16 発明品紹介
呼び出した割には、なおざりだ。
ノアが何かのコントローラーを操作すると、真ん中にある机の下部から半球の映像装置が出て来た。
更に操作すると電源がつき、彩さんが映し出された。ミニチュア人形みたいに立体感がある。
「ご存知の通り、下前谷彩さんがナレーション役。この立体ホログラム映写機も、当社の製品だよ」
もう余程のことには驚かなくなった。小さな立体映像の彩さんが話し始める。
『ようこそLITへ!当社は世界の誰もがあっと驚く製品を皆様に提供し続ける、次世代を創る企業です。設立からまだ二年半ですが、独自の製品開発に、日夜取り組んでいます』
完璧な化粧をきめている彩さんは、どうみても私と同じくらいの齢に見える。
発する言葉は淀みなく、普段よりオーラがあった。モデルでも通用するだろう。
こういう仕事、案外好きそうだ。
『それでは我が社の製品を紹介していきます。まずはこのスーツです』
既に美咲も着用したインナースーツの全体像が映し出された。もちろんCGで、本人は着てない。
回転と拡大の映像で、黒く滑らかに光る質感が、手に取るように分かる。
『これはフォッティキュと言い、着用すると五倍から十倍に力を増幅させる、当社独自の素材で作られています。人工筋繊維と感覚神経センサーをナノレベルで構築した素材で、着けた人の末梢神経活動イオンをピコモルオーダーで感知・増幅し、力を出す向きを0.3秒速く予測して人工筋繊維を一斉に動かす事で、出せる力を最大限にします。
その気になれば、時速二百キロメートルでの疾走も可能です。また完全装備では、通常人で七十から百メートル、訓練すれば二キロメートル以上の跳躍が可能になります。また人工筋繊維を構成するポリマーも、ミオシン繊維構造を元にしたフェムトレベルの3D構築をしており、この高密度ポリマーのおかげで、筋力を百倍程度まで引き出せます』
何を言っているのか分からないが、映像は、この前実物で見た池をひとっ飛びに飛ぶ直樹の姿や、大きなトラックを持ち上げる浩の姿が映し出されていた。
『続いては、カルカバーです。これは、ゼオキュタスを着た人がつける、必須のブーツとプロテクターです。開発当初、残念なことに、ゼオキュタスを着て想像以上の跳躍をしてしまい、着地に耐えられずに大けがする事故がありました。特に足の骨折や関節への負担は甚大で、最低でも5Gの衝撃を耐える靴が必要でした。この点も当社では開発に成功し、このカルカバーは五十メートルまで飛んでも、着地のショックを完全に吸収し、迅速な行動を可能にします。これは衝撃工学的見地から、最大限に力を吸収出来るフラーレン構造にした、人工ゴム繊維を用いています。そのおかげで見た目は分からない程度の大きさになっています』
あれだけ跳んだりするから、確かにこれを履かないとヤバそうだった。
『そしてウェクルス。これは単なるコンタクトレンズではありません。脳波を感知し人工知能も搭載したウェラブルレンズです。このレンズには人工知能が搭載されており、付けた人の脳波と連動することで、日常生活のお役に立つ事が可能です。この人工知能OSも当社独自の開発で、処理速度が既存の三倍です』
『もう使ってるじゃん』
ジョニーの突っ込みに、美咲は苦笑いした。
『次に紹介しますこの製品、一見すると単なる粘土ですが、実は金属です。我が社の製品ですから、当然、並の金属ではありません。形状記憶合金をプログラム化しどんな形にも変えられる、画期的な商品です。ルタンチャーと名付けました。ほら、この通り!』
そう言って彩が握っていた金属の塊が、瞬時に傘となった。
『形状記憶合金に組み込んだ柔らかいシナプス状ICチップによって、どんな形状も可能にする優れものです。硬度も結晶化次第でダイヤモンドレベルまで上げられますし、ゴムのように柔らかく、布のようにしなやかにも出来ます。プログラムシステムも構築していますから、貴方のアイディア次第で、何でも作れます』
仕組みは理解不能だが、あの時言っていた意味は、少しだけ分かった。
ホログラムでは梯子やスコップ等色々な形に変化するルタンチャーが映されている。
宣伝用だから、剣や長刀等には変形しない。




