38 緊急残業
翌日、富崎さんから電話がきた。都合の良い時に来て欲しいらしい。
明日なら大丈夫と告げるとその翌日、指定の時間通りに迎えのリムジンが来て、乗り込む。かなり慣れたものだ。
いつもの建物に到着して会議室に入ると、既にメンバー全員が揃っている。
全員と一緒に会うのも久しぶりだが、表情から特に緊迫した雰囲気は感じられない。
「やあ美咲君、お疲れさま」
「おばちゃん遅い」
「すいません」
「じゃあ皆さんが揃ったところで、始めます」
そういって直樹はプロジェクターを映し始めた。
「これが、最近タマー市で報告されている、怪現象です」
そう言いながら直樹はスライドを動かすと、様々な写真が表れた。
例の、夜の遊園地跡だ。
「単なる愉快犯じゃないの?」
「そうとも言い切れない。これ、地元のカメラマンが偶然映した写真」
直樹がそう言って出した拡大写真には、光を放つネズミらしき生き物がいた。
「こ、これってピコチュウですか?」
思わず美咲が呟いた。
「それを言っちゃいかん」
浩がたしなめる。
「まあそう思っても、仕方ないです」
直樹は苦笑いした。
「正確にはウォンバットの見かけだから、ネズミなんかよりかなり大きいですよ。目撃情報もわずかで、素早く逃げ去ったようです」
「これ、つまり遺伝子改変動物ってこと?」
彩が質問した。
「その可能性は高いね。多分電気ウナギの遺伝子を組み込んでいると思う。発電に必要な遺伝子をすべてこのウォンバットに導入すれば、原理的に作成可能だよ。細かい疑問はあるけれど、不可能じゃない」
平然と言うレオだった。彼なら、作れるのかもしれない。
「何故そんなことを?」
「ジュラシックパークでも作りたいんじゃないの?」
レオはつまらなそうに言った。
「ただこんな生物が野生化して増えたら、それこそ大混乱よ。遺伝子組み換え法にも抵触するし。情報を集める限り、人の気配がないわ。つまり、野生化している可能性が否定出来ないの」
「それは向こうの事情。こっちは関係ないよ」
「ウォンバットのES細胞なんて、報告論文はありません。ですがアメリカの大富豪がペット猫のクローン作製に何億と注ぎ込む時代ですから、お金をかければ、出来るでしょう」
彩さんが説明する。やはりその筋の専門家らしい説得力ある言葉だ。
「たしかに、現時点では特に被害らしい被害はありません。でも放電されて停電になったりすると、色々厄介になります。やはり考えは同じらしく、国と都の両方から調査と捕獲依頼が来ています。社長、受けますか?」
直樹さんがレオに聞いた。
「妖怪じゃないのはつまんないけど、受けますよ。お金も入るしね」
「分かりました。それではどうしましょう。善は急げで、本日の夜にしますか?」
え、本気?
美咲は心の中で反抗したが、他のメンバーは異論ないようだ。下っ端である以上従うほかない。
小村さんに電話して、大翔のお迎えをお願いした。




