第6話 資質
……ゴソゴソ……。 ……ガタゴト……。
「ね、ねぇ……、シルク。何の音かな……?」
謎の音に怯えるフレーク。すりあしでシルクに近づくと、そのまま二の腕に抱きつく。
「落ち着きなさい、フレーク。怯えても、何も始まらないわ」
シルクは、フレークの両手を力強く握ると、不安を取り除くように、毅然と語りかける。
そこに、ガインが口を挟む。
「なあ、何か左の扉から聴こえるような気がしないか? だったら、扉が開いて襲いかかってくるんじゃないか?」
「やだ!! 怖い!!」
ガインの言葉に恐怖を覚えるフレークは、シルクの二の腕にさらに強く抱きつき、顔を埋める。
「………っ!!!」
その瞬間、シルクは頬を赤らめ、顔を少しうつむかせた。
「ちょっと! ガイン!! なに無駄にフレークを怖がらせてるのよ!! ……フレーク! あンたもいつまで抱きついているのよ!! ビビりすぎなのよ!! さっさと離れなさいよ!!」
シルクは思い出したかのようにガインに当たり、半ば無理矢理、抱きついていたフレークを身体から引き離した。
「……おお、悪ぃ。そんなつもりは無かったんだけどよ……」
「ご、ごめんなさい、シルク。迷惑ばかりかけて……」
「え? あ……、わ、解れば良いのよ、解れば……」
素直に謝る、ガインとフレーク。謝れ慣れていないシルクはわたわたする。
そうこうしているうちに、物音がしなくなっている事に気がつく、ガインとシルク。
「……なあ? なんか、いつの間にか静かになってないか?」
「そういえば、そうね。……どうやら、襲ってくる事はないみたいね」
それを聞いたフレークは、床に杖をつき「良かったー……」と、声を漏らすと、ヘナヘナとひざまづく。
「……で、だ。これからどうするよ?」
「どどど……、どうするっ……て、なに?」
ガインの言葉に、再び震えるフレーク。
「え? いやだからよ? これからどうするか、だよ。まさか、このままって訳にもいかないだろ?」
「そうね……。やっぱりさっきと同じように、ランディスを先頭として、隊列は変えずにあの部屋開けてみるのが良いんじゃないかしら?」
シルクはガインの提案に同調し、作戦を提議する。
「えぇーー!! あそこ行くのーー!?」
ガインとシルクの言葉を耳にしたフレークは、またも恐怖し、立ち上がれなくなってしまう。
「そうだな、それが一番無難……」
と、ガインがシルクの作戦に賛同し、それを言葉にしかけたとき、ある事に気づく。
「……なあ? 何か変じゃないか? これ?」
「なによ? 私が意見しちゃいけないって言うの?」
ガインに『変』と言われて、少し不満そうな顔をするシルク。
しかし、ガインは話を続ける。
「いや、そうじゃなくてさ、これって、リーダーであるランディスの役目じゃねえか?」
「ん……?」
ガインの発した言葉をシルクは頭の中でゆっくりと整理する。
……。
…………。
………………。
ようやく言葉を理解したシルク。ガインに突っ込まれた事も手伝ってか、余計に神経を逆撫でし、いつも以上にランディスに喰ってかかる。
「そ、そうよ! ランディス!! よくよく考えたら、何で私が作戦を発案して、みんなの意見を聴いて、それを取りまとめて、最終決定しなきゃいけないのよ!! これって、ランディス!! あなたの務めでしょ!! 大体、何でさっきから話し合いに入ってこないのよ!!」
「……え? そ、それは、その、シルクが俺の代わりに意見を述べてくれるから、わざわざ口を挟まなくても、良いかなーって……」
何故か先程からランディスは、傍観者のような振る舞いを見せ、シルクの質問に他人事みたいに答えていた。
「まさかランディス、さっきのバブリースライムで、ビビってるんじゃないでしょうね?」
「な、何言ってるんだよ!? そ、そんな訳ないだろ!!」
正に図星だったのか、ランディスは顔をひきつらせ、両腕を大袈裟に振る。
そこへ、シルクがたたみかける。
「じゃあ、ランディス。あンたリーダーとして、何か言うこと言いなさいよ。これからどう行動すれば良いか、とか」
「そ、そうだな。ええと、あー……、うん! そうそう!! あれだ!! さっきこの部屋に入った時と同じようにだな、隊列は変えずに、俺が先頭になってあの部屋の扉を開ける……、って、いうのは、どうだ!?」
「……それって、少し前にシルクが言ってた事と全く同じゃねぇか……」
ランディスの出した答えを聞いた、ガインとシルクは力が抜けてしまう。
「い、いや、俺もシルクと同じ事を考えてたんだ! そうしたら、先に言われたもんだから、何かこう、入る間を失って……、信じてくれ!!」
懸命に弁解するランディス。
……しかし、
「はいはい、そういう事にしておくわ……」
シルクは頭をモシャモシャとかき、溜め息をついていた。
と、そこへ、思いきった大声を出す者がいた。
「ねぇ、みんな!!」
皆、一様に響きわたる声のする方へ振り向く。
「あ、あのね、提案があるんだけど……」
その声の正体はフレークだった。
「どうしたの? フレーク?」
フレークの提案に耳を傾けるシルク。
「うん、えっと……。私の提案なんだけど、もういっその事、あの部屋に入るのは諦めて、先に進む……っていうのはどうかな?」
…………。
しばし、顔を見合せる三人。
すると、
「確かにそうだな」
「無理に闘って、怪我してもしょうがないしね」
「お宝も何も無いしな」
互いの思いを口にし、フレークに同調する三人。
「あ、あれ?これって……、」
なにか、数分前の記憶を巻き戻したような感覚になるフレーク。
「よし、開けよう」
「よし、開けよう」
「よし、開けよう」
「やっぱりーー!!」
その時、フレークは目に涙を溜め、数分前の自分を思い返していた。
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