48 尻尾?
「…それで、態々彼らを悪者に
仕立て上げてまで何を隠そうとしている?」
リナルドの心底理解できないといった様子の問いかけに
セラが言いづらそうに視線を泳がせていると、
「それについては俺の方から一つ報告があります」
という言葉と共に書類を片手に持ったアルフェリアが部屋に入ってきた。
「アル…お前、今までどこに行ってたんだ」叱るというよりも
呆れた様子でそう声をかけたのはリュグナードで、
アルフェリアはというと「ごめんごめん」と軽い調子で謝罪した。
そんな彼にそこら中からやれやれといったため息が漏れる。
「ちょっと気になる報告書を見つけてさぁ。
話を聞いてたら思ってた以上に時間がかっちゃって」
まるで悪びれた様子のないアルフェリアに何人かは
眉を寄せたが、続けられた言葉を聞いて文句を飲み込んだようだ。
ソフィーリアの斜め後ろに控えるように立つ彼に視線をやると、
いつも優し気な印象を受ける垂れ目が、酷く凍てついていて
セラは驚きに目を丸くする。
そんなセラに気づいたアルフェリアはパチリと一つ瞬きをしてから、
一瞬だけ気まずそうに視線を逸らし、へらりと笑って誤魔化した。
「で?」短い言葉で話を促され、アルフェリアは
手に持っている書類をソフィーリアの前に置いた。
「これは昨日、西門前であった騒動の報告書だな?」
「ええ」
ざっと目を通したソフィーリアが確認するように口を開くと、
いつものチャラさをひっこめたアルフェリアが真面目な顔で頷いた。
そしてそのままセラへと視線を向けて「昨日は本当にごめんね」と頭を下げた。
突然の謝罪に驚くセラや他の面子に彼は苦笑いを浮かべて、
事の経緯を説明する。
「この報告書には”サバトラ”とシロくんが一方的に騎士に
難癖を付けた事になっていますが、実際には騎士側に不正がありました」
失望のため息が漏れる中、セラはああその事かと一人納得した。
そして王都でもやはり都合がいいように情報は操作されるのだと知り、
こっそりと落胆する。自分の名前があがり、昨日の事を思い出したのか
今まで大人しくセラの膝の上で座っていたシロがぐるると小さく唸った。
不機嫌そうなその唸り声に会議室に微かな緊張が走る。
けれど白い手が宥める様に喉を撫でると、唸り声が徐々に小さくなっていく。
うっとりと目を細めるシロを見て彼らはほっと胸を
撫で下ろすと同時に、絶対にセラは敵に回したくないと思った。
「それは具体的にどういったものだ?」
「シロくんが狩ってきたモンスターの解体を請け負った騎士が、
セラちゃん風に言うなら”とんでもない下手くそ”だったんです」
報告書に目を落としながら問いかけるソフィーリアに
アルフェリアがやれやれと言った様子で答え、
セラに「ね、セラちゃん」と同意を求めてくる。
遠慮せず正直に言っていいよと語る視線に彼女は苦笑いを浮かべて頷きを返した。
「騒動のきっかけは、検問待ちをしてたヤールが
シロの獲物と解体されたお肉を見て、
余りにもお粗末だと口を挟んだ事です。
口論になった後はシロがヤールの援護なのか、
大きい姿で威嚇してしまって…」
「 ”ゴミ”も含めて全部引き取るって
言った時の騎士たちの顔ったら、ねぇ?」
やだ…アル先輩がめっちゃ怖い。
言葉の後ににこっと浮かべられた笑みにセラはぞっとした。
目が笑ってない。いつもの緩いチャラさは何処へ…!?
って言うか腹黒キャラだったのかよ…!とセラは内心でガクブルしているが、
どうやらこれは周知の事らしく他の面々は気にしている様子はなかった。
「…それで、話しを聞いた騎士は何と答えたんだ?」
「ちょっとした出来心だったんだって。
大金に目がくらんだって言ってたよ。
報告書の件については…クソとしか言いようがないかなぁ。
たかが商人風情にいちゃもん付けられて腹が立ったんだってさ」
「それで責任を彼らに押し付けたのか…」
頭が痛い。
セラ以外の全員がそんな感じで項垂れた。
数人はぐったりと背もたれにもたれかかり、天を仰ぎ嘆いている。
エリオルはある程度予想がついていたようだが、
それでも実際に聞くと耳が痛むようだった。
確信が掴めないからと言って先延ばししていい事案じゃなかった…と
眉間の皺をもみほぐしながら、ひっそり反省している。
そして直接会って話をしなければと決意を新たにした。
「セラ、こういう事はよくあるのか?」
「…えぇっと…」
エリオルの静かな問いかかけにセラは言いよどんだ。
悪いのは悪事を働いている騎士たちだし、
庇う気はさらさらないのだが、素直に頷くのを何故か躊躇ってしまう程、
その声に底知れぬ恐ろしさを感じたからだ。
「遠慮せず正直に言いなさい」
「あります」
ピシャリと落ちた言葉にセラは自分が
怒られているわけではないのに、背筋を伸ばして即答した。
エリオルの背にブリザードの幻が見えたのは、
数人がやたら穏やかに微笑んでいる事も要因かもしれない。
目が据わり青筋が立っていなければ、
小一時間ほど眺めていられそうなほど美しい微笑みだった。
けれど現状では直視出来ないほど恐ろしい。
いっその事鬼のような形相になっているリナルドのほうが
安心できるのは何故だろうかとセラは現実逃避したくなった。
詳しくと具体的な説明を求められ、
彼女は指を折りながら過去に遭遇した理不尽を上げていく。
それに比例して部屋の温度はどんどん下がっていった。
「あとは、関所で難癖付けられて
勝手に商品を没収されたりとかもありますね」
「それはセラちゃんが必要以上の物を持たない理由の一つ?」
多分これで全部。
そう締めくくったセラにアルフェリアが頭痛でもするのか
米神をもみながら問いかけると彼女は素直に「はい」と頷いた。
「自ら手放すのと、取り上げられるのでは
気持ち的な面で雲泥の差がりますからねぇ」
カップに口を付け、まるで大したことのないような口調で
告げられた言葉に会議室にいた面々は盛大に顔を歪めた。
雲泥の差どころの話ではない。
難癖を付けて人のものを取り上げるだなんて子供のやる事だ。
「…聞いてもいいかね?」リナルドが渋い顔で問いかける。
セラは「はい」といつも通りの顔で頷いた。
「彼らが子供を誘拐しているという噂は?」
「恐らく孤児を分け隔てなく保護してるのが原因かと」
「…西の訛りについては?」
「嫌がらせですね。今ではすっかり癖に
なってしまっているみたいですけど、出会った時は
ヤールもサビ猫のおじ様も普通に話してましたよ」
「クーデターの件については?」
「ありえませんね。
血の繋がらない子供たちを家族として受け入れて、
本当に大事に育てている人たちです。
態々戦争なんて起こして苦しむ子供を作るなんて死んでもしませんよ」
矢継ぎ早の質問にセラは間を置くことなく答えた。
呆れの滲む彼女の表情と晴れていく疑いに彼らは居心地悪そうに身をよじり、
次いで自分の治める領地でも不正が行われている事に頭を抱えた。
エリオルだけは疑問の答えが得られた事にすっきりしたような表情をしていたけれど。
「失礼します!」
気まずい沈黙が流れる部屋に「会議中申し訳ありません!!」と
元気な声が割って入った。荒々しいノックと共に勢いよく開けられた
ドアから姿を現したのは一人の剣騎士だった。
「何事だ」リナルドの低い問いかけに彼はビシっと敬礼を返し、
「ゼドロス商会の若旦那、
サバトラのヤールを捕獲しました事をご報告致します!!」
高らかにそう告げた。
何処か誇らし気な彼とは裏腹に「「「「「は?」」」」」と
揃えられた声はどれもこれも低く、凍てついていた。




