32 お疲れさま
アシストをしようにも邪魔になるし、服をこれ以上破りたくないから、美咲は離れて見守った。直樹は反電子銃とルタンチャーを巧みに使い、翼竜と化したペッピーを追いつめていく。
奮闘のかいありペッピーの動きが鈍くなり始めたその刹那、直樹が赤いレーザーを放つと、ペッピーは格段にスローモーションとなった。関節部の個体も外れかけ、全体の動きも乱れ始めている。
「美咲さん、最後にこれでとどめを!」
直樹はそう言うと、美咲に巨大ハンマーに変形済のルタンチャーを投げ渡した。
「分かりました!」
こういうのは大好きだ。美咲は思いっきりジャンプして、狙い定めて、合体ペッピーの頭部に最高の一撃を喰らわせた。
「うおりゃあぁあああ!!!」
ガッシャーーーン!!!
機械が壊れる嫌な音が響き渡る。ペッピーはバラバラになって浮遊能力を失い、河川敷に大きな音を立てて落ちてゆき、無惨な鉄の塊だけが積み重なっていた。動作は止まり、目の近くにあるセンサーが、虚ろに点滅している。
気の毒だが、仕方ない。
サイレンが聞こえ、美咲は辺りを見渡すと、向こうの橋から、警察車両が猛スピードでやって来た。派手な立ち回りもあって、堤防や川沿いの家から沢山の人達が、こちらを窺う様子が分かる。
平日の夕方に近づき、仕事や学校帰りの人達も増えつつあるようだ。幾ら映像防止用のサングラスをかけているとはいえ、そろそろ潮時かも知れない。
「警察が来たみたいです」
「そうですね。撤収しましょう」
2人は荒川を飛び越え上流に行き、目立たない場所でフェンガーを呼び出す。十分も経たずにフェンガーがやって来ると、河川敷に着陸する。2人はそれに乗り込んで、LITへと帰って行った。
フェンガーの中には、富崎さんが居た。
2人に「お疲れさまでした」と労い、コーヒーを入れてくれた。
「お疲れさん、良かったよ」
LITに戻ると、レオがいた。美咲は経緯を報告する。
「ありがとう。上出来だね。後は警察に任せといて。あ、特別手当も出るから」
レオは、満足そうだった。
その後はリムジンに乗って帰宅し、保育園に大翔を迎えに行く。すっかり遅くなった。既に子供は3人しか居なかったが、元気にやっていたようだ。夕飯はハンバーグで、元気にバクバク食べる。
お風呂に入り、九時のニュースをつけたが、特に報道はない。普段よりたくさん飛び跳ねて疲れたので、美咲はぐっすりと眠りについた。




