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40 遊びの達人2

リュグナードはその逞しい両腕に

見知らぬ男の子を一人ずつ捕まらせながらふと我に返った。



俺は一体何をやってるんだろうか。



と。不意に冷静さを取り戻した頭がそんな事を告げてくる。

だが嬉しそうに笑い声をあげている子供たちを落胆させる事など出来るはずもなく。

「しっかり捕まってるんだぞ」と声をかけ元気な返事が返ってきたのを

聞き届けると、最初はゆっくりと、徐々に勢いをつけて回り出した。

遠心力が半端ない。いくら子供の体重だとはいえ、

これは中々キツイなとリュグナードは思ったが弾けるような笑い声と

「リュグナード様すごーい!」の言葉に彼は歯を食いしばって弱音を噛み殺した。

傍目からはいつも通りの涼しい顔に見えるのだから、得なのか損なのかわからない男である。

現に子供たちと遊ぶリュグナードを遠目から眺めている

女性たちはみんなうっとりした様子で熱い視線を注いでいた。


そんな彼らから少し離れた場所ではアルフェリアが

女の子たちを相手にやたらリアルで生々しいおままごとを繰り広げている。

いや、最初からそうだったわけではない。

始まりはごく普通の微笑ましいおままごとだった。

ただ旦那役がアルフェリアだったせいか、後からおままごとに

加わった女の子たちが愛人役として登場してきたせいで

セラは今呼吸困難に陥っている。



「あなた、その女は何なの!?」

「そういうアンタこそ!」



アルフェリアの両手を引っ張る様にして叫ぶ女の子たち。

「えぇっ!?ちょっと待って、何この修羅場!?

みんな喧嘩は駄目だよ?仲良くしよう、ね?ね?」とオロオロしている

アルフェリアに妻役のベルが笑いを堪えながら修羅場に乗り込んでいった。

「ドロボウネコ!」「メギツネ!」一体どこでそんな言葉を覚えてくるのやら。

更なるド修羅場に長女役のエマは大爆笑、次女役のシャーロットは

余りのリアルっぷりに(なんせ実際にアルフェリアを取り合っている子たちは本気なのだから)オロオロしている。

耐えられなくなったアルフェリアの「ちょっとセラちゃん助けて!」SOSに

セラは笑顔で「”わん!”」と返した。

それはただ与えられた役に徹しているだけであって、別にシャーロットの

「セラって犬に似てるわ」の一言で飼い犬役にされた時に

爆笑した彼への仕返しというわけではない。



「あー、笑った。もうベルちゃん面白すぎ」

「セラお姉ちゃん程じゃないよ~」

「ふ、駄目だ暫く思い出し笑いしそう」



十分楽しませてもらった所で、

セラは漸くアルフェリアのSOSに応える事にした。

涼しい顔で男の子たちの相手をしているリュグナードも

よくよく見ると疲れてきているようだ、というのも理由の一つである。

パンパン!と大きく手を叩き注目を集めてからセラはピンっと右手の

人差し指を立てた。

なんだ?と不思議そうな子供たちに彼女は二ッと笑みを浮かべて



「”盗賊と騎士ゲーム”したい人この指とーまれっ!」



高らかにそう宣言する。

途端にわっと声を上げて自分から離れて行った子供たちの

小さな背中がセラの指を掴もうと団子になっているのを

リュグナードとアルフェリアは唖然と見つめていた。



何だ、そのゲーム。




2人の疑問はセラがルールを説明しだした事により解消した。

前世風に言うならばケイドロ、

もしくはドロケイと呼ばれる鬼ごっこの一種である。

ルールを聞いて2人は面白そうだな、と素直にそう思ったが、

これ以上子供たちの遊びに参加するのはちょっと…と腰が引けていた。

なんせ、傍から見ているのとは大違いで、思っていた以上に大変だったのだ。

遠慮はないし、こちらへの期待は大きいし、何より手加減が難しい。

後はセラに任せてこのままフェードアウトしようと思っていた2人だが、

「ではお2人は盗賊役をお願いしますね」と言ったセラの笑顔に負けて

任せろと即座に頷いたのだった。



「捕まえるんじゃなくて逃げる方か…」

「いつもと逆とか、新鮮でいいね…」



賑やかにチーム分けをしているセラと子供たちを眺めつつも

2人は視線を遠くへ飛ばし、それから意を決して立ち上がった。

こうなったら、セラを見習って思いっきり、遊んでやろうじゃないかと。


いつの間にかこんな大所帯になっているのは、

楽し気な笑い声や食欲をそそる匂いに

誘われて子供が集まってきたのがきっかけだった。

騎士たちが警備し、メイドが控えているという異常な光景に

子供たちはビビりつつも、最後には好奇心が勝ったらしい。

恐る恐るこちらを見やる視線に気づいたセラが笑顔で手招きをすれば、

あっと言う間に子供たちが集まってきた。

彼女が追加で焼いていた食材を惜しみなく子供たちに

分け与えていくので、昼食はとても賑やかなものになった。



「すげー、本当にリュグナード様とアルフェリア様だ」

「こんな近くで見たの初めて」

「素敵…」



そして満腹になってすっかり警戒心を亡くした子供たちの

キラキラした瞳に根負けし、文頭の状態に至ったわけである。



「っ、あぶなっ」

「あーお姉ちゃん惜しい!」

「”神妙にしろ盗賊ども!”」

「”騎士なんかに捕まってたまるか!”」



リュグナード、アルフェリア、そしてセラという大人を交えての

”盗賊と騎士ゲーム”はそれはもう凄まじいものになっていた。

子どもたちがすっかり”役に”なり切っているのを見てセラたちもそれに習う事にした。

普段は使わない堅苦しい言葉使いをリュグナードに向けるセラと

彼女の手をひょいっと避けながら、必死で”盗賊らしく”振舞う

リュグナード。

すでに捕まり牢屋に入っているアルフェリアが

2人のチグハグさに湧き上がる笑みを必死に噛み殺している。

本当は腹を抱えて笑い転げたいところだが、

流石に王騎士が爆笑する姿を晒すわけにはいかないからだ。

ちなみに、シャーロットはセラと同じ”騎士”チームで、

同い年という事もありすっかり仲良くなったエマと共に

牢屋を守る彼女は心底呆れた顔でアルフェリアを見ていた。


本気で遊ぶ大人ほど大人げないものはない。



「”いい加減、観念したらどうだ?”」

「”そっちこそ、随分と息が上がってるが、諦めたらどうだ?”」



肩を弾ませながら、アメジストとターコイズがにらみ合う。

リュグナードもセラもお互いを捕まえようとムキになっていた。

このゲームを始めてから随分と時間が経ち、

中にはすっかり飽きてしまったの様子の子供たちもいるというのに、

2人が諦める様子を見せないため、いつまで経っても決着がつかないでいた。

じりじりと間合いを詰める2人を応援する子供もいるが、

圧倒的にお喋りを楽しんでいる子供たちが多いのを見て

アルフェリアはパン!と大きく手を打った。



「はぁい、そこまで!」



突然響いたその音にセラとリュグナードはハッと我に返った。

そして慌てた様子で声の主を振り返る。

呆れの色を宿した深緑と目が合って2人は気まずそうに視線を逸らす。



「あはは…ちょっと、本気になりすぎましたね」

「…全くだ。面目ない」



へらりとした笑みを浮かべて見上げてくるセラに

リュグナードはぎこちなく頷き、誤魔化すように咳払いをした。

「あっつい…!」とぼやきながらセラが手で顔を仰ぎ、

その隣ではリュグナードがきっちりと止めてあったボタンを2つほど外し、

汗でペタリと額にくっついている前髪をかき上げる。

途端に「きゃあ!」と黄色い声がいくつもあがり、

セラは真顔でそっと距離を取った。

不思議そうに見てくるリュグナードには愛想笑いを返しておく。

ただでさえ熱いのになんてことをするんだ、と内心では思いながら。

ぐっと上がった体温と頬の熱に彼女はひっそりため息を付いた。

そして空を見上げると、すっかり茜色に染まっていて

随分と夢中になっていたんだなぁとセラは少し恥ずかしくなった。



「もうだいぶ暗くなってきましたし、そろそろお開きにしましょうか」

「えっ、もう?」

「まだ遊びたいよー!」



セラの言葉に子供たちからは不満の声が上がった。

けれどそれに「そうだな」「そうだね」とリュグナードと

アルフェリアが同意すれば、渋々口を閉じる子供たちに

セラはなんとも言えない気持ちになるのだった。

※小説が途中から繰り返しになっていたので、修正しました。

既に読んでくださっていた読者様、大変読み辛かったと思います。

ごめんなさい。以後、気を付けます。m(__)m

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