30 ペッピー逃げる
その部屋はガラス戸越しに縁側から差し込む光で十分に明るく、沢山のペッピー達は、パソコンを扱っていたり何やらメンテナンス中であったりと、社畜のように忙しそうだ。良く見ると、形の違いも多少ある。
「ペッピー〜」
ユリちゃんはいつものことなのか、気軽に中に入って行った。
ペッピー達は気にせず作業している。
その中の小さな一体がユリちゃんに近づいてきた。
「今日はおともだちも来たんだよ!」
ユリちゃんは何も考えも無しに、美咲をペッピーに紹介した。
だが美咲を認めたペッピーは、何かを悟ったのかピピピーと音を発した。
ピピ!
ピピピピッッ!!
ピッピピピピーーーーーッ!
するとその音に応答したのか、他のペッピー達も音を発して振り向き、一斉に美咲を見つめた。
無表情で和やかな顔でも、能面のように何かの怒りを表している。
下手にこちらが動いたら、どうなるか予測がつかない。ユリの安全を思うと、強行突破も憚られた。
「今日もおそとで、おままごとしよ?」
美咲の気持ちも知らず、ユリは無邪気にロボット達に話しかけた。
ユリにとってこのロボットは、顔馴染みの友達だ。けれども今の状況はどう見てもまずい。
美咲の背中を冷や汗が伝う。
『危ないね。美咲。逃げた方が良いかも』
ジョニーも弱気だ。
「分かってるわよ」
そう言ったものの、これだけの数で一気に襲われたら、対処しにくい。
廊下は狭くて飛び跳ねられないし、何よりユリを危険に晒せない。
暫く沈黙が続いたが、突然、一体がガラス戸を開け部屋から外へ出ると、腕を広げて足からジェットエンジンが噴射し、上空へ飛び出した。すると他のロボットも追従し、一体また一体と、ジェットエンジンやプロペラを利用し、飛び去って行った。
「すいません、ぜんぶ飛行形態になって飛んで行きました!」
美咲は直樹に報告した。
「え、そうなの? 了解。警察には連絡しました。こちらでも追跡します」
部屋を抜け庭に出てペッピー達の飛んだ先を見ると、東の方向だ。
『このままだと、河川敷に行きそうだよ。僕達も行こう!』
ジョニーが言う。
「ユリちゃんは、一人でお家に帰れる?」
「うん、わかった。大丈夫だよ!」
友達のペッピーが飛び去って淋しそうだが、この状況ではやむを得ない。
美咲は想像以上に軽いユリを抱きかかえて一足飛びに家の近くまで連れて行き、その足で河川敷へ向かった。人間とは全然違う美咲のジャンプに、すごいすごいとユリは喜び、また来てねと、屈託の無い笑顔で帰って行った。
どうせこうなるならエラーラで来れば良かったと後悔しつつ、辺りの民家やビルやマンションの壁を使って飛び跳ね、美咲は懸命にロボットを追いかけた。もうバレているから気にせず、フォットの力で屋根から屋根へ、八艘跳びのように飛び移って行った。
低空で飛んでいるペッピー達は、最初はバラバラに飛んでいた、はずだった。
「何あれ!?」
美咲は驚く。十体以上あったペッピー達は飛行しながら雁の群れみたいに寄り添い始め、段々と凝集し、やがて大きな一つの形になった。合体だ。




