にか遊園地は、幽玄な光に包み込まれていた。
「本当に開いてる……」
「……でもなんか、安っぽい」
ぶっきらぼうに彩が呟いたが、美咲も同感だった。
東京デズニーランドが基準の美咲達にとって、こんな昭和の遊園地は子供だましでしかない。逆にここに居る自分が、恥ずかしくなってくる。
劣化で錆びたのかギシギシ鳴るぎこちない音は、妙にアナログな人間臭さを感じさせる。
「まあとにかく、原因を調べましょう。まずはこの通り奥にある高台に、発電設備がある筈です」
直樹に言われ、メンバーは、哀れに動くメリーゴーランドやジェットコースターを脇目にしつつ、発電設備のある方へと向かった。誰もが気乗りしない足取りだ。
誰もいない遊園地は、やはり虚しい。美咲が子供の頃に遊んだベコニーランドも、数年前廃園のニュースがあった。父との数少ない思い出の地だが、公園かニュータウンになり、もう夢でしか行けないだろう。
「あっ」
メリーゴーランドに、何か乗ってる。外灯やネオンで眩しいが、影の動きと雰囲気から、生き物だ。
飛び降りたそれが外灯に映し出された姿を見て、思わず美咲は無意識に叫び走りよった。
「ピコチュー!!」
「危ない!」
ビカビカビカァアアア!!!!
直樹の忠告も聞かずに抱きついた瞬間、風景がフラッシュアウトし、美咲の記憶が飛んだ。
……
懐かしい。子供の頃に住んでいた家の縁側だ。
お姉ちゃんとよく遊んでたな。まだお父さんも一緒にいた頃の、涙が出るほど懐かしい景色だ。
何だか静かだけど、今日は何の日?お別れ会だからと言われて、真っ黒な服を着せられたけど、パーティーに行くなら、お気に入りのピンクの服の方が良かったな……
あ、お父さんが買ってくれたナンテンドーdDSだ。
大切にするんだよ、と言って突然いなくなったお父さん。
一緒に買って貰ったプチモンをやると、お父さんと話をしている気分になれた。
古くなって周りの友達がやらなくなっても、思い出したようにdDSを取り出して遊んでた。
壊れて動かなくなった時は、一日中泣いたっけ。
大翔にせがまれ久々にプチモンの映画を見たら、昔と違う綺麗な映像でびっくりした。
お父さんを思い出す。元気かな。もう怒らないから会いたいな……
縁側にいる父は、静かに微笑むばかりだった。
……
「美咲、大丈夫?」
「美咲君、大丈夫かい?」
まだ意識が朦朧としているが、皆の心配する言葉に美咲は大丈夫とうなずき返した。
「は、はい」
まだ全身がヒリヒリする。火傷を超えた痛さだ。
「あの放電、凄かったよ。ゼオキュタスだから何とかなったけど、普通だったら確実にアウトだわ」
「そりゃ、十万ボルトですから」
被害者なのに、美咲は何故かしたり顔で言う。
「みんな、これを使って」
そう言ってリーダーから手渡されたのは、小型の麻酔銃だ。
「こんなの効くの?」
「私にも分からないが、動物だったら可能性はある」
「意外に素早いから、注意して。あっちの森の方に行きました。さあ」
狩りが始まる。風が強く巻き始めた。
「いた!」
リーダーがそう叫ぶと同時に銃声がした。
「駄目だ、外れた!」
リーダーが悔しがっている。ピコチュウっぽい生き物は、一筋の光となり疾走していた。
かなりの高速で目視は困難だ。ある程度は勘で行動を先読みするしかない。
追跡を試みるが、森に入ったから木が邪魔で、ゼオキュタスの能力を十分に発揮出来なかった。
「美咲さん、来てます!」
直樹がそう叫ぶと、美咲の眼の前にさっきの生き物が現れた。
突然の出来事でお互いにフリーズしてしまい、一瞬の間ができる。
「撃って!」
リーダーの声がした。
「う、撃てません!!」
美咲は泣きそうになった。動物好きな美咲には、酷な仕打ちだ。
友達を苛める男どもを殴ったり蹴るのは気にならない、というかむしろ快感だ。でも美咲にとって小さなもの達を傷つけるのだけは、可哀想で可哀想でどうしても出来なかった。
未確認生物はその隙を見て、更に走り続ける。
やがて森は小高い崖に突き当たり、物凄い勢いでかけ上がる様子が見て取れた。
その姿は、正にあれだ。
「いける!」
4人はそのままジャンプして、レオはヴォランタペを使って、崖の上へのぼった。
「うわ、」
「きゃ、何これ!」
そこには驚くべき光景が広がっていた。




