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56 恋バナ

「姫様、おはようございます」

「おはよう、セラ」



いつも通り、シャーロットの部屋へ向かい朝の挨拶をする。

にこっと愛らしい笑みを挨拶と共に返した

シャーロットにセラはちょっと泣きそうになった。



姫様超可愛い。

すごく癒される。



朝からダメージを受けて

黄色になっていたHPゲージが徐々に回復していく気がする。

手招きするシャーロットに素直に近づくセラを見て、彼女と一緒に出勤した

ドラウンの脳裏には尻尾を振って駆けていく犬が浮かんでいた。

まさか上司に犬認定されているとは思いもしないセラは

すすめられるままにシャーロットの向かいのソファに腰を下ろす。



「それで、どうなの?」

「はい?」

「だから、昨日の話よ!」

「――エッ」



機嫌よくにこにこしている彼女だが、いつになく興味津々と

言った様子で口を開いたシャーロットの言葉に笑顔がフリーズした。

そんなセラにシャーロットは追い打ちをかけるように

「貴方に恋人がいるだなんて知らなかったわ」と続ける。



いや、私も知らなかったです。

私、いつの間に、恋人いたんですか。



噂には尾びれが付く事はわかっていたが、

これはまた酷いなぁとセラは遠い目をして頭を抱えた。

けれども興奮気味のシャーロットの追従は止まらない。

向けられるキラキラしたライムグリーンの大きな瞳が

純粋過ぎて居た堪れないし、セラの心に容赦なく刺さる。



「ねぇ、どんな人?」

「かっこいい?」

「会ってみたいわ!」



きゃあきゃあと一人楽しそうなシャーロットにセラが慌てて待ったをかけた。

途端に口を閉じて、わくわくとセラの言葉を待つ彼女にセラは

頬を引きつらせて「誤解です」とキッパリ告げる。



「私に恋人はいません」

「「えっ?」」



スンとした顔での返事に対し、驚きの声が3つも返ってきた。

その事にセラはじとりとした目を紅茶を出してくれた

シャーリィ付きのメイドであるヴィオラへと向ける。

すると彼女は咄嗟に出てしまったらしい声を誤魔化す様にトレーで口元を隠した。



「でも、お二人は始終大変仲睦まじい様子だったと、聞いておりますわ」

「そりゃ幼馴染みたいなものだもの」

「でもでも!あちらの好意は確かなものなんですよねっ?」

「うっ…そ、れは、…まあ、」



セラからの視線に逃げる様に目を逸らしながら

ヴィオラがメイド仲間たちから聞いた情報を提示してきた。

普段はお手本のようなメイドの、

凄いはしゃぎっぷりとその勢いにセラは若干引きつつ返事をする。

ヴィオラの率直な言葉にセラは言葉を詰まらせ、視線を泳がせた。


ちなみにこのヴィオラはまだセラとシャーロットとの間に険しい壁が

あった頃に大失敗したルド&ジェイのお披露目の時にいたメイドである。

笑うまいと唇を噛み締め、肩を震わせているのが印象的だった。

これをきっかけに、今では「セラさん」「ヴィオラ」と

呼び合うほどセラは彼女と仲良くなっていた。

さん付けなんてしなくていいよ、と言ったのだがそこは王騎士とメイドという

立場があるのでと断られ、ちょっとしょんぼりしたセラである。


如何にか話題を変えようと逃げ道を探すが、

期待を前面に押し出した顔で先を促してくるシャーロットと

ヴィオラから逃げ切る自信も、言葉も見つからない。

なので口をもご付かせながら、正直に小さく頷いた。

ヴィオラのせいで昨日の一場面を思い出すはめになり、セラは思わず項垂れた。



「やだセラさん、可愛い!!」

「貴方でも照れる事ってあるのね…」

「本当に!普段はクールなセラさんがすっごく可愛く見える…!

 これぞ恋する乙女マジック!あぁやっぱり、恋って素敵だわぁ…!」



薄っすらと熱を帯びる頬にセラはげんなりとしていたのだが、

乙女2人には恥じらい俯いたように見えたらしい。

きゃあ!と喜びの声を上げ、2人して盛り上がっている。

いつもより血色の良い頬とキラキラと輝き、何処かうっとりと

目を細める彼女たちはまさしく恋に恋する乙女と言った様子だった。

恋バナは世界を超えようが、乙女の大好物なのである。

染めた頬を隠す様に頷くセラをまじまじと見ながら告げられた

シャーロットと、うっとりしながら告げられたヴィオラの中々失礼な発言に

セラは大人げなく本気で拗ねそうになった。



すみませんね、恋沙汰のレベルがとんでもなく低いもので。

一応乙女の端くれですけれど、残念ながら、昨日から散々

ヴェールヴァルド卿(おとうさま)に叱られてるくらいですからねぇ…!



「…もう姫様たちの耳にまで届いてるんですね…」

「そりゃそうよ。こんな面白い話、すぐに広まるわ」

「姫様酷い…」

「ただでさえセラさんは注目の的ですからねぇ。

 昨日から城中この話題で持ち切りですよ?」

「ウワァ…わかってはいたけど、すっごく嬉しくない情報」



げんなりとした顔でセラがため息をつく。

足元に控えているシロが不機嫌そうに鼻をならした。

朝からこれまで以上に不躾な視線にさらされた事で機嫌が悪いのだ。



「突然陛下から大抜擢された女性初の王騎士と

 色んな噂はありますが、あのゼドロス商会の若旦那の恋…!

 ああ、なんてロマンス溢れる展開…!素敵…!!」

「障害があればある程、2人の気持ちが燃え上がるというやつね」

「ちょ、姫様何処でそんなの覚えてくるんです?」

「恋愛小説に決まってるじゃない。貸してあげましょうか?」

「ツツシンデ、ゴエンリョシイタシマス」

「なんで片言なのよ」



ふわふわした雰囲気の居心地の悪さに

セラは身じろぎし、ヴィオラが淹れてくれた紅茶を飲もうと手を伸ばした。

鼻孔をくすぐる優しい香りに、何となくほっとする。

カップに口を付けようとして、



「それで、貴方はどうなの?」



ずばり。

唐突に切り込んでくるシャーロットの容赦のなさにセラは涙目になった。

「え、と」言葉を詰まらせ、結局口を付けずにカップをソーサーへと

戻すしたセラにヴィオラが苦笑いを浮かべた。

窘めるような響きを持って「姫様」とシャーロットを呼んだ

ヴィオラに彼女はパチリとその大きな目を瞬かせ「あぁ」と一つ頷いた。



「ごめんなさいね、気が利かなくて」



申し訳なさそうに眉を下げてそう言った

シャーロットにセラは快く許そうとした。

デリケートな部分に無遠慮に踏み入ろうとした事への謝罪だと思ったからだ。

けれど。



「ドラウン、少しの間部屋から出ていて頂戴」

「「えっ?」」



キリリとした表情でそう告げたシャーロットに

セラとドラウンが同時に戸惑いの声を上げ顔を見合わせる。

私、何かしました?と目で問いかけてくるドラウンに

セラは何も知らないと首を振って応えた。

そんな2人を見てシャーロットはこてんと愛らしく小首をかしげ口を開く。



「だって”こういう話”をするのに男性はいちゃ駄目でしょう?」



アッ違う。姫様、そうじゃない。

気を遣ってくれると嬉しいベクトルはそっちじゃない…!


何か間違ってる?と不思議そうな

シャーロットにセラは内心でそう突っ込み、天を仰いだ。

ドラウンはシャーロットの言葉に納得したのか「あぁ、そういう…」と

呟き、自身が何かをしたわけじゃないのだと知りほっとした様子だった。



「ですが私としても、その話題については大変興味があるんですがねぇ」

「駄目よ。恋バナは乙女だけでするものなの!」

「ははは、それは残念です。それでは」



柔らかな印象を受けるブラウンの瞳がチラリとセラに向けられる。

そこにはこちらを探るような色と、

純粋な興味が垣間見えてセラは頬を引きつらせた。

シャーロットに断られて残念そうに肩を落としたドラウンは

助けてくださいと念を送るセラに向けて、

頑張って言わんばかりの笑顔を残し、美しい一礼をして退出した。

親子ほどの年の差があるヴィオラですら薄っすらと頬を染める程威力のある

笑みだったが、セラにはイラっとしただけだった。


これでどうだ!と言わんばかりに向けられるライムグリーンは

女だけになったのだから、気兼ねなく話せるだろう語っていて、

セラはなんでこうなったと乾いた笑いを零した。

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