第2話 三年前……
当時、13歳だった四人組パーティーは、ある洞窟に入ろうとしていた。
「ねぇ……、本当にこの洞窟に入るの……? やっぱり止めない……?」
不安な顔で三人に語りかけるのは、魔法攻撃や、回復役のフレーク・ココア。
頭には、魔法使いがよく使う三角帽子をかぶり、身体には、ローブを纏っている。
「大丈夫だって! そんなに深い階層に潜るわけじゃ無ねぇんだ。回復薬も沢山持ってんだ、心配ねえよ」
洞窟の入口に手をかけフレークに返答するのは、ガイン・ドマドール。斧での接近戦を主流とする。
身体には、胸当て、籠手、すね当てとも、鋼で鍛工された防具を身に付けている。
「でも、洞窟に入って戻って来なかった人って数えきれないほどいるんでしょ? やっぱり危ないんじゃ……」
「そんなに言うんだったらフレーク、あンただけ入口で待ってれば良いじゃない。私達三人だけで行くから」
心配するフレークに耳を貸さず強気で話すのは、危険予知や罠の解除が主な役目のシルク・カルザス。
身軽さを重視している為か、身を守る類いのものは、一切つけていない。
「私達が、金銀財宝を両手一杯にして戻って来るのを、ただ指をくわえて待っていれば良いんだわ!!」
「そ、そんなつもりで言ったんじゃ……」
シルクに強く言われるフレーク。発する声は震え、ついには、目から涙を流してしまう。
「おい、やめろよ。……大丈夫だよ、フレーク。準備は万全だし、別に洞窟の主を倒そうってわけじゃ無い。危なくなったらすぐに戻ってくればいいさ」
シルクをなだめ、フレークを慰めるのはパーティーのリーダーであり、盾役として体を張るランディス・バーンシュタイン。
細身の身体に吸い付き、自分の手足のように動かせるプレートメイルは、正に特注品。
このプレートメイルがどれ程の高級品かは、想像に難くない。
本当は兜付きのフルプレートメイルになるはずだったのだが、何故か、ランディスはそれを断った。
「何よ! ランディス!! 私を悪者扱いして!! これだからお金持ちのお坊ちゃんは!!」
「やめろってば!! フレークはうちの大切な回復役なんだぞ!! 喧嘩してどうする!!」
ランディスがフレークをかばえば、シルクが食って掛かる。
そこに、ガインが割って入る。
「ランディスがフレークを相手するもんだから、面白くないんだよな? シルク」
まさに図星だったようで、シルクは「ひみゃ!!」と、変な声を出し、耳まで赤くすると、持っていた短刀を勢いそのままにガインに投げつける。
短刀はガインの右腕をかすめ、洞窟の入口の壁に当たると、くるくると放物線を描き、そのまま地面に落ちる。
「危ねえだろ!! 怪我したらどうすんだ!!」
「バカじゃないの!? 当たらないように投げたに決まってンじゃない!!」
「だから喧嘩するなってば!! 洞窟入る前から雰囲気悪くしてどうする!!」
言い争いするガインとシルクを、ランディスが止める。
「……とにかく、フレーク。無理せずにゆっくり行けば、問題ないさ」
フレークの不安を取り除こうと、ランディスは懸命になる。
「そうかなぁ……。私達が入るには、やっぱり早すぎない?」
フレークの不安は取り除けない。
弱気なフレークに、シルクはしびれを切らし、皆に早く洞窟に入るよう促す。
「あーっ!! もう!! 無駄無駄!! フレークには、何言っても無駄よ!! 本当、臆病なんだから!! ランディス、もう洞窟、入っちゃいましょ!!」
「そうだな。……なあ、洞窟から出てくる時には俺達、大金持ちかもな!」
ガインはシルクに同調し、夢物語をしながら、我先にと洞窟に入って行く。
「おい! 待てよ!! 勝手に先に行くな!! 危ないだろ!! ……フレーク、危なくなったら俺が守って上げるよ。だから、心配しないで一緒に行こう」
ランディスは、先に行くふたりを叱りつつも、フレークに声をかけ、手を差し出す。
「うん……。そうだよね、きっと、大丈夫だよね? ……でも、危なくなったら、ちゃんと守ってね?」
フレークは、差し出された手を掴み、ランディスと共に洞窟に入って行った。
……そして、四人は後悔する……。なぜ、あの時止めておかなかったのか……。どうして、洞窟に入ってしまったのかを……。
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