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12 帰宅

『お疲れさん。これからも一緒に頑張ろうぜ!あとスマホを持って帰ってね』


 ジョニーの言う通り、机にはスマホが置かれていた。


『このスマホ、会社専用回線使ってるから、私用厳禁だよ。これで呼び出しがあった時は、悪いけど何時でも来て』

「え、そうなの?」

『直樹、説明してなかった?』

「うん」


 高待遇なんだから、それくらい仕方ないか。


『そっか。とにかくお疲れさま。初日にしてはよく頑張ったよ! じゃあまた!』


 ジョニーは言うだけ言うと、シャットダウンの表示が出て、反応が消えた。


 外してコンタクトレンズケースに入れ、サングラスも一緒に机の引き出しに入れる。

 インナーも脱いだが、どうせだから下着はもらっていくことにした。


 私服に着替え入口に戻ると、既にリムジンが待機している。富崎さんが運転手だ。


「お疲れ様です」

「ありがとうございます」


 美咲が車に乗り込むと、発車した。


「どうですか、この会社は?」

「まあ、こんなだとは思いませんでした」

「すいません、今回は緊急事態だったもので。本当はもっと製品の紹介をしてからだったのですよ」

「そうですよね」

「初日にしては出来過ぎたくらいですよ。これからも頑張って下さい」

「あ、ありがとうございます」


 気が抜けたのか闘いの疲労か眠りこけてしまい、気付いたらアパートに到着している。


「それでは」

「ありがとうございました」


 富崎さんに礼を言って車を下り、美咲はアパートの階段を上った。


 そう言えば、お台場で買物するつもりだったのを思い出す。

 でも、あの格好であんな立ち回りをした後では、好奇心の目が多過ぎて店に入れないだろう。

 次に行ける日は何時になる事やら。そもそも、あそこでまた事件なんか起きないか。



「ただいま♪」

「おかえりミサキ!」


 今日の出来事だったのに、戻ってくると、浦島太郎のような気分になった。

 だが玄関を開ければいつもと同じ、優しい匂いの空間だ。


 ボロアパートの台所付き七畳一間。大翔が散らかすオモチャで、足の踏み場も少ない。

 窓際のテレビとその近くだけが、少し整っているだけだ。家賃四万、正直ギリギリの生活。


 施設に入所も勧められたが、大翔と離れたくないから就職して頑張る事に決めた。

 だが大翔も成長した今、小学生になる来年以降、手狭になりそうだ。


 朝リムジンカーに乗った時、大家の小村さんに電話して保育園からの迎えを頼んでいた。

 だから既に大翔も帰宅済み。飲み会は空気を読んで断ったけれど、それくらい良いだろう。


 すでに夕飯を食べ終えたようで、大翔はのんびりとテレビを観ている。


 どこにいるか知らないが、母は佐賀の出身らしい。でも帰省した記憶は一度もない。

 死んだ父の実家は岩手だが、生前に一度か二度行ったきりで、殆ど覚えていない。

 だから美咲にとって、ここ埼玉飯沢市が故郷だ。他に頼れる親戚はいない。


「お疲れさん。初仕事は無事終わったかい?」


 大家の小村和代おばさんは至って呑気に、夕飯の食器を洗っていた。

 子供が2人いるが既に大学も卒業して就職済みで、暇な時間は多いそうだ。


 姉が失踪した当日、本当にどうして良いか分からなくなり幼い大翔も泣き止まず、呆然としていた。

 泣き声に何事かと大家さんが部屋に飛び込んできた時、美咲も泣いてしまった。

 事情を理解すると直ぐにミルクを買って来てくれて、抱きかかえてもらうと直ぐに泣き止んだ。


 あれ以来、小村さんは何かと細やかに世話をしてくれて頭が下がる。世間は捨てたもんじゃない。

 本物の親より、親みたいだ。本当に感謝しかなかった。

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