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22 注目のレディ

※アルフェリア=ベルセリオス視点です。

自分の仕事をすると背を向けたセラちゃんを見送った後

俺はリュー兄の執務室に足を向けた。

彼と彼の部屋で待つ人たちに状況を伝えるためだ。


「失礼しまーす」と声をかけながらドアを開けると

そこには想像していたよりも多くの人がいて思わずむさ苦しいなと思った。

大きな執務机の前のソファには我らが女王陛下ソフィーリア様が腰を掛け

いつも通り優雅な仕草で紅茶を口に運んでいる。

が、彼女以外が皆大柄の男でそれに加え


騎士団団長 リナルド=アッカーバーグ(57)

王騎士隊隊長 リュグナード=エルトバルド(25)

王騎士隊副隊長 ルドルファス=オルドランド(49)

王騎士隊副隊長 ディルヴァ=レナクロス(52)

王騎士隊副隊長 ドラウン=バベッジ(42)

剣騎士隊隊長 ライゼルト=アッカーバーグ(39)

魔法騎士隊隊長 ルーファス=アンダルク(37)


という大物が揃っているのだから、俺の感想は間違ってないと思う。

むさ苦しい上に息苦しくも感じる空間だ。思わず回れ右をして退出したくなる。

もうぶっちゃけソフィ様しか見ていたくないが

向けられる視線の全てがどうだったんだ?と問いかけてくる。

それにひょいっと肩をすぼめて返して、思わず浮かぶ苦笑いをそのままに

じっと真剣な色を宿してこちらを見つめてくるダークブルーにへらりと笑って頷いた。



「流石、リュー兄ってとこだよねぇ」

「!それでは…」

「うん、エリオル様の反応から間違いないと思うよ」

「だが、彼女の髪は…」

「ルドルファス、それエリオルの前で言えるか?」

「――いいや。失言だった、彼が自分の娘を間違えるはずがない」



俺の言葉にざわめきが広がる。

見慣れた顔たちに揃って驚愕と喜び、そして戸惑いが

混じるのを眺めながら話題の”親子”に大丈夫だろうか、と思いを馳せた。

エリオル様は多分、メルヴィス様が何とかしてくれるだろうと彼の

いつもイライラしているがとても優秀な副官を思い出し勝手に任せる。

だけど、セラちゃんには、と眉をひそめそうになったところで

何か考え込む様子で外されていたリュー兄の視線が戻ってきた。



「それで?」

「それがエリオル様はすぐ会議が始まるって

 呼びに来た騎士に連れて行かれちゃってさぁ…

 ”初めまして”って挨拶されてらしくないくらい

 動揺してたし多分一回冷静になりたかったんだと思う。

 とりあえず”セラちゃん”にさ、

 仕事を頑張りたまえって言って会議室に向かったよ」



俺の言葉にあちこちからエリオル様を心配する声が上がった。

俺もあの向けられた事のない色を乗せたアメジストを思い出し、

メルヴィス様を信頼しているがやっぱり大丈夫かなぁと脳裏で繰り返す。

時間が迫っているからか早足で去っていった背中は

いつも通り凛としていたが少し頼りなく見えた。



「彼女の方は?」

「エリオル様の動揺を見て気づいたみたいだったよ。

 自分の本当の名前が”エリューセラ”だって、ね。

 ――凄く戸惑っている様に見えた。なんせあの子には記憶がないし

 リュー兄が言ってたように自分は”セラ”だって信じてたみたいだし」



リュー兄の何処か心配そうな問いかけに

俺は困惑し助けを求める様に見上げてきた明るいアメジストを思い出した。

彼女の印象は白鹿亭での初対面や昨日の見事な挨拶から

”凛とした手強そうな女の子(レディ)”だったんだけど、あの瞬間は違った。

昨日、会議室に乗り込んできてソフィ様に”再確認”しにきた時とも違う、

恐らくあれは”年相応であの子の本当の顔”だった。

ソフィ様に騎士になってほしいと頭を下げられ

混乱し涙目で了承した彼女を思い出す。

セラちゃんは押しに弱く頼み事を断れない、とても優しい、女の子だ。



「記憶が戻ったりはしなかったのか?」

「…エリオル殿には気の毒だが、そう都合良くはいかんという事だろう」

「一先ず手の届く距離に戻ってきただけでも良しとすべきですかねぇ…」

「エリオルの心中を考えると手放しでは喜べんが…

 これから戻る事に期待するかないだろうなぁ」



エリオル様と親しい上司たちがそれぞれ複雑な表情で顔を見合わせる。

皆この10年エリオル様がどんな思いで

探し続けていたかを間近で見ていた人たちだ。



「…それで、気づいた後の彼女の反応は?」

「黒髪を主張してたよ。そして自分は”旅人のセラ”だって言ってた」

「だが気づいたんだろう?」

「うん。…でも、行き成りそれを認めろって言うのは酷でしょ?

 彼女はこの10年”セラ”ちゃんとして生きてきて

 ここにだって”セラ”ちゃんとして連れてこられたんだよ。

 …俺には自分に言い聞かせてるみたいにも、聞こえた」

「…そう、か…そうだな」



俺の主張に上司であるおじ様たちは

どうしてもエリオル様に寄りがちな気持ちを自覚した様だった。

気まずそうに逸らされる視線の熱量や気持ちを落ち着かせるための

ため息にこの10年間の思いが詰まっている。



「強い、人だよねぇ」



広い部屋に広がった静寂に

ぽろりと零れ出た感想は思いのほか大きく響いた。

再び戻ってきた視線たちにへらりと誤魔化す様に笑って、口を開く。



「だってさ、あの子その後なんて言ったと思う?

 自分を旅人のセラだって言い切った直後にさ、

 でも今は騎士だから騎士としての仕事をするって。

 ”姫さまの本当の笑顔を取り戻す”のが最優先事項なんだって。

 …心の中はさぁ、大荒れだろうに、そう言って、笑ったんだよ」



あれは恐らく強がりだった。

誰一人弱音を吐ける人間がいないこの場所で、立っているための。

だけど彼女はそう言って”完璧な笑顔”を作れるだけの強さを持っている。

心底凄いなぁと思う。だけどそれと同じくらい、可哀想だとも思った。



「そう、か…”セラ”にもエリオルにも迷惑をかけるな…」

「ですが、その”前提”があるからこそ今こうして再会出来たわけですし、」

「それに”これから”を考える猶予でもあるわけですから」



俺の言葉に今まで黙って話を聞いていた

ソフィ様がカップを置いて小さく肩を落とした。

すぐさまフォローに入ったのはルドルファス副隊長とドラウン副隊長だ。

他の方々もうんうんと深く頷いている。



「楽しみだよね。セラちゃん、一体どんな方法を使ってくるんだろ?」

「…昨日の様子を見ていると、どうも不安になってしかたがないんだが、

 リュグナード、彼女に任せて本当に大丈夫なんだろうな?」

「……恐らく」



落ち込ませてしまったソフィ様の気を紛らわせるために

実際気になってしょうがない話題を口にすると

何故か俺とリュー兄、ソフィ様以外が不安そうな顔になった。

この面子は昨日、あの会議に出席していたため

セラちゃんのあの妙に力強い笑顔を見ている。

思わず不安を口に出たのは意外にもリナルド団長で目を逸らして

何とも頼りない返事を返したリュー兄に「大丈夫だ」と

返事を返したのは、驚く事にソフィ様だった。



「彼女なら、きっと」



集まった視線に彼女はゆるりとした笑みを浮かべ、深く頷いた。

彼女の宝石の様な海色の瞳には期待と信頼が込められていて

思わずセラちゃんを連れてきてくれたリュー兄に感謝した。

ソフィ様がそう思える相手に出会えたことが

まるで自分のことのように嬉しくて。

そんなソフィ様に誰もリュー兄の情けない返事を咎める事はなかった。



俺はセラちゃんと一昨日出会ったばかりで、知っている事はとても少ない。

まず語るならやっぱりあの可愛い容姿だよね。

いくらヘル=ヴォルフっていう規格外の相棒がいたって

一人旅をしてたってのが驚きなくらい華奢な女の子(レディ)だ。

凛とした雰囲気と高い位置から伸びる黒いポニーテール、

パチリとした大きな明るい紫の瞳は意志の強さが垣間見えて

顔立ちはどちらかと言うと可愛いのに年齢以上に大人びた表情と考え方、

仕草のせいか印象的に”かっこいい美人”という言葉がしっくりくる。


そう言えば、初対面の時あの子なんで俺の顔凝視してきたんだろう?

一目惚れとかざらにあるけど…なんか、口引きつってたような気がする。

あの後女性受けのいい笑顔で手を握った俺に対して、

冷めた目を向けて思いっきり距離を取ったつれない女の子(レディ)だけど、

そこがまたセラちゃんの魅力だとも思う。

あれでしょ?ツンデレっていうんでしょ?


話しがずれたけど、あとセラちゃんについて語るなら、そうだな



――期待している。



この言葉に尽きるかな。

それはエリオル様との関係修復についても、勿論、姫様の笑顔の件についても。

そして何より、俺の一番大事なシーブルーの憂いを取り去ってくれることを。

更に欲を言うならソフィ様もフェリ王子もシャーリィ姫も。

勿論、ヴェールヴァルド家のご家族たちだって。

みんな、みーんなまとめて笑顔にしてあげてほしい。

出会ったばかりの少女にどれだけ押し付けるんだって、自分でも思うけど、

でも思わずそう願ってしまう何かを、彼女は持っている。


脳裏に浮かぶのは、揺れるアメジストと”完璧な強がり(えがお)

俺に出来る事なら何だって手を貸すから、どうか。


…ああ、あとリュー兄もよろしくねって言いたいかな。

だってさぁ、今まで全く女性に興味を示さなかった

あのリュー兄の、しかもあの鉄仮面を崩した女の子だよ?

ほんっと色んな意味で目が離せないよね。


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