21 直樹 vs 美咲 その1
「改めてですが、これ(ルタンチャー)はプログラム可能な形状記憶合金です。この前のガンドムとの戦闘でお使いになったから少しは分かると思いますが、どうやって形を決めるか、彩さんのビデオを観て覚えましたか?」
「全然おぼえてません」
即答だ。寝てたし、ウソを言っても仕方ない。
「……まあ良いでしょう。中にICチップとマイクロファイバーが組み込まれていて、ここにあるボタンですね、これを押してイメージすると、予め記憶している形状と合金情報を変換して、望んだ材質に変形するのです。つまりですね、前もってプログラムしておけば、何にでもなります。
金属の配合も調節出来るから、硬度も細かい飾り付けも出来るんです。今も新しいルタンチャーのプログラムファイルを作成しいていたところです。ルタンチャーは外部通信でコネクト出来るから、ここにある作製ソフトを作って転送すれば、思った形の物が創れます。
この前使った斧やハンマーは、基本プログラムとして搭載されています。あとは自分で好きにですね、こうやって形や材質を決めて作って一度ルタンチャーに覚えさせれば、コードを読み込み変形します」
話が長くて、途中から聞いていない美咲だった。
言うだけ言うと、直樹は槍のような形のイメージをソフトで作製して、転送させていた。
「ほいこれ、ロン◯ヌスの槍」
モニターに映っている槍は二叉の特徴的な形をして、使徒も鋭く突き刺せそうに輝いている。
転送修了の表示がでて、直樹はルタンチャーのボタンを押して操作した。
すると粘土だった金属が、本当に同じ形の槍になった。直樹の顔は自慢げだ。
「ふーん……格好いいですね」
美咲は初めて見る槍だが、話を合わせて相槌を打つ。
「このソフト、美咲さんの部屋にあるパソコンにもインストールされていますから、使ってみて下さい」
「は、はい……」
感覚的に出来そうだから、今度試しにやってみよう。
デザインは嫌いじゃない。
「じゃあ折角だから、隣の原っぱで闘ってみる?」
「え?」
ノアが突然提案する。青天の霹靂だ。
「良いですよ。もちろん、ハンデつけますよ。こっちのルタンは一度きりの変形で。美咲さんの方は、状況に応じてウェルクのAIが、適切なモードを選択しますよ」
直樹は承諾する。
『美咲、良い?』
ジョニーが聞いて来た。
「分かりました」
これも体力作りの一環と思えば、良い機会だ。
と言う訳で、3人は隣の原っぱに出た。レオが審判役になる。
「じゃあ、このヘルメットとプロテクターをつけて。ポイントの場所に当たるとランプが付いてブザーが鳴るから、そこで終わり。一本勝負じゃおばちゃん大変かな?三本勝負でどう?二本とった方が勝ち。直樹君は、一本ごとに違う変形にするのは良いよ」
「ふーん」
「はい」
「んじゃ、一本目、始め!」
直樹はすかさずルタンチャーを某星の戦いに出て来る十字形の剣にして、美咲に突進して来た。
えげつないほど速い。素人相手に手加減する気は全くなさそうだ。まあその方が存分にやれる。
「飛隼剣!」
そう言いながら振りかざす剣を、美咲は楯に変形させたルタンチャーで防ぐ。
お互い一歩下がると、その間を見計らってジョニーは美咲の楯を長刀に変形させ、直樹の胸を突いた。
紙一重でかわし、すかさず打ち込んで来る直樹。
経験は浅いが、美咲は本能で動き、直樹の攻撃を防ぐ。互角の打ち合いはしばらく続いた。
「良いですよ、その調子。じゃあこれは!」
そう言うや否や直樹は正面から一度打ち込むと素早く背後に回り込み、あっという間に美咲の背後を取ってヘルメットを叩き、ブザーが鳴った。
「一本!」
レオが叫ぶ。
やられた。悔しいが、やはり一日の長がある。
「じゃあ二本目、始め!」




