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37 幻想遊園地

 久しく漆黒の闇に沈んでいた遊園地は、往時を偲ばせる華麗な光の楽園へと変貌していた。絹恵は、豊や祐子と一緒に来たあの頃を思い出す。今から思えば、幸せな時間といえる。

 

 絹恵が子供の時分は、こんな遊園地なんて皆無だったから、開園時の盛大なパレードには驚いた。ただギシギシ軋む乗り物のぎこちなさに、顔は平静を装いつつも、おっかなびっくりだった。子供の手前つまらなそうに乗っていたけれど、想像以上に楽しく、内心もっと乗りたかった。


 絹恵は取り憑かれた夢遊病者のように、覚束ない足取りで園内に入った。三十年ぶりに見るアトラクションは当時の姿そのままで、やや軋んだ音をたてながら動いている。


 客も警備員もいない。だから、自由気ままにに乗れる。

 メリーゴーランド、回転ブランコ、ジェットコースター……

 どれも、あの時と同じだ。


 ?


 心無しか、さっきの光るネズミが、こっちにお出でと手招きしている。


 誘われて、手始めにティーカップに乗ってみた。遠慮しながら軽く回した昔と違い、思いっきり回してくるくる回り続けるのは爽快だ。


 一度乗り始めたらどれに乗っても同じだと、堰を切ったように絹恵は立て続けに乗り込んだ。メリーゴーランドもジェットコースターも、回転ブランコにも、乗ってみる。

 

 思った通り、とっても楽しい。一人なので周りの目を気にする必要も全然無い。だから、好きなようにはしゃげた。ネズミも楽しそうに、こっちを見ている。竜二や夫をしばし忘れて、いいストレス発散だ。


 一通り乗り終わった後、目の前には大きな観覧車が残されていた。


 これが最後か。


 観覧車は絹恵を待ちこがれるように、ゆっくりと動いている。


 興奮冷めやらぬまま、絹恵は勢いに任せ、自分で開けて素早く乗り込んだ。僅か数十秒の儚い刻だが、てっぺんからは遥か東京湾まで望めて、感動だった。


 昔は昼間だから気付かなかったが、湾に沿った光の街が、地平線一面に広がっている。百万ドルの夜景とか言うが、本当に、宝石がちりばめられているようだ。


 それに比べて足元にある団地は、何か取り残され、昏さが際立っている。引越し当時は団地と同じ高さだった銀杏の木も、今はすっかり大きく育ち、団地を取り囲んでいる。


 絹恵の乗る観覧車がゆっくりと出口に近づき、自分でドアを開けて外に出た。

 その瞬間、パッと光が一瞬煌めき、フッと全ての光が同時に消える。

 さっきのネズミも、既にいない。


 ここに至り、絹恵は何かから解放されたかのように、ハッとした。


(わたし、何してたのかしら……)


 周りには、いつもと同じ、見慣れた寂しい無人で廃墟の遊園地が佇んでいた。

 さっきまでの変わらない筈なのに、一層淋しく感じられる。

 バサバサっと、鳥の羽音がした。


▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶ ▷ ▶


『それでは次のニュースです。最近、不可思議な現象が、ここタマー市で起きているようです。な、なんと、人魂がでるとの噂で、持ち切りです!』


 テレビ番組は、「幽霊!?」の見出しとともに、レポーターの現地報告に切り替わった。


『何でも地元の人の話では、既に廃園となったこの遊園地の遊具が、時々動いているそうです。それでは街の人達に聞いてみましょう』


 ローカルニュースのせいか、かなり軽いノリで、女性レポーターは街ゆく人に話しかけていた。


『私達、何年もここに住んでいますが、こんなの初めてです。夜、遊園地のアトラクションが動くんですよ』

『私も遊園地近くで、走り去っていく光る動物を見ました』

『ただ、誰もいないんです。音も動く音だけで、、とても恐いです』

『以上、現地からのレポートでした〜』


「不思議な事も、あるものねえ」


 夕飯を作る少し前、美咲は大翔と一緒にテレビを観ていた。


 最近は特に事件も無く、希望した日時だけの訓練で済むから、2人の時間も多い。今日は休みだ。

 夕食も、大翔の好きな牛肉いりお子様カレーと味噌汁、ほうれん草の和え物等五品作った。


「今日は七時からプチモンだよ!」 


 夕食後、大翔はテレビに飛びついた。


 五才だからと油断していたが、最近はリモコン操作にも慣れ、プチモンも1人で観られる。

 時間もあるので美咲も一緒に観てみると、主人公やライバルは美咲が子供の頃と一緒だが、仲間や他のプチモンはかなり変わった。プチモンマスターへの道は、十年以上経っても未だ半ばのようだ。


 アニメも終わり一緒にお風呂に入っていると、急に大翔にお願いしてきた。


「ミサキ、久しぶりにちゅーちゅーしたい!」

「もう大きいでしょ、だーめ!」


 流石に赤ん坊じゃないから、もう恥ずかしい。大翔は「ちぇっ」と言いつつ素直に従った。

 そう言えば、最近姉は帰って来ない。もしかすると、寂しいのかもしれない。


「さあ、そろそろ遅いから、もう早く寝なさい」


 食事もお風呂も終わり、夜も九時になったので大翔を寝かし、メインライトを消して残った灯りで、美咲は家計簿と日記をつけ始めた。


(生活も、やっと落ち着いたかな)


 やはりLITの給料は格別だ。以前からの借金も、利子を含め、返済を進めている。

 未だ贅沢はさせられないが、この調子で正社員になれば、この生活を維持出来そうだ。

 習い事もさせたい。好きなサッカーでもやらせよう。

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