第11話 初陣を終えて
フレークに指摘され三人の間には気恥ずかしい雰囲気が漂っていたが、それを打ち破ろうと、ランディスは両腕を大袈裟に広げみんなに語りかける。
「まあ、何時までも此所でこうしててもしょうがないし、先に進むとしようか」
「それもそうね。今回の事は次にいかせば良い訳だし」
シルクはランディスの言葉に同調するが、そこにガインが割って入る。
「まあまあ、ちょっと待てよ。せっかく初陣を飾ったんだぜ? 何か戦利品を貰っていっても罸は当たんねぇじゃねぇか?」
「え? どういう意味?」
その言葉を耳にしたフレークは胸の苦しさを感じる。それを知ってか知らずか、ガインは話を続ける。
「いや、だからよ? 何か使えるもんがあったら持っていこうぜって言ってんだよ」
「それだと私達、まるで追い剥ぎみたいじゃない?」
「おいおい、人聞きの悪い事を言うなよ。ちょっと適当なものがあったら拝借させてもらうだけさ。」
胸の中に渦巻くものが罪悪感だとは気づかずに、ガインと言い合いをするフレーク。そこへ、シルクが言葉を返す。
「何よあンた、お宝何か無いって言ってたじゃない」
「そこはそれ、念のためだよ、念のため。金目のものや何か強力な武器があるかも知れねえじゃねぇか!」
「言い方を変えても、やる事は対して変わらないよ!?」
「それにこんな入口付近のとこなんて、探すだけ無駄よ。大した物無いわ」
ガインの提案に、理由は違えど意見は一致し真っ向から対立するフレークとシルク。いつ終わるとも解らない三人の言い争いを納めようと、ランディスが口を挟む。
「こうしていがみ合っても始まらないよ。……ここはガインの言う通り、みんなで何かないか探してみよう。そうすればお前も気がすむだろ?」
「おい! その言いぐさだと俺が悪いみたいじゃねえか!! ……まあいいか。そうと決まったら、早速宝探しと行こうぜ!!」
ランディスはガインの提案に乗るように持ちかけるが、渋い顔をするフレークとシルク。だが、ガインは素知らぬ顔で宝探しと言う名目で部屋を荒し始めようとする。
「私は嫌だな……そんな事するの……」
「そうよ、大体ランディスも言ってたじゃない。こんな部屋、何も無いって」
「まあまあ、いくらガインでも、探すだけ探して何も出て来なかったら、納得するだろ?」
「おい! 聞こえてるぞ!!」
ふたりはなかなか首を縦に降らないが、次のランディスの言葉に、シルクは心揺り動かされてしまう。
「それにシルク、万が一宝箱が出てきたら君のその腕を試してみたいと思わないかい?」
「いや、まあ、早い内に手馴れておきたいとは思うけど……」
自分の腕前を披露できる格好の場である宝箱という響きはシルクにとって耳に心地よい。何故ならこの洞窟に限らず、発見される大抵の宝箱は何かしらの罠が仕掛けられているためだ。そんな罠の解除を得意とする者は、中の財宝は二の次で困難と思われる罠を外したその瞬間に最高の優越感に浸るという……。
「ま、まあ、何も出てこないとは思うけど、もし宝箱を見つけたら私に言いなさいよ?」
「あれれーー!?」
ランディスに懐柔されたシルクを見て、フレークは後に「危険予知をする者としてどうか」と目に涙を溜めて誰にも語れなかった。そんなフレークの右肩に手を添えてシルクは独特の『全滅論』を語り始めるが、フレークの頬には冷たいものが伝うばかりだった。
こうして、四人はコボルトの巣窟だった部屋を手分けして物色し始める事となる。
「じゃあ、こっちと隣の部屋は俺とガインが、棚のある広い部屋はシルク、フレークと一緒に頼む」
ランディスが二手に別れて調べるよう指示を出すと、みんな返事をし各部屋を探索し始める。
各々が自分なりに棚を調べたり、壁をまさぐったりするが、未だに主だったものは出て来なかった。
そんな中、農業用具をいじりながら話しかけるフレークに、シルクは鎧などの残骸を探りつつその質問に答える。
「……こんな事、許されるのかな……」
「いずれ、奥に進んだら似たような事をやるわ。勝者の権利と思って割り切りなさい」
『勝者の権利』……そんな言葉でフレークの気持ちは到底割り切る事は出来なかった。
一方、残りの二部屋は、ランディスが農業部屋の土をそれなりに掘り返し、ガインは半ば乱暴にコボルトの亡骸を避けながら、何か無いか探っていた。
「くそっ! 何だよ! 本当に何も無えじゃねぇか! 何か美味しい物があるかと思ったのによ!」
「そんなに熱くなるなよ。お前だってこんな入口付近の部屋、大した期待なんてして……ん……?」
期待した物が見つからず、声を荒くするガインをなだめるランディス。その手に何か硬い物が触れる。
ガインはランディスのほんの少しの感情の変化を見逃さず、駆け寄っていく。
「何か見つかったのか!?」
「凄い嗅覚だな、お前……。まだお宝かどうか解らないぞ?」
ランディスは硬いものの正体を確かめるべく、慎重に土を掘り返していくと、少しずつそれは姿を現していく。
「おい……これ、宝箱じゃねぇか!?」
「宝箱だな……」
「宝箱!?」
ふたりが硬いものの正体を互いに確認しあったその時、もう一人分、声が増える。
「おい、シルク。お前ぇ、いつの間に後ろにいたんだよ!?」
「うるさいわね、別にどうでもいいでしょ? そんな事」
「だから何なんだ? お前達のその鋭い嗅覚は……」
「て言うか、なんちゅう地獄耳だよ」
宝箱という言葉に反応したシルクは、別の部屋に居たにも関わらず、フレークを置いて飛んで来たのだった。
「シルク……? どこに行ったの?」
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