20 直樹の仕事部屋
某日、LITにて。富崎さんからの連絡があったから、今日は美咲の出社日だ。
リムジンの待ち時間も少し遅目で、目立たないよう家から離れた公園での待ち合わせにしている。
今のところ開発製品の勉強が仕事だ。毎日じゃないから、大翔の世話もしやすくて助かる。
ただ椅子に座って聞くだけの勉強は、美咲にとって退屈で退屈で寝てしまう時もあった。
そんな美咲を見兼ねてか、専属コーチがついてフォッティキュを使った訓練を多めにしている。
コーチは赤川麗菜という二十代後半のスポーツウーマンだ。体育会系同士、気が合った。昔のキッズ広場を改装したジムで、障害物競走や模擬格闘訓練を一緒に励んでいる。
「良い筋してるわね」
「あざーっす!」
気晴らしになるし、これでお金がもらえるなんて、何だか悪い。
午前の訓練も終わりシャワーを浴びすっきりして部屋に戻る途中、ちょうどレオに出くわした。
「午後はエラーラも使ってみる?」
「フォット、着る必要あります?」
さっきの運動で汗かいて脱いだから、念のため聞いた。
「そうだね、着てきて。一時に入口脇の格納庫で待ってるよ」
そう言われ、美咲はお弁当を食べて新しい替えに着替えると、時間通りに格納庫へ向かった。
レオは既にいた。格納庫には、フェンガーやエラーラ等が並べられている。
プロペラが折りたたまれた大型ドローンと言った感じで、改めて見るとコンパクトに出来ている。
「じゃあ、直樹さんの仕事部屋にでも行く? ウェルクが行き先も含め全て調節してくれるよ」
指示通りに乗ると、ジョニーが同期して電源が付き、全方位モニターが作動し始めた。
ほぼ全ての面が外の景色になり、乗り物ではなく、1人で歩く気分になる。
彩さんのふんわり飛行から想像していた通り、材質は軽そうだが、丈夫に出来ている。
そうは言っても自分の体重が支えられるのか、少し不安になった。
『美咲、大丈夫。これ、百五十キログラムは耐えられるよ』
と、ジョニーが親指立ててウインクする。
その言葉に安心したが、そこまで太ってないぞと悪態をつきかけた。
確認が取れ、ゆっくりと車輪が動き始め外に出ると、頭の上で折りたたみ羽が解除される。
見上げると、多数のプロペラが展開して広がり、やがてふわりと上昇した。
建物の頂上まで上昇した後、湖に向け前進する。揺れないし快適だ。周りも360度良く見える。
「じゃあ 直樹さんのラボに案内するよ。僕はヴォランタペで着いて行くから」
と、レオが言った。
目的地は自動設定に切り替わり、湖を渡り始めた。
新緑がまぶしく、普通に観光で来てみたい。
『外の風を入れようか?』
美咲が答える前に上の方が開いたらしく、涼しげな風が流れ込んだ。
「ありがと」
『エアコンで密閉もできるんだけどね』
湖面を見ると、レオはこの前乗っていた空飛ぶスケボーで水しぶきを上げながら追走している。
「どう?」
「気持ちいい!」
美咲は飛んでいるように爽快だった。鳥になった気分だ。
湖を渡った先の湖岸には、建物があった。
コンクリートづくしの直面とガラス張りの建物で、脇に草原もある。牧場みたいだが動物はいない。
降り立つと、中には直樹がいた。不意の来客に少し驚いた顔で、こちらをじっと見つめている。
遅れてレオも到着し、建物の中に入った。
「やあ、直樹さん。おばちゃんにLITの紹介をしてるんだ。ここが直樹さんのラボ」
「あ、こんにちは」
直樹は、先日と違って少しそっけない態度で、何やら粘土細工みたいな物をこね回している。
自分の家に急に来られ、不機嫌なようだ。神経質なのかもしれない。
「折角だから、何か教えてあげてよ。今やってるルタンチャーとか、良いんじゃない?」
レオにそう言われて直樹は腰を上げて、二人の前に来た。
「そうですね。じゃあ、ルタンチャーの作り方をお教えしましょう」
そう言って直樹は使っているパソコンのモニターを大画面の方に切り替えて、説明を始めた。




