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第9話 2対5

 シルクを助ける為に、ランディスとガインの援護が二の次になってしまったフレーク。



「ごめんね! シルク!! 私、先に戻るから!!」



 そう言い残すと、フレークはコボルトの巣窟に駆けて行き、勢いそのままに部屋の中に飛び込んで行く。



「ちょっと待ちなさいよ!! フレーク!! 何でそんなに無警戒なのよ!!」



 シルクはコボルトの眉間に刺さった短刀を急いで引き抜き、追いかけようとするが中々引き抜く事が出来ない。



「ああっ!! もう!! 何でこんなに深々と刺さってんのよ!? さっさと抜けなさいよ!!」



 それでもコボルトをまたぎ、両手で力を込めて何とか引き抜くと、ようやくフレークの後を追いかける。


 そして扉の近くまで辿り着くと、慎重に中を確認する。

 すると、入口付近で立ち尽くしているフレークを目にする。



「ど、どうしたのよ? フレーク? ランディスとガインは?」



 シルクが後ろから声をかけると、フレークはゆっくりと部屋の中央を指差し、返答する。



「うん、私も心配して急いで戻って来たんだけど、大丈夫みたい」



 シルクがフレークの指差さした方向を見ると、二人は既に一体のコボルトを仕留め、残った四体を相手に優勢に戦いを繰り広げていた。



「おら、どうしたよ? さっさとかかって来いよ? じゃねえとこっちから行くぜ?」



 ガインの右手に握られた斧は先端が槍状になっており、それを二体のコボルトに向けながら、ジリジリと部屋の角に追いやっていく。

 対してランディスは大剣で、二体のコボルトの攻撃を防ぎつつ、すりあしで徐々に右角に詰めながら反撃の隙を伺う。


 ガインが相手にしているコボルトは、一方が素手であるためか、心なしか余裕を見せる。


「へへっ! ほら! ほれ!」


「ヴ……ウォォ……」



 二体のコボルトに向かって何度か斧を突き出すと、コボルトは少しずつ後退りする。とその時、中央寄りのコボルトが床に散乱していた椅子に脚をとられ、のけ反るように転倒すると全てのコボルトの視線はそこに一点集中する。

 ガインとランディスはその一瞬を見逃さず、攻勢に出る。



「ウオラアァ!!」

「今だ!」



 ガインは(すみ)よりのコボルトを薙ぎ払おうと、両手持ちにした斧を目一杯振り、ランディスはそれに合わせるように、攻撃を防いでいた大剣を力一杯押し出し、コボルト達をのけぞらせると中央寄りのコボルトに向かって、流れるような動きで大剣を振り下ろす。



「グガアアァッ!!」

「グガアアァッ!!」



 そして斧によりめり込んだ脇腹は、遠心力で壁まで身体ごと吹き飛ばされ、大剣でとらえた脳天は重力まかせに切り裂かれる。

 その一連の動作は、心が通じあっているかのようにも見える。


 一時の間、二人の活躍に見とれるフレークとシルク。



「す、すごい……」

「ふん、少しはやるじゃない……」



 コボルトを一体ずつ仕留めたガインとランディスは、それぞれ対になるように向かい合う。



「さあ、どうするよ?」

「後はお前達だけだぞ!」



 ガインとランディスは、お互い離れるようにしてコボルトを角に追いやる。

 だが、ガインと対峙していたコボルトは床に転がっていた椅子を、最後の悪あがきといわんばかりに投げつけてくる。



「うおぉ! 危ねぇ!」



 ガインは間一髪身を屈めて椅子を回避するが、その避けた椅子は入り口にいたシルクとフレーク目掛けて飛んでいく。



「危ない! フレーク!!」

「ひきゃん!!」



 シルクはフレークをかばうように身を伏せると、椅子は入り口を抜けていき奥の部屋の壁にぶつかり、床にバラバラになって落ちていく。


 椅子が飛んで来たことに激昂するシルクは、ガインに食ってかかる。



「何やってんのよ!? ガイン!! 椅子ぐらいあンたが受け止めるとかしなさいよ!!」


「うるせえな! 椅子がちょっと飛んでったぐらいでガタガタ言ってんじゃねえよ! そっちこそ、椅子ぐれえてめえで何とかしやがれ!!」



 ガインは目の前にいるコボルトを気にもとめず、言葉を続ける。



「まあ、あれか! かっ飛んできた椅子にもびびっちまうから、コボルト一体にも手こずっちまうんだな!!」



 その言葉を聞くやいなや、シルクは感情に任せて短刀を振り上げるが、フレークが前から抱きつきそれを抑える。



「あンた、今度は当てるって言ったわよね!?」

「駄目だよシルク! こんな時に喧嘩しないで!!」



 しかしそれでもガインは、まだ言葉を続ける。



「ああ!? 当てられるもんなら当ててみやがれ!!」

「ガインのやつ……! フレーク、どいて!! あいつの眉間にこの短刀投げつけてやる!!」

「駄目だってば!! それに背中見せてるのに、どうやって眉間を狙うのぉ!?」



 そんな光景を見かねたランディスが、大声を出して仲裁に入る。



「ふたりとも何をやってるんだ! 戦闘中だぞ!! こんな時に仲間割れなんかするんじゃない!! もっと緊張感を持って……」



 と、ランディスが言葉を続けようとしたとき、コボルトがガインに向かって飛びかかる。



「ガイン、来るぞ!!」

「オラァ!」



 ガインはランディスの声に反応し、とっさに斧を突き出すと、それはコボルトのみぞおちに深々と突き刺さり、無言のまま床へと崩れ落ちる。そして、残るはランディスが対峙する一体のみとなると、斧を肩にかけながら、さも自分の仕事は終わったかのように高見の見物をする。


「あとはそいつだけだぜ、ランディス。何手こずってるんだよ?」

「よくそんな事言えるな! お前達が喧嘩なんかするから、こうなってるんだろ!!」



 コボルトと間合いを取りつつも、ガインに言葉を返すランディスは隙を見て力押しで攻め込もうとする。

 しかし優位に立ったせいか、構えていた大剣から一瞬力が抜けてしまう。その気の緩みが部屋にいたみんなに伝わったのか、コボルトはその隙を見逃さず、身を翻して部屋の角へと駆け出していく。



「あっ!」

「あっ!」

「あっ!」



 咄嗟の出来事に、みんなは声をあげる。

 右角にある扉を目指し、コボルトはそこから逃げ出そうとする。



「何やってんだ! ランディス!! 速く追いかけろ!!」

「ガインが傍観しているからだろ! ……くそ、待て!!」



 お互いに責任転嫁しながらも、ランディスは急いで後を追う。



「ね、ねぇ、シルク! どうすればいいの!?」



 フレークが助けを求めるように振り向くと、そこにシルクの姿は無かった。



「……シルク……?」


お読みいただき、ありがとうございます。

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