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54 その他

「ん、ぁ……?」



夕方から半ば無理やりに眠りについたセラが

目が覚めたのはすっかり夜が更けた頃だった。

最高の抱き枕(シロ)のお陰で寝すぎなほどある。

ただし、寝る前に無意識に立てたフラグのせいで目が覚めた今も

彼女はあまりスッキリした様子はなかった。

込み上げてきた欠伸を噛み殺して彼女はぐっすり眠っている

シロの頭を起こさないように撫でてから、そっとベッドから抜け出した。

カーテンを開けっ放しのまま眠りについたので、そこから差し込む月明りを

浴びてテーブルの上に置いていた小瓶たちがキラキラと輝いている。

俯くたびに落ちてくるサイドの髪が邪魔でセラは引き出しから

ペーパーナイフを取り出して、簪の要領で纏め上げた。

ポケットからハンカチを取り出し、

5つあった小瓶のうちの1つをその上に傾ける。

カランコロンと詰め込まれていた寒色系の飴たちがハンカチの上に散らばった。



「…♪」



シロを起こさないように気を付けて魔力を込めてメロディを紡ぐ。

そうすると、ハンカチの上にある飴の中で幾つかがキラリと光り、

セラは迷う事なく輝く小さな”飴”を傍らに避けた。

輝く事のない薄水色の飴を一つポイっと口に放り込んで、

彼女は貰ったときと同じような美しいグラデーションになるように小瓶に戻していく。

他の4つの瓶を見れば、それぞれが輝きを放っているのが確認できて

セラはゆるりとした笑みを浮かべ、同じ作業とあと4回繰り返した。

全ての飴を小瓶に戻すとセラはハンカチの上に残った

”飴”をつまみ月明りにかざした。



「…流石だわ」



キラキラと放たれる繊細な輝きにセラはうっとりとため息をついた。

小ぶりだが、純度の高い見事な魔宝石である。

まさに注文通り。

しかもその日の内にこれ程質の良い魔宝石が

7つも用意できるのだから”ゼドロス商会”がどれだけ大きな組織へと

育ったかがよくわかり、セラは一人感嘆の息を吐いた。

そしてバレない様にと飴に混ぜて渡してきたヤールの機転に脱帽する。

いつの間にか気遣いの出来るいい男に成長しとる…!と。


夢の中の彼はまだ物を売るどころか、下手をしたら

商人の口車に乗って偽物を買ってしまうくらい商売下手だったと言うのに。

しょっちゅうヒューズに怒鳴られていたのになぁと思い出しながら

魔宝石をハンカチでくるみ、大事に鞄のポケットにしまい込んだ。

そして簪替わりにしていたペーパーナイフを元の引き出しに戻し、

シャワールームへと足を向ける。



「…あー…今の生活で一番の利点は、

 何と言っても毎日好きなだけお風呂に入れる事よねぇ」



体と髪を洗い終えて、なみなみにお湯を張ったバスタブに体を沈める。

心地よい暖かさに今日一日で蓄積された頭と心のダメージが

じわりじわりと解けていくような気がした。

そこでふと正常に戻りつつあった思考がとある疑問をはじき出した。



あれ、もしかしてヤールも”対象”だったりするの?

確認する度にダメージばかり受けるから

ここしばらく確認してなかったけど……



「”ステータス”」



呟けば目の前にうっすらと青いガラスの様なモニターが現れ、

セラは慣れた様子でまるでタブレットの様に指を滑らしていく。



「…レベルが全然上がってない…」



自分のステータスを確認し、項垂れる。

旅をしていた頃は毎日何かしらのモンスターとの戦闘があったので

それなりのスピードで身体能力を示すレベルがあがっていた。

だが、騎士になってからは主に部屋でやる筋トレくらいしか出来ていないので

少しばかり経験値が積んであるだけで、レベルはそのままだった。



あ、また運が下がってる。

やめてよぉ、これ以上何が起こるっていうの…

明日からがめちゃくちゃ怖いんだけど…



なんて考えながら、やたらゆっくりと自分の画面を

スライドさせるのは、まだ心の準備が出来ていないせいだ。

けれどそれもすぐに終わりが来てしまう。

最後にもう一度一番上まで戻った。

セラと書かれた文字の下にある職業が王騎士になっているのを

じとりと見てから、セラは漸く右側についているカラフルなインデックスを確認した。

「黒」「オレンジ」「青」「水色」にはそれぞれ「リュー」「アル」

「フェリ」「クラウ」と書かれていたが、その下、残り2つの「赤」と「緑」には

何も書かれておらず、セラはあれっ?と首を傾げる。



もしかして私の勘違い…?



セラがそう思ったその時。

ステータス画面が輝き出した。



「ぅえっ!?」



驚いて勢いよく身を引くも、バスタブの中なのですぐに背中が

くっ付いてしまい、それ以上遠ざかる事が出来ない。

勢いよく動いたせいで、お湯が零れたが気にしてなんていられなかった。

兎に角、何が起こっているのだと恐怖から瞑ってしまいそうになる目を

どうにかこじ開けた薄目でモニターを注視していると、光はすぐに治まった。

呆気ないそれに思わずぽかんと一人湯船で呆けるセラ。



「…なんだったの…?」



そう呟いて、すっかりいつも通りに戻ったモニターを

セラは凝視するまでもなく、すぐに”それ”に気が付いた。

寧ろ気付かずにいられるわけがなかった。

なんせ、主張が激しいのだ。


”それ”は6つあったインデックスの一番下にあった。

プリクラでよく見かけた、キラキラ輝く可愛くポップに書かれた

New!!の文字が電光掲示板の様に流れていてセラは白目をむきそうになった。

「緑」の下に新しく出現したインデックスの色は「黄色」で

その上には「その他」と書かれている。

その他って…扱い酷いなと内心で突っ込みつつも、

込み上げてくる嫌な予感に人差し指を震わせながらタップした。



「ぬぅおおぉぉおぉお……やっぱりぃいいぃいぃ…!!」



切り替わった画面を見て思わず、天井を仰ぎ両手で顔を覆う。

相変わらずの乙女らしからぬ、うめき声と共に。

画面にはヤールの文字と写真(?)が表示されており、

その下にずらりと並ぶのはセラが知っている範囲内での個人情報だ。



「ふぁっ!?」



思わず変な声が飛び出た理由は、そのすぐ下にスチルが

表示されていて驚きがそのまま声に出てしまったからである。

心の準備も出来ずに、唐突に視界にはいった

その画像に叫び声をあげそうになって、セラは慌てて口を押えた。

代わりに心の中で大絶叫している。

顔だけでなく全身が逆上せた様に真っ赤に染まり、

込み上げる羞恥心から視界がじわりと滲んでいく。


スチルの数は3枚だった。

一枚はセラ自身の視点。

もう一枚は誰が撮ったの!?と問い詰めたくなるような、横から見た2人。



うわ、これめちゃくちゃ乙女ゲームっぽい…!

私の顔が上手くヤールの手で

隠れてる辺りが、何とも言えずそれっぽい…!!



前世で見慣れた配置のスチルにセラはズレた事を考えた。

そうでもしていないと、今にも指の間から奇声が漏れ出てしまいそうで。

3枚目はなんと幼い日の2人だった。

ついさっき夢で見た光景に、おいコラ、勝手に人様の夢にまで

影響を及ぼしてんじゃねぇぞと据わった目でスチルを睨んだ。



「それじゃ、セラは”白猫”だな」



脳裏で声変わり前の高い声がそう告げる。

驚きに目を丸くしたセラに、幼いヤールがぎこちない笑みを浮かべる。

あの頃はまだヤールは今の様な西訛りではなく普通の話方をしていたし、

セラの事を”お嬢”ではなく”セラ”と呼んでいた。

この日を境にヤールはセラを”白猫のお嬢”と呼ぶようになったのだ。



「…懐かしいな」



ぽつりとそう零して3枚目のスチルをそっと撫でる。

今の胡散臭いイメージとは程遠い、ツンケンした少年だった。

一人を好みすぐに何処かへ行ってしまうので目が離せなかった。

笑うと、細い目が更にきゅうっと細くなり、照れるとすぐにそっぽを向く。

そんな彼はセラにとって大切な人の枠の中にいる。


正直な話、悪い話じゃないのが何より厄介だった。

セラの性格を熟知していて、現状を理解した上で、彼らが選んだ最善の策。

まさかヤールもその中で想いを告げる事になるとは思いもよらなかっただろうけど。


セラを想うからこそ、

差し出されたその手にセラはぎゅっと目を瞑った。

彼らの判断は有難いし、とても嬉しい。

けれど、



「…迷惑は、かけられないよ」

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