幕間1 彩の仕事場
「今日は彩さんの所に見学行ってもらえる?」
出社して部屋でルタンチャーのプログラミングをしていると、スピーカーからレオの声がした。
「分かりました」
「僕は学校だから、一人で行ってね。彩さんに許可は取ってあるよ」
彩さんなので、直樹さんの時みたいなバトルは無いだろう。女同士の気安さもある。
ガンドムの件以来、ジムでたまに顔を合わせる程度だ。内心楽しみにしてエラーラに乗った。
ちなみに彩さんの運動神経はほどほどで、コーチからは緩めの指導を受けていた。
それに対し美咲への訓練はハードで、コーチの指導も一段と熱がこもっている。
基礎体力をつけるため、フォット無しでのトレーニングも多い。
この前は上級者向けボルダリングで対戦させられたが、腕の筋肉がつき過ぎるのも困る。
今日も良い天気で、湖上を滑るように走るエラーラの乗り心地は、快適であった。
『着いたよ』
ジョニーに言われて目の前を見ると、お菓子の城のような派手な色使いの建物が立っていた。
目がチカチカする。きゃりーぽむぽむとか出て来そうだ。
「いらっしゃい」
玄関まで出迎えてくれた素顔の彩さんは、この前とは違って和やかな顔をしている。
仕事着なのか、シンプルなブラウスとスーツパンツで、白衣着用だ。
今日はどんな下着ですか?と聞きたくなる美咲だが、それはぐっと我慢した。
建物の中は至って普通で、ムーニンのポスターが所狭しと貼られてるくらいだ。
「今やってる私の研究開発は、これ」
そう言って指差す彩の先には、実験机の上に可愛い猫が一匹横たわっていた。
「ペット飼ってるんですか?」
美咲は素直に聞いた。
「ちょっと違うわ。じゃあ、あなたのと同期させてみて」
「? ジョニー、お願い」
『ラジャー』
そうやって美咲の視界に現れた世界は、猫の座る机の上の風景だった。猫の視点だ。
「何ですか? これ?」
「ちょうど良いわ、Kinect Xで動作も同期させて」
『オーケー』
すると、美咲が横を向いたら猫も横を向き、歩き始めたら前進した。
「遠隔操作できるバイオノイドよ。ロボットとも少し違うのだけど。ノイビオロって呼んでるの」
「へえー」
仕組みは分からないが、感覚的に操作できるから、美咲でも直ぐに動かせるようになった。
猫になって跳んだり跳ねたりする視界を、美咲はしばし楽しんだ。
「あ、そうだ。今日はもう暇? もう一仕事あるけど、それ終わったらお茶しない?」
「え、良いですよ」
直樹だったら断るが、彩さんなら即答だ。大翔も何とかするだろう。
「じゃあ一時間後、入口前で待ってて」
そう言われたので建物を退室し、エラーラに乗って戻っていった。




