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幕間3 おしゃべりはみんな好き

「エリートの家なんて、どこも同じよ。私も親に褒められる為にずっとお受験、勉強勉強。テレビなんて殆ど見せてもらえなかった。おかげでずっとトップで桜陽学園、大学も東大先端医学部だけど」

「はあ、そうですか」


 名前知らないけど、多分凄いんだろうなとは思う。


「……ゆとりって幸せね。でも、レオは本物の天才。あの年で既にロボットやディープラーニング関連の言語を完璧にマスターして、複式深層学習型装置を実際に動かしてる子なんて、世界中どこにもいないわ。ルタンチャーやウェクルス、フォッティキュのコア部分だって、彼なしでは作れなかったの」

「そうなんですか」

「さっきのノイビオロも基本設計は彼で、私は単なるお手伝い。ほんと、才能って残酷なものよ」


 彩は軽く綺麗なため息をつくと、無言で上品に食べ始めた。美咲は共通の話題が思いつかず、無言で変わらずがっつく。流石にこの場でフォークやナイフをガチャガチャと食器にぶつけるのは気まずく、緊張で手が強ばりそうになる。


「社長のご両親て、何してるんですか?」


 とりあえず、さっきの話を広げてみる。

 彩さんのプライベートを聞くより、レオの方が無難だろう。


「分からないわ。執事の富崎も多くは語ってくれないし」

「そうなんですか」

「ちなみにリーダーの浩さんは、昔はとても凄かったのよ。分子次元物理の分野では世界トップクラスで、海外の学会に行くと、向こうの教授達が寄って来て浩さんを取り囲んでいたほど。雑誌のAEKAで、次世代のリーダーにも挙げられてたわ」

「そうなんですか」


 意外な経歴だ。


「けれども学界トップが研究費三億ぐらい使い込みしたのをマスコミに叩かれて、業界そのものが斜陽、そしてお決まりの転落。百億あった文科省からの大型予算が打ち切られて研究室も廃止になったから、そのあおりを食って行き場が無くなったのを、拾ってもらったってわけ」

「ふーん」

「どこか無責任なのも、家族を養うためにイヤイヤやっているからね。お嬢さんは私立の音大生で、無理して世田谷に買った家のローンも大変みたい。ヨーロッパの音楽学校に留学させるって、奥さんからかなり突き上げ喰らってるから、ここの稼ぎでもカツカツみたいね。まあ五〇代なんて、あんなもんよ」

「そうですか……」


 お金が桁違いで、想像できない。

 私立の音大なんて、美咲には夢の世界だ。


 それよりも彩が結構な噂好きなのは、意外だった。

 どこでもそうだが、人は見かけによらない。


「サブリーダーの直樹さんは、人柄だけは良いわ。私達と違って人を見る目があるし、一流企業の営業だったって話もあるし。こんなチームを何とかまとめてるから、優秀な中間管理職かもね。バツイチだけど。もともとアニメや漫画が好きで、この仕事も楽しんでやってるみたい」

「はあ」


 会話の間に挟まれるバツイチの言葉が、妙に引っかかる。


「まあ私もどうせならって、YourTubeで動画たくさん見て研究したのよ。結構面白いのもあるのね。今のコスチュームもプチキュアを参考したんだけど、どうかしら?」

「良いと思います」


 無難に即答する。年不相応とか、余計な事は言うまい。


「ありがと。そう言えば、あなた結婚してないのに扶養家族いるのね。何故?」

「まあ、色々ありまして……」


 ここで本当の事を言ったらすぐ広まりそうなので、ごまかす。


 美咲は面接時の、「あまり個人の詮索はしないで下さいね」という直樹の言葉を思い出した。プライバシー保護かと思ったが、ここにいる人達は、詮索して欲しくない人達ばかりなんだな。


「そう。人生色々よね。私はこんなだから結婚は未だだけど。あ、相手がいなかった訳じゃないのよ。お互い仕事が忙しかっただけ、すれ違いすれ違い。なのに前にいた和美は、結婚したらすぐ妊娠しましたとか言って辞めちゃって。もう女なんか面倒でうんざり。その点あなたとは上手くやれそうかな……」


 その後も延々と彩の独演会は続き、やっと解放されたのは五時を過ぎていた。

 これは本当の意味で、やばい。



「おそ過ぎ!」


 大翔に怒られる。


 保育園に自転車を飛ばして行ったものの、着いたのは七時だ。

 すでに他の子供達はおらず、先生と一人で淋しく遊んでいて、申し訳なく思う美咲であった。

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