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25 7日目の感想

※セラ視点です。

姫様付きの騎士になって今日で丁度一週間が過ぎた。

姫様とはほぼ顔を合わせてないけど、私の計画は概ね順調である。

有難い事にお父様は”様子見”を選んでくれたようで

姫様のストレスを蓄積する事に全力を注げているからだ。

ただ王騎士の皆さまや一部の人たちには

私が”エリューセラ”だって伝えてあるのか、

彼らの妙に丁寧な態度が私のストレスを蓄積させていってるけど。

でもまあ、これは仕方がない。

わかってたことだしと割り切った。


今の問題は何よりも姫様なのだから。

解決出来れば、契約期間を短くすることが出来るかもしれないし。

甘い考えだとはわかっていても…期待するくらいは自由だよね?

いやもう、ほんと夜が来るたびに国外逃亡計画を練りそうになるくらい辛い。



「もうそろそろかなぁ」

「ええ、もうすぐですよ」



少しずつ列は進み、漸く売り子さんを確認できる位置まできた。

思わずつぶやいた言葉は前に並んでらっしゃるご婦人の耳に入ったようで

振り向きにこやかに答えられ内心で驚きつつも笑顔を返す。

ごめんなさい、私が言いたかったのは”姫様が爆発する”事についてだったんです。

休みを返上してまで毎日ウザイくらい姫様に

顔を見せ続けているので、相当苛ついているのは確かなんだけど。

思っていた以上に手強い。私ならとっくにキレてる。

でも姫様がそれをしない理由を考えるとため息しか出てこない。


ソフィーリア陛下やフェリクス王子は姫様に

嫌われていると思ってるみたいだけど、どうもそうは思えないんだよね。

どうにか姫様との時間を作ろうとするお二人に

「そう心配なさらずとも、私は大丈夫ですわ」と

笑顔で返す姫様は、一見拒絶しているように見える。

けれど嫌っているにしては何か違和感があるな、と

思い観察を続けているうちに違和感の正体にたどり着いた。


お二人と一緒にいる時の姫様の瞳はまるで無風の湖の如く

静かで落ち着いてはいるが、たった一瞬でも

あのライムグリーンが嫌悪の色を浮べる事はない。

しょっちゅう向けられている私がその色を見落とすはずはなく、

ならばどういう事だと考えているうちに去り際の伏せられた

ライムグリーンに”とある親子”が脳裏に浮かんだ。



あ、なるほど。



思わず納得した。

私は一度似たような場面に遭遇している。

今回は”親子”ではなく”兄妹”なだけ。

それならばやっぱり私の行動は間違っていないと再確認し、一人頷いた。



よーっし、姫様が爆発するまでストレス積み頑張るぞー!



なんて入れた気合は陛下や王子、騎士様たちに

知られたら速攻牢屋にでも放り込まれそうだけど。

そうと決めたら”どうやって更なるストレスをかけ続けるか”が

問題になってくる。傍にいるだけで結構イライラしてくれる姫様だけど、

最近は専らパシられてるしなぁ。

姫様賢い…と妙な感心をしながらも今日も今日とて元気にパシっている

私を気の毒そうに見送ってくる騎士様たちには最早笑うしかない。


可哀想だと思われているみたいだけど、実はこれはこれで楽しいんだけどね。

護衛なんてじっとしてる方が私の性には合わないだろうし。

並んでいる間の時間でこうして状況分析や気持ちの整理が出来るわけだし。

いつも笑顔を心掛けてるからって

心無い態度や、言葉に苛つかない程善人なわけなじゃないんで。

それになりよりリュグナード様を筆頭に

”攻略対象”から離れられるわけだしねぇ…

同じだけ姫様の傍にはいられないのがちょっとアレだけど…

その分戦利品を手に入れて戻った時の笑顔には気を付けてる。

いつもより3割増しの無駄に明るい笑顔は恐らく相当イラっとするはず。


ちなみに今日のリクエストはマカロンだ。

この一週間で食べたお菓子の種類と量を思い出してげんなりする。

前世から甘い物は普通に好きだが毎日食べたいと思うほどの甘党じゃない

私には本当にもう素晴らしく効果覿面な嫌がらせだと思う。

姫様や他の方々の前では出さないけれども。

…いや、騎士さまたちにはバレてるかな…甘いの苦手そうに

見えたから言い出せなかった私に手伝いを申し出てくれたくらいだし。

本当に有難いです。皆さんだって毎日はキツイはずなのに…


って話が逸れた…でもやっぱり”無茶振り達成(しごとかんりょう)”するには

姫様のストレスを爆発させるために更なる負荷をかけていくしかないかなぁ。

そうするにはやっぱり傍にいるのが一番なんだろうけど。

姫様にお使いを言い渡される度にほっとしてしまう理由は

”3人目”と”リュグナード様のハートが2つに増えていた”からだよねぇ…

ほんっと、頭痛い。逃げ出したい。


騎士として陛下に紹介されたあの日。

事前にフェリクス王子とシャーロット王女にお目通りしたあの瞬間。

そりゃあ、ね。騎士×2の攻略対象がいて王子が存在するってだけで

まさか、とは思ってたんですよ?

セオリーを考えれば、当然”そう”なる可能性は高いとは思ってたけど…

なにも本当に王道を突き進まなくてもいいじゃない。

現実逃避したい気持ちで挨拶を交わした王子は

それはもう薔薇の良く似合う美少年(可愛い系)でした。

でもやっぱりどう考えても、陛下や姫様の方がそのエフェクトに合うのに…解せない。

ただ有難い事に私は王子に嫌われているようなので

このまま可能な限り関わり合う事なくフェードアウトしようと心に誓った。



な・の・に。



思い出すのは茹蛸のように真っ赤に染まった愛らしいお顔。

見開かれたスカイブルーの目には薄っすらと涙が浮かび

「す、すまない!!」と謝りながら盛大に後ずさり部屋を飛び出て行った。

この赤面は王子の二枚目のスチルでした…ははは、はぁ…。


”ラッキースケベイベント”とでもいうのだろうか。

いや、ラッキーだったのは私じゃないし、

王子にとってラッキーだったかは定かではないが。

図書室で偶然エンカウントして、私に驚いたのか脚立から落ちた王子。

当然助けないわけにもいかず、慌てて駆けより手を伸ばしたら

年下とはいえど男の子を受け止め切れるわけもなく盛大に背中を打ち付けました。

王子に怪我がなくてホントよかったけども。めっちゃ痛かった…

ほっとしたのもつかの間、ん?なんか可笑しいなと思ったら

丁度私の胸のあたりに王子の可愛らしいお顔があるではありませんか…!

で、先ほどの「す、すまない!!」に至るわけで…

翌日、同じように顔を真っ赤にしながらも

改めて謝罪に来た彼は根は素直なツンデレ属性なんでしょうかね…?

可愛い系美少年のツンデレ…需要がありすぎると思います…

お姉様たちが大喜びします。大好物でした、ハイ。


そして、問題はリュグナード様だ!

先日の広間での紹介が終わり迎えがくるからと別室で待っていたら

何故かアル先輩がきてスカートがどうのこうのって喚き出して…

あ、何でアル先輩呼びなのかっていうと「アルくんって呼んで!」って

五月蠅いからその妥協案です。だって彼の希望通りに「アルくん」だなんて

呼んでみろ、どう考えても集団リンチフラグじゃないの!

…それでその後リュグナード様が助けてくれたまではいいんだ。

問題は、その後。

正直不本意だけど騎士になってしまったわけで。

そうなると部下になるのだし、”敬語”も”殿”もいらないですよって

言ってこれから宜しくねって差し出した手がダメだった、のかなぁ…?

握り返してくれた大きな掌の力強さを未だに覚えている。

だけど本当に驚いたのは、その後。



――セラ



低い声がいつもより甘く聞こえた私の耳は腐り落ちればいい。

一気に駆け足になった心臓、いっその事溶けてしまえ…!

真っ赤になった顔にはお願いだから突っ込まないで…。


なんて思いながら見開いた目で

凝視するのは彼の背後で光り輝き舞い踊るハートたち。

やっちゃった…!?下手に刺激しないようにって決めてたのに…!!と

後悔しようが後の祭りとしか言いようがなく。

普段の鉄仮面を何処に置いてきたの!?と問い詰めたくなるような

微笑みを前に私はフリーズするしかなかった。

心臓に負荷がかかりすぎるから、本当に勘弁してほしい。


でもその後はリュグナード様はもっぱら書類に追われていて接触は少ない。

走り回る私を心配して声をかけてくれたけど、他の騎士に代わってもらった

所で他のお使いを言い渡されるだけなので断ったら何故かしょげられた。

時折もの言いたげな視線を感じるけど、そこはあえてスルーの方向で。

え、冷たい?だってこれ以上厄介事に

進化させないためにはフラグ回避が必須でしょ。


あぁ、それと気になる人物がもう一人。

彼女との出会いは姫様にすぐ部屋から追い出されちゃうので

情報収集を兼ねてメイドさんや庭師さん、コックさんに至るまで

邪魔にならない範囲で声をかけていた時のことだ。


重そうな荷物を運んでいたメイドさんの手伝いを

しながら話しを聞かせてもらっていたら、なんかこう、

いかにも”お嬢様”なオーラ全開の美人に声をかけられた。

曰く、貴方の仕事はメイドの荷物を運ぶ事ではないだろうとの事。

姫様の事をもっとよく知るために、情報収集を兼ねて手伝っているのだと

素直に答えたら以外にもあっさりと納得して去っていった。


センター分けの長い前髪は目を引くワインレッド。

深い色合いの翡翠は若干目尻がつり上がっていて

美人だがキツめな印象を受ける。

華奢な背中で揺れる緩めの縦ロールが良く似合っていた。



…ねえ、彼女ってさぁ…



魔法騎士のローブを優雅に翻し

カツカツとヒールを鳴らして去っていった彼女を見送って

深く頭を下げているメイドさんの隣で白目をむきそうになった。

ふらつきそうになる足にぐっと力を入れてどうにか耐える。

メイドさん曰く、彼女の名前はクラウディア=フォルガーナというらしい。

親子揃って魔法に長けた優秀な人物だが、気難しい事でも有名なんだとか。

ちなみに親はメルヴィス=フォルガーナ様。

うちのお父様の片腕を担い日々激務に追われている方である。

挨拶周りをした時に一度会ったきりだが

そう言えば目元が彼女に似ていたような気がする…


いや気にするとこはそこじゃない。

問題は”どうするか”だ。

これが本当に乙女ゲーム特典ならば、恐らく彼女は”ライバルキャラ”

関わらないように可能な限り接点を避けるか――もしくは。

そう考えた時「くぅん」足元から聞きなれた鳴き声が聞こえ、ハッと我に返る。



「お待たせしました、お客様。如何致しますか?」



熟考していたのかいつの間にか私の番が来ていた。

慌てて視線を上げれば目が合ったお姉さんが

にこっと100点満点の接客スマイルを浮かべて問いかけてくる。

目を逸らしたくなる事ばかりが日々押し寄せてくるが、

とりあえずは目の前の事から逃げださずに、一つずつ回避していこうと心に決めて。

「さっさと答えろ」と笑っていないブラウンに

ごめんなさいと心の中で謝りながら、へらりと笑みを返した。



「全種類を3つずつください」



…ねぇ姫様、こういう所からシスコン・ブラコンが滲み出てると思います。

近いうちに絶対、3人を同じテーブルに座らせてやるんだから…!!

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