13 怪しい男
「ええ。そう言えばお台場であった事件、知ってます?」
「ああ、7時ので何かやってたね。9時のニュースでもやるんじゃない?」
「そうですか、ありがとうございます」
「ミサキ〜お風呂入ろう〜」
「分かった分かった」
9時のニュースには未だ時間があるから、まずは大翔をお風呂に入れる。
「今日はね、運動会の練習したんだよ! ダンスやるの! U.S.A〜♩」
「これ、やめなさい!」
大翔が風呂の中ででじゃぼじゃぼ踊るから、体を洗っている美咲にもお湯がかかる。
赤ちゃんの頃からお風呂に入れていたが、こんなに成長したかとしみじみ思う。
でもちょっと前までは、時々おっぱいに吸い付いてきて困った。これでおっきくなった気もする。
体を洗いながら、青あざが幾つかできているのに気付く。
あれだけ派手な立ち回りをしたのだから、当然か。逆にこれだけで済んだのが奇跡だ。
(もしかして、毎回あんな事をさせられるのかな?)
ふと考えてみると、今までのどこよりも大変な仕事かもしれない。
体力仕事は得意だが、予想以上だ。
お風呂もあがり、パジャマに着せ替える。今日も元気に一日を過ごしたようだ。
「じゃあね。明日は大丈夫?」
「はい。ありがとうございました」
小村さんは、家に帰って行った。
大翔に念のためオムツをはかせ隅に布団を敷き寝かせた後、音声を小さくしてテレビを付けた。
テレビでニュースが始まった。冒頭は、全然関係のない国会の話だった。
やがて『お台場のガンドムが破壊』とテロップが流れ、アナウンサーが記事を読み始める。
お台場に飾られていたガンドム像が、何物かに爆破されたと言っている。
関係者らしき禿げた爺さんが興奮してまくしたてていたが、何を言っているのか分からない。
ロボットが動いた事実やLITの存在も触れられず、2分もかからない短いニュースだった。
(こんなもんなんだ……)
得体の知れない不安を感じるものの、今は考えていても仕方がない。
美咲はテーブルを片付けて布団を敷き、ぐっすり眠る大翔の側で、眠りについた。
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某日、都内某所にて。雲ひとつない澄み切った青空の下、皇居を望む高層ビル最上階の一室で、男は親指の爪をかみイライラしながらモニター越しに報告を聞いていた。
『ガンドムは自爆装置を作動させ、粉微塵に処分致しました』
「そんなん知ってるっちゅうねん!華々しい宣伝第一弾なのに、勝手に動きやがって、あんな恥ずかしいざま、創造主様に報告できひんわ!」
『ですが、遠隔操作をあなたが命令されたので、動かしたまでです』
「やかましいわぁ!怒るでしかし!」
男はモニターに散々悪態をついたが、相手は無表情に受け流す。男はやり場のない怒りをぶつけようと近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばすと、箱は派手な音をたててゴミを撒き散らし、転がっていった。
「次はあいつや。ケラミュでいこか。あっちもウケるやろ」
未だ興奮気味に、男は指令した。
『ケラミュですか?あれはまだ調整段階かと』
「ええやん。どぉせ一緒や」
男は表情が更に険しくなったが、相手は全く動じない。
『それに動かす資金が足りません』
「う——ん。創造主様にこれ以上ねだると、また電気ショックくらうわなぁ…… ほな、ペッピーで稼ぐか」
『御意』
相変わらず相手は無表情のまま、通信は切れた。男は席を立って部屋をせかせかと歩き周り、少し落ち着く為にゴミ箱を戻そうかと思ったが、邪魔くさいからやめて外を眺めた。眼下には東京の街が静かに広がっている。車の往来も平常通りだ。
「多少の失敗は、愛嬌やな」
男は自分に言い聞かせるように呟き、席に戻った。




