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第10話 若さ故の……

 突然の出来事にしばし呆けてしまうフレークだったが、後ろの部屋から何か激しい物音が聞こえたことにより我に返ると、シルクを探すため入口から顔を覗かせて辺りを見渡すが、見つける事は出来なかった。


「……どうしよう……シルク……どうしよう……!!」


 シルクを見失い、気が動転しているフレークは、震えた声でガインとランディスに助けを求める。


「ガイン、ランディス、大変なの! シルクが……シルクがいないの!」


「あぁ!? どこ行きやがったんだ!? あいつ!? 心配させやがって!!」


 それを聞いたガインは身を反転させ、フレークに駆け寄ろうとするが、ランディスはコボルト追いかけつつ、ガインを制止する。


「落ち着くんだ! ふたりとも!! はやる気持ちは分かるが、先ずはコボルトを倒すことが先決だ!」


 そしてコボルトに向かって大剣を振り下ろすが、剣筋は虚しく空を切る。コボルトはまんまと部屋の角に到達し、隣の部屋に逃げ込もうと扉を開けた瞬間、隣の部屋から聞き慣れた声を耳にする。



「はい、そこまで!」



 その声の主はコボルトを後ずらせ、そのまま部屋の中に入ってくると両手を腰に当て、自信過剰な態度を皆に見せつける。



「シルク!!」

「シルク!!」

「シルク!!」



 その声の正体はシルク・カルザスだった。

 扉から突然現れたシルクの姿に皆、驚きの声を上げる。



「良かった……! シルク、無事だったんだね!」

「てめぇ、勝手に消えやがって! びっくりしたじゃねぇか!」



 シルクの身を案じていたフレークとガインは、安堵したのか思い思いの胸の内をシルクにぶつける。



「当たり前でしょ。敵の手に落ちるほど、私もやわじゃ無いわよ。本当、みんな心配…………そんな事よりもランディス、今はこのコボルトを何とかするわよ!」


 シルクは頬を赤らめ、言いかけた言葉を飲み込むと、目の前のコボルトに専念する。


「そ、そうだな! さあ! これでもうお前は逃げられないぞ!」


 シルクとランディスに挟み撃ちにされたコボルトは、手の内が無くなったのかすっかり意気消沈し、辺りを見渡すばかり。ガインが斧を構え追い撃ちとばかりに詰めよって行く。追い詰められたコボルト。そこへランディスは大剣を振りかざしたその瞬間――



「ワオォーン!!」



 コボルトは最後のあがきとばかりに、シルクに向かって襲いかかってきた!!



「あ!」



 急いで大剣を振り下ろすランディスだったが、またも剣筋は空を切り、コボルトの片手剣がシルクに向かって切りかかる!!



 だが――



 シルクは襲いかかってきたコボルトの右腕を掴むと……


「さっきは……」

「ヴヴォ!?」


 しなやかな身体の動きで懐に潜り込み、コボルトの身体を浮かせると、


「よくもやってくれたわねーー!!」

「ガアアアアァー!」


 勢いそのままに地面に向かって投げつける!!


「ガアッ! ガハッ!」


 コボルトは背中から叩きつけられた衝撃によって身動きが取れず、ひとりと一体の周りには 砂埃が舞い上がる。

 何とか痛みから解放され身体を起こそうとしたその時、コボルトの瞳が最後に映し出したのは、短刀を逆手持ちにし、眉間めがけて振り下ろされるシルクの姿だった。



「……これで全てのコボルトを倒すことが出来たわね。……ああもう! 何で抜けないのよ!」


 シルクは眉間に刺さった短刀を引き抜くのに手こずりながらも、そうみんなに語りかけると、それにガインが答える。


「まあ、実戦経験皆無な俺達にしちゃ、上出来じゃねえ? 誰も怪我しねぇで済んだことだし……」



 そして何か言わないと気が済まないのか、コボルトを倒すのに手を焼いたシルクを茶化し、神経を逆撫でする。



「いや、ひとりだけ治癒魔法の世話になった奴がいるか!」


「あンた、今度は当てるって言ったわよね……」


 シルクは、手に握った短刀を投げつけ感情を露にしようとするが、短刀は未だ引き抜くことが出来ず、小声になってしまう。



 これはいつもの言い合いでは終わらないかも……。そう思ったランディスとフレークは、ふたりをなだめようと間に割って入る。



「お、おい! 止めないか! ガイン! やっと仲間がひとつにまとまってきたっていうのに、どうしてお前は一言多いんだ!?」


「そ……そうだよ……。それに、シルクが怪我をしたのは私の助けてくれたからだし……」



 険悪な雰囲気にならないよう、懸命になるランディスとフレークだが、それでもガインは減らず口を叩く。



「おおっ! その短刀、当てられるもんなら当ててみやがれ! ……って言っても? 短刀が抜けえんじゃ、それもできやしねえか!?」


 ガインに囃し立てられ、頭に血がのぼったシルクは、短刀から手を離し、床に落ちていた片手剣を両手で拾う。


「…………ガイィィンンン…………!!」


 そしてそのまま立ち上がり、それを投げつけようと感情の赴くままに振りかぶる。

 それを見たランディスはガインの、フレークはシルクの身体を抑え、これ以上険悪な雰囲気にならないよう、必死になる。



「いい加減にしないか、ガイン! お前は何で、人を怒らせないと気がすまないんだ!?」


「落ち着いてシルク! 危ないから、その剣を早く下ろして!!」


 ふたりの想いは伝わらず、ガインとシルクの言い争いは熱を帯びる。


「何だよ!? 俺はただ本当の事を言っただけだろ!? とやかく言われる筋合いは無ぇ!」


「もう許せない! フレーク、どいて!! このままガインの奴をたたっ斬ってやる!!」



 とその時、片手剣を扱うのは難があったのか、シルクは振りかぶったまま体制を崩し、後ろによろめいたかと思うと、そのままフレークと一緒に倒れこんでしまう。


「ひみゃ!」

「ひきゃあん!」


 驚いたガインとランディスは急いでふたりに駆け寄る。


「お、おい……大丈夫かよ……」

「ふたりとも、怪我はないか!?」


 シルクとフレークが転んだことによって、熱を帯びたガインとシルクの喧嘩は一気に冷めていった。



「ああ、もう!? 何でこうなるのよ!」

「ご、ごめんね、シルク……。立てる? 怪我してない?」



 フレークは、片手剣を扱えず苛立つシルクに手を差しのべると、その手をシルクは「あ、ありがとう……」と言い、素直に握ろうとする。とその時、何かを思い出したかの様に赤面し、耳まで真っ赤にする。


「し、心配し過ぎなのよ! フレーク!! 手なんか握らなくても自分で立てるから!」

「え……? あ、ご、ごめんなさい……」

「だから……、いちいち謝らなくていいってば!!」



 シルクはそう言うと自分で立ち上がり、皆に背を向けると両手をぱたぱたさせ、火照った顔を冷まそうとする。

 そんな後ろ姿をフレークとランディスは心配そうに見つめる。


「何があったのかな……?」

「さあ……」


 そんな中、ガインはシルクあることを聞く。


「そう言えばよシルク、お前どうやってそこの扉から出てきたんだよ?」


「え? ああ……、それね。簡単な事よ。私達がこの部屋に入る前に、棚を挟んで反対側にもうひとつ、扉があったでしょ? そこから飛び込んで、先回りしたのよ」


 その説明を聞いたガインは、斧をかつぎながら隣の部屋を覗きこみ、その後にランディス、フレークが続く。


「おお……、なるほどなぁ……。そう言えば三部屋に仕切られてるって言ってたもんな。だからあの扉から先回りできるって解ったんだな」


 そして、隣の部屋に踏み込むと床の感触の変化に驚き、仰け反ってしまう。


「おおっ! 何だ!? この床!?」


「ああ、それね。どうも耕されてるみたいよ? ここだけ床の感触が違うから、この部屋に飛び込んだとき転ぶかと思ったわよ」


 シルクの説明を聞いたランディスは、何故農業用具や肥料があるのかを理解する。


「そうか、この部屋で作物等を育てるために、農業用具が必要だったんだな」



 その様子を少し後ろから覗いていたフレークは、あることに気付き、皆に語りかける。



「ね、ねぇ、みんな、今更こんな事言うのはあれなんだけど……」


「どうしたの? フレーク」



 フレークは一呼吸置いてから、ゆっくりと言葉を続ける。



「こっちの扉って防壁が張って無かったみたいだし、だったら、この扉から入った方が簡単だったんじゃないかなー……? なんて……」



 その言葉を聞いた瞬間、三人はお互いに明後日の方を向き、遠い目をすると、口を揃えてこう言った。


「認めたくないよね、若さゆえの過ちは……」

「認めたくないわね、若さゆえの過ちは……」

「認めたくねぇなあ、若さゆえの過ちは……」



「みんな、何を言っているの……?」


お読みいただきありがとうございます。

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