幕間2 女2人でお茶タイム
女子会か。言われてみたら高校辞めてから周りはムサい男ばかりで、そんな機会はなかった。終業時刻少し前に入口で待っていると、しばらくして彩がやって来た。先ほどより疲れ気味に見える。
「ごめんなさい、さっきあなたが同期した猫ちゃんのニューラルネットワークデータを解析したら、時間がかかっちゃって。さ、行きましょ」
既に手配されていたリムジンに乗ると、彩さんは運転手に、「銀座へ」と告げる。近くのトトール辺りを想像していたので、行き先に面食らう美咲であった。
りんかい線のおかげで池袋や新宿、渋谷、お台場には馴染みがあるが、銀座は知らない。2人で乗るリムジンも初めてで、何を喋って良いか分からず緊張して、話をするどころか息苦しい。
「美沙さん」
「は、はひ!」
緊張で、声が裏返ってしまった。
「LITには慣れました?」
「え、ええ。変わった人ばっかりで、前の職場よりヤバいです」
ヤバい、褒め言葉になってない。
「まあ、そうね」
彩は苦笑いをしていた。
その後は特に話を繋ぐでも無く、静寂の時が広がった。
これは本格的にヤバいかもしれない。やがてリムジンは、銀座に到着した。
生活圏から遠く離れた異世界に迷い込んで、美咲は戸惑い、足元がふらつきそうになる。
美咲の家近くにあるアーケード商店街と違い、ここには、パチンコ屋も百円ショップもない。高価そうな店の並びにあるモフバーガーやトトールの存在だけが、美咲に安心感を与えた。
彩は行き慣れているようで、とあるオープンカフェまで来ると自然な動作で席に付く。やってきたフランス人ぽいウェイターとも、親しげに話している。
「さっきは会話を止めてごめんなさい。運転手さんもいるから、話しづらくって。あんな田舎で働いていると、たまに来たくなるの。昔はよく来たから、ちょっと懐かしいのもあって」
「いえ、大丈夫です」 怒ってた訳じゃないようで、安心する。
さっきのウェイターが、色とりどりでお洒落な飾り付けのランチを運んで来た。
二千円のランチなんて、食べたらバチが当たりそうだ。
でも彩さんの「経費で大丈夫」の一言で、奮発した。
上品な食べ方の彩に比べ、庶民の美咲はがっついて食べていた。
こんな平日でも、カップルや女同士の客で溢れている。どこから湧いて来るのか、不思議だ。
時折、日本語じゃない言葉も飛び交っているから、観光客も多い。
誰もくたびれたケミカルシューズなんか履いていないので、足元が少し気になった。
「この前はお疲れさま。初日から突然あんなロボットと闘う羽目になって、あなたも大変だったわね。この前のペッピー退治でも大活躍したようで、レオも褒めてたわ」
「いえ、そんな……」
褒められて、嬉しくなる。
「ほんと、若いって羨ましい。私もあなたと同じ齢の頃は毎日徹夜で実験だったけど、もう無理だな。肌も皺ばっかり気になるし。それにしても、あなたの遺伝子ってホントに綺麗ね!入社試験のDNAデータを見せてもらったけど、今まで見た中で一番の遺伝子アセンブリーよ。頭が悪くても、あれだけで十分にここ来た価値があるわ」
「はあ……」
けなされてるような、褒められてるような複雑な気分になる。
そもそも自分の遺伝子が綺麗とか言われても、何も返答しようがなかった。
美咲が自分を自分として意識するのは、体全体としてだ。
遺伝子とやらの目に見えないものが綺麗と言われても、感触が無くて当然だった。
「彩さん達は、昔からこんな仕事やってるんですか?」
話を変えてみる。
「去年からの方針でね。最初入社した本給とは別に手当が出るけど、まあボランティアよ。社長はなんでも出来るけどテレビは殆ど観てないから、ああいう戦隊ものに憧れてたんだって。ちょっとずれてるけど」
「そうなんですか?」
確かに大翔の平日夜や土日の朝は、ライダーものや特撮ものやアニメを観るのに忙しい。
子供は皆そうかと思っていたが、違う子供もいるんだと、初めて知る。




