24 直樹 & 美咲
「じゃ、この仕事は直樹君とおばちゃんでお願い」
二日後の会議にて、レオの命令は唐突だった。
「分かりました」
「は、はい」
2人とも即答だが、お互いの顔を見ることはなかった。
この前から、かなり気まずい。
「宜しい。じゃあ、まず振り込め詐欺の発生場所は、これ」
そういってレオは、プロジェクターに地図を映した。都内近辺に、まんべんなく散らばっている。
「それらしい詐欺に今あってる人達が、このメモリに情報あるから。警察さんからの裏情報なんで、扱いには注意して。とにかく、あのペッピーに会ったら要注意」
そう言うとナノメモリを直樹に手渡し、ノアは部屋に帰っていった。
2人きりになって、更に空気が重くなる。
「桃浦さん、じゃあよろしくお願いします」
「あ、お願いします」
「では、どうしましょう? このデータにある場所、全て行ってみますか?」
「いや、ちょっとそれは……」
直樹の提案は、かなり無理がある。
明らかに限界を超えているし、そもそも今から行ったら大翔の迎えに間に合わない。
これだから独身は……と内心思う美咲だった。
「まずデータを絞り込んで、何軒か電話してみませんか?」
「そうですね。検索で直近に電話があった候補を探しましょう」
貰ったファイルには年齢、性別、簡単な経歴を含め、個々の状況が一通り含まれていた。
こうやってみると、かなりの人が詐欺に引っかかっている。日本の未来が心配だ。
被害に会った場所や身辺情報等を入力して再検索をかけ、三十件ほどに絞り込んだ。
「取りあえず、十件ぐらい電話しますか?」
「そうですね」
手始めに、直樹が電話をかけてみた。
「あ、もしもしこちらLITと申しまして……」
「はぁ?」
「最近オレオレ詐欺にあわれてますでしょうか?」
「? 何言ってるの? ちょっとあんた誰! 警察呼ぶわよ!」
「あ、す、すいません……」
直樹は慌てて電話を切った。
この調子では、直樹が通報される方が早そうだ。
「代わりますか?」
「……そうですね、よろしくお願いします」
美咲は次の該当者に電話をした。
「もしもし、こちら東平市の委託で地域アンケートを行っているのですが、お時間頂けますか?」
「はあ、良いですよ」
「市の施設の利用頻度をお聞きしたいのですが。中央図書館には行かれますか?」
「そうね、月一ぐらいかしら……」
この調子で日常会話までもっていく。予想外に会話が弾んだ。
やはり警戒心が薄い人達の傾向のようだ。孤独で淋しいのかも知れない。
ただ流石に、初めてする電話で詐欺の話を切り出すのは難しい。
失敗し続けての六件目は、八十一歳の老婆だった。
情報によると、夫に先立たれ独り暮らしとある。
やはり他の被害者同様、誰かと話したがっている様子が窺えた。
「……それで最近、何かお困り事はありますか?」
「そう言えば、何だか息子がギャンブルにハマったらしく、借金こさえてねえ。何だか五年ぶりに電話が来たんだよ。五十にもなって、何やってんだか」
「そうなんですか。大変ですねえ」
「でもねえ、何だかちょっと様子が変なの。声は確かに賢一っぽいんだけど、言葉が綺麗過ぎると言うか、どうも妙なのよねえ」
「本当に本人なんですか? いま流行の振り込め詐欺とか?」
「でも私の名前を最初に言って来たし、昔の出来事を普通に知ってるのよ。ほんと、息子じゃなければ誰なのかしら。不思議ねえ。そうそう、また電話があって、丁度明日お金を渡しに行くの。ちょっと不安で」
「それは確かに不安ですね。良かったら、協力させて頂けないでしょうか? 区としても見過ごせませんし、ご本人であれば、問題ないわけですし」
「そうね。あなたなら信用出来そうだから、来てもらおうかしら」
話はトントン拍子に進み、明日、件の家に訪問する運びになった。




