29 ペッピーみっけ!
「うん、だって近所だもん。ついてきて」
こんな簡単に重要事項に迫れるなら、助かる。
藁にもすがる思いで、美咲は彼女に付き添った。
子供だし間違いの可能性も高いが、万が一の事もある。
「ママがお客さんの相手してる時は家に入っちゃ駄目だから、わたしはいつもこの辺で遊んでるの。ペッピーも、たまに遊んでくれるんだ。家にも入れてくれるよ」
「そうなんだ」
隣にいるのが男の子から女の子に変わり、少し不思議な気分だ。改めて見ると大翔に比べて痛々しいくらい痩せこけている。背丈も、大翔の年長組で一番小さな哲郎くんより低い。
「ありがとう。名前は?」
「ユリ」
「おいくつ?」
「七才。ホントは小学一年生なんだけど、まだ行っちゃ駄目って、ママから言われてるんだ」
美咲が握る手に、少し力がこもる。
「もう少しだよ」
曲がりくねって狭く複雑な路地を2人で通り抜け、ユリはとある一軒家の前で止まった。
「ここ」
眼の前には生け垣で囲まれた屋敷があった。二階建てだが、ベランダと窓は埃まみれだ。
潜入は憚られるものの、「こっからだよ」とユリは慣れた様子で生け垣にある隙間から入った。
恐る恐る付いて行くと、予想外に庭は端正に整えられ、静かな佇まいであった。
ただ、人の生活している気配は感じられない。何と言うか雰囲気に、生活感がなかった。
ユリは迷い無く、家の方に向かっていく。
「すいません」
チャイムも鳴らないから声をかけたが、当然無反応だ。
ユリは勝手知ったるように、靴も脱がず玄関を上がり奥へ進んだ。
確かに廊下は埃が酷く、靴を脱ぎたくない。
「誰もいないかな?」
『あの子の言う通り。生体反応はないよ』
ジョニーも同意するので、とにかく彼女に付いて行く。
どんな家か分からずに入るのはリスクが大きいが、ユリちゃんを信じよう。
「大丈夫ですか?」
直樹からの連絡が来た。
「特に危ない雰囲気はないですが。この家の情報、分かります?」
「確認しました。そこは老人が住んでいたけれど、三年ほど前に亡くなっているらしい。相続放棄で揉めているから区も手を出せない空き家です。最近はそんな物件多いから」
「そうなんですか」
玄関から真正面に一本の廊下が続くが、奥の方で何やら音がする。
ユリは、その音がする方向に警戒心も無く歩いて行った。
「何かありそうなので、これから奥の部屋に向かいます」
迷いの無いユリとは対照的に、美咲は慎重に歩を進めた。
奥まっているので家の中は日も射さず薄暗いが、奥の部屋は少し明かりが入っているようだ。
「何これ?」
その奥の部屋には扉が無く、ゆっくり音を出さずに注意して覗くと、ペッピー達が十体以上いた。




