39 帰宅ラッシュに巻き込まれ
目立つ格好はまずいだろうと、全員スーツ姿で新宿から京宿線に乗り、聖梅ヶ丘駅までやってきた。
サングラスをかける必要も無いから、ぱっと見、みな一端の社会人のようだ。実際、美咲とレオ以外はそうだったらしいから、不思議では無いのだが。
ただ年齢層も違う夫婦2組に、顔も似てない子供1人の組み合わせは、若干不自然に見えても仕方ない。しかも会話も無く集まるだけで、場違い感が半端ない。通勤カバンの中身も、他と全く違うだろう。
そしてホームで待つ時から、更に嫌な予感はあった。
く、ぐるしいぃ!
力仕事専門の美咲は、夕方の電車も混雑する事実を、知らなかった。小さな彩を必死にかばいながら、何とか目的地の聖梅が丘駅に到着する。男共は知らん。
目的地の遊園地跡は、駅から見える山を更に越えた場所にあるそうだ。フォッティキシュを着てるから、ひとっ飛びで行けるが、目立つことはしたくない。情報収集も兼ね、歩くことにする。
この時間の駅前は、一日の疲労を抱え帰宅の途に着く社会人や中高生達で、静かに混雑していた。建築途中の高層マンションを抜けると、アパートや昔ながらの農家が立ち並ぶ郊外へと続く小径に入り、わずか徒歩十分で、未だ自然溢れる森林風景が、目に入った。一昔前は、ありきたりだったはずだ。
だがそれは猫のひたい程度の広さで、山はどれも切り開かれ、至る所に住宅等の建物が乱立している。大翔と一緒にテレビで観た、平成狸合戦ぽんぽこりんを思い出す。
途中寄り道して、タマ川の河川敷も訪れた。夕焼けに輝く川の水は綺麗で、甘い匂いがする。秋になれば、鮭が上ってきそうだ。
駅から少し離れた場所にある、車通りが激しい環状大通りに、モフバーガーを見つける。まだ夕食をとっていないので、作戦会議がてら入ることにした。レオはお子様セットではなく、普通のモフバーガーセットだ。モフモフした食感が美味しい。
「どうせ遊園地跡が怪しいんだから、直接行けば良いんじゃないの?」
美咲が言う。
「まあそうだけど、他に何かあるかも知れません。5人で行動するのも効率悪いから、僕と美咲さん、リーダーとアヤで偵察しましょう。社長はお一人で良いですか?」
直樹が提案した。
「分かった」
レオはヴォランタペを持って来たようだ。
「良いですよ」
浩も承諾した。
だが、
「え、ちょっとなんで、その組み合わせな訳?」
と、珍しく彩が噛み付いた。
「私とナオキが良いと思いますが?」
「うーん、じゃあアヤと、美咲さんにしようか」
彩が直樹を睨みつけたようにも感じたが、皆知らぬふりをしている。
とにかく、この組み合わせで決まった。
モフバーガーを出た時にはすっかり日も沈み、静かな夜が落ちて来た。車と対照的に、人通りは少なく、エンジン音と時折やってくる電車音ぐらいしか聞こえない。ただ住宅は多いので、何処の家でか、幽かに夕食と覚しき焼き魚の匂いがする。
「美咲、どうする?」
彩は少し苛立った口調で、美咲に問いかけた。
「そもそも直樹もなんなの、あれ。バツイチのくせに」
他にもブツブツ何か言ってるが、良く聞こえない。
「どうしましょう? この辺の地理分からないんですけど」
「あ、それならウェクルスに聞けば大丈夫よ。じゃあ二手に分かれましょう。私はこっちに行くから、あなたはあっちの方から遊園地まで行って、待ち合わせましょう」
「分かりました」
そっけない2人の影が跳躍し、あっという間に見えなくなった。
美咲は周りに気付かれないように、辺りを偵察した。
暫くして山の向こうに出ると、かなり広い敷地があった。ここが、目的の遊園地跡らしい。すっかり廃墟と化した姿は物悲しく、ブラックホールに吸い込まれているかのようであった。




