03 瞳の中のイケメン
お台場に何があるのか知らないが、もともとが悩まない質の美咲は、素直に従う。それに世間は厳しい。姉さんに代わり大翔を預かる身として、沢山働かなきゃいけない。
初任給三五万円も貰える勤め先は、あっち方面じゃない限り、夢のまた夢だ。でも予想した冷蔵庫や掃除機みたいな家電の商品モニター係とは、どうも違うらしい。
思い返すと、確かに求人票には具体的な製品名が書かれてなかった。面接中にも眼科医が来て、無理矢理コンタクトレンズを付けさせられた。両方の視力は二・〇だと言ったのに、関係ないと押し切られ何がなんだか分からない。
とにかくやれば良いんでしょと、美咲は半ばヤケくそである。
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部屋を見つけたが鍵穴はなく、タッチパネルがあるだけだ。とりあえず触ると、何かの認証があったのか簡単に開く。部屋の中は豪勢で、傷一つない新品の綺麗な机の上には、大きなモニターやパソコンがあった。どれも一人分だ。
もしかして個室!? こりゃ儲けた。こんな職場、今まで無い。
お、バストイレ完備! 自宅より広いわ。
良く分からない物も沢山ある。これがモニター品らしい。
家電とは似つかぬ形状で、美咲は面食らう。
通勤より、ここに住み込みたい誘惑にかられる美咲だが、今はとにかく着替えを探す。けれど制服らしい服は見当たらず、美咲は混乱した。机の上に、少し大きめなサングラスが置いてあった。そう言えば直樹からサングラスが部屋にあるから付けるよう指示されたのを思い出し、かけてみる。
すると突然、声が出た。
『やあ美咲、はじめまして! アドレナリン分泌量が通常の一・七倍だけど大丈夫? 緊張してる? リラックスだよ〜リラックス! 大丈夫大丈夫、美咲ならやれる! 集中集中!』
美咲好みのイケメンが目の前に現れ、松岡なみの熱量で喋り始める。無意識で男に触れようと指を伸ばしたが感触は全然なく、指が男の体を空しく突き抜けた。ここまでリアルに見えるのにも関わらず、全く実体がない。狐につままれた気分だ。
『あ、驚かせた? ごめん、ごめん。僕は【ウェクルス】、AI内蔵のコンタクトレンズだよ。ネットに繋いで調べ物も出来るし、LIT社製品に関するアドバイスもできる。言わば、美咲の分身だね。この映像も、美咲の脳波が最高に感じる映像をスキャンした結果なんだ。この【アヴィトラプ】っていうサングラスと同調して起動する仕組みでね、今まで言わずにごめんよ。音声もアヴィトラプの耳当てから出てるよ。何はともあれ、これからよろしく! まずは僕に名前を付けてくれるかい?』
確かに直樹さんも、ウェクルスとかアヴィトラブがとか言っていたけど、これか。説明書はないが、素直に自分の好きな名前にする。
『ジョニーでどう?』
『うん、気に入ったよ。じゃあとりあえず、着替えよう。奥のクローゼットに行って』
視界に↓の表示が現れたので、指示通り奥に進むと、確かにクローゼットがある。中には、沢山の服が並んでいた。