17 龍乃宮和孝 登場
『それでは次に、当社の開発した乗り物関係の製品をご紹介します……』
「まだ続くの〜?」
脳みそがとろけるように疲れてしまい、美咲はふて腐れた。
使っているから馴染みはあるが、細かく原理を説明されても、何も知らない美咲は混乱するだけだ。
とにかくつまらない。
頭より体が動くタイプの美咲は、高校の授業みたいな座学が一番苦手で、たいてい眠くなる。
これだったらまたフォッティキュとか言うのを着て、思う存分暴れた方がマシだ。
「もう飽きたの、おばちゃん?まあ我慢して見といてよ。一応、これからも使うからさ」
「分かりましたぁ」
「そんなふて腐れないで」
拷問は続く。
『まずエラーラ。これは1人乗りドローンの発展型です。正確には、ドローンよりもタケコプターをイメージして作られました。流石に頭に着けるだけで飛び立てる飛行装置を作るのは、今の技術をもってしても不可能ですが、我々が作成したこのエラーラは、飛行能力、安全性ともに格段で誰にでも使え、電子地図と連動して自動運転を可能にしており、快適な空の旅をあなたに与えてくれます』
あ、彩さんの乗り物だ。これは自分も、乗ってみたい。
『次はカッタクルスです……』
あれ? 彩さんが止まった。このトラックは浩リーダーの乗ってるやつか。
「社長、龍乃宮和孝様が来られています。如何致しましょうか?」
部屋のスピーカーから、女性の声がした。
「ふうん。何の用だろう?ま、通してあげて。部屋で待ってるように」
「かしこまりました」
「……と言う訳で、一時中断だね。どうしよう、おばちゃんも一緒に来る? 会っといて損は無いよ」
「誰なの、”たつのみやかずたか”って人?」
「うちの会社のお得意さん。スポンサーさ。じゃ、会おうか。富崎も」
「御意」
そう言うとレオは部屋を出たので、美咲も着いて行った。
社長室は最上階の1番見晴らしが良い場所で、多分ゲームコーナーだったところだ。
入り口には秘書さんが待っていた。美人で化粧も完璧で、大企業の秘書でもおかしくない。
ここ、思ったより儲かってんだ。
「社長、既にお部屋でお待ちいただいております」
さっきと同じ声だ。
「うん、分かった」
そう言ってレオが入口の扉を開けると、部屋の中央にあるソファに男が一人座っていた。
彼は3人に気付くと直立し、レオに向かって丁寧にお辞儀をする。
あ、この前の人だ。
美咲は気付いた。お台場でガンドムをやっつけた後、レオに挨拶をした警察関係者だ。
改めて見ると、めっちゃイケメンやん。脂の乗り切った三十代、男の魅力が溢れている。
ストファイのサコには敵わないけど、これ2人きりになったらヤバいかも……
勝手な妄想をする美咲をよそに、レオと男のやり取りは続いた。
「今日は急にも関わらず、お時間を頂き誠にありがとうございます」
「いいから、用件は?」
「はい、失礼ですがそのお嬢様は?」
え? お嬢様ってわたしのこと? マジ? 生まれて初めて呼ばれた! ヤバい!!
美咲は普段は会わないタイプの男性の登場に、のぼせ上がった。
「あ、は、はい。も桃浦美咲です。子供いるけど彼氏いません。よろしくお願いします!」
何か変な挨拶になっている。
「おばちゃん、何照れてんの?この子は新しい新入社員、メンバーの一人だよ。この前も頑張ってくれたんだ。紹介がてらあんたに会わせようと思って」
レオに完璧に見透かされ、美咲の顔は赤くなった。
レオを睨みつけるが、彼は何とも思ってない。
「そうでしたか、それは大変失礼致しました。はじめまして。警視庁特務三課課長の龍乃宮和孝と申します。以後お見知りおきを」
そういって男はポケットから名刺を取り出し、美咲に手渡した。ちょっと手が震える。
さすがイケメン、とんんちんかな美咲の挨拶にも完璧な対応だ。
「おばちゃん、こう見えても一応凄いんだよ、この人。東大法学部を首席で卒業して警視庁に入ってね、若手のホープ。出世街道まっしぐらだよ」
「いえいえ、レオ様には敵いませんよ」
謙遜する姿も、絵になる。
世界の違う話だが、美咲には彼がイケメンで優秀だということは分かった。




