第14話 転移魔法
「また扉かよ……」
ガインが声を洩らしたその時、微かな気配を感じ後ろを振り向くものがいた。
「どうしたの? シルク……」
フレークはシルクを気にかけるが、かけた声が耳に届かないのか、シルクは真剣な眼差しで後ろを見つめる。
シルクの感じた気配は次第に強くなると、それは皆の知るところとなり、四人の意識は通路に集中し、しばし沈黙が走る……。
「……お、おい……、なんだよ? あれ……」
ガインは静寂を打ち破るように呟くと、異変が起きる。
じわじわと地面から染み出てきた、眼にも捉える事も難しい大量のそれは、空気を微かに揺らしながら共に結合しあうと、周りの空気は徐々に激しく揺れ動き、大量のそれは、やがて肉眼でも見えるほどに大きくなる。
「転移魔法だ……」
フレークは心を躍動させながらそう囁くと、その転移魔法と呼ばれるものは次々と小さい丸い物体と結合しあうと、次第に、杖を持った滑らかな姿態と、ごつごつしたふたつの身体を形作る。
「あれが転移魔法なの……?」
「見るのは初めてだ……」
体感した事のないその光景に声が漏れるシルクとランディス。
滑らかな姿態とごつごつした二つの物体は、完全に再生を果たすと、何事も無かったかのように動きだし、会話を始めた。
「今日も、大して金になるものは手に入らなかったな」
「まぁ、でもこれで三、四日は食うには困らないんじゃない?」
ごつごつした身体と滑らかな姿態の正体は、甲冑を着た髭面の中年男性と、漆黒のローブを纏った中年女性だった。ふたりは何やら麻袋に手を入れ、中味を吟味しているようだった。
「確かにそうだがなぁ。たまには目の眩むようなお宝にお目にかかりたいもんだよ」
「あなたったら、またそんな事言って……。どうでもいいけど、まだ子供も手がかかるんだから、稼ぎが酒代に消える……なんて事はやめてよ?」
目の前に現れた中年二人組を四人はしばし傍観していると、シルクが肘でランディスの脇腹を小突き始め、目配せで中年二人組に声を掛けてくるように促す。
「え……? 何で俺が……?」
「だって、あンた、リーダーなんだから、たまにはその務めを果たしなさいよ?」
そう言いながらシルクは脇腹を小突き続け、ランディスを前に押し出そうとすると、ガインが茶色い髪をわしゃわしゃと掻きながら口を挟んで来る。
「なあ、お二人さん。お楽しみの所悪いんだけどよ……」
「どういう意味よ!?」
「どういう意味だよ!?」
シルクとランディスは頬を赤らめて即答するが、ガインは構わず、通路の方を指差しこう言った。
「フレークの奴、もうあいつらの所行っちまったぜ?」
「え?」
「え?」
ランディスとシルクが言い合いしている内に、既にフレークは中年二人組の近くに向かっていた。だが、側まで来たは良いが声をかけられずに尻込みをしているようだった。
「あの子ってば! どうしてこうも無警戒なのよ!?」
シルクは、ただ見ていたガインにひとしきり暴言を吐くと、フレークを止めに中年二人組の元へ向かい、ランディスとガインはその背中を追った。
そんな三人の心配を他所にフレークは、中年二人組の側をうろうろしていると、髭面の男性が気配に気付き、振り返って来る。
「やあ、お嬢ちゃん。おじさんになにか用かな?」
「え……? あの……」
先に話かけられたフレークは、少し頬を赤らめ、声を出そうとする。しかし、近くで見るその髭面の男性は、相当な上背があり、小柄な体型のフレークが目線を合わせるには、首が辛くなるほどに見上げなければならず、気づけば、フレークの口は大きく空き、言葉を失っていた。
「あなた、駄目じゃない。子供を怖がらせちゃ。怯えて、声も出なくなってるでしょ?」
漆黒の女性はそのフレークの様子を気にかけ、髭面の男性の後ろから声をかけて来る。
「いや、怖がらせるつもりは無かったんだけどなぁ? 俺、そんなに怖いかな?」
「当たり前でしょ? そんなに図体がでかくて、しかも毛だるまな顔で見下ろされたら、誰だって怯えちゃうわよ? 酒臭いし」
「酒臭いは余計だよ……」
髭面の男性に語りかける漆黒の女性のその穏やかな口調は、その場の雰囲気を徐々に和ませ、フレークの心を少しずつ柔らげる。
そこへシルクが短刀を構えて大声で駆けつける。
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