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18 新米騎士

セラを混乱の境地から救ったのは意外な人物だった。

威厳や厳格という言葉が服を着て歩いている様な印象を受ける

彼の名はリナルド=アッカーバーグ。

彼は騎士団を纏める団長であり、つまりリュグナードの上司である。



「全く…アルフェリアはともかくとして、

 リュグナード。お前まで一体何をやっているんだ」



呆れの色を隠さずにそう告げるリナルドにアルフェリアが

「俺はともかくって…」と口を尖らせリュグナードが「申し訳ありません」と

肩を落とす隣でセラはリナルドの顔を凝視していた。

余りの驚きにリュグナードによりやや強制的に上げられた

心拍数は少し落ち着いたが、混乱だけは更に上乗せされている。



「…私の顔に何かついているかね?」



混乱から余りにも不躾な送っている事に

セラが気づいたのは低く渋い声にそう問いかけられてからだった。

ハッとして「すみません!失礼しました」と慌てて頭を下げる。



「そう頭を下げずとも構わないとも。自分の顔は理解しているのでな」

「あ、いえ。そういうわけでは。

 その…まさか、憧れのアッカーバーグ様と

 こんな風にお会いできるとは、夢にも思ってなかったので…」



次いでリナルドの言葉に顔を上げて彼の言葉を否定する。

驚いたようにこちらを見た鋭いブラックにセラは

照れくさそうにしながら「信じられなくて、つい…」と言葉をもご付かせた。

「憧れ…?」思わずと言った様子でそう口に出たアルフェリアの

疑問にセラは恥ずかしそうに俯き加減で目を伏せ、

遠い懐かしい記憶を思い返す様に微笑みながら口を開いた。



「…”白狼騎士物語”幼い頃、何度も読みました。

 剣を持つ者の在り方…と申しますか、

 私は騎士ではなく旅人ですが…

 目指すべき理想がそこにあるような気がして。

 …心が折れそうになるたびに、よくお世話になったものです」



集まった3つの視線にまじまじと見られ、彼女は居心地悪そうに

胸の前で手遊びしながら目尻を赤く染めてぽつりぽつりと告げる。


恥じらう姿はまるで告白でもしている乙女のようにすら見えて

3人はいじらしいセラから目が離せないでいた。

リナルドは全く予期していなかった言葉に戸惑い、

リュグナードとアルフェリアはその乙女の様な姿を

信じられない気持ちで凝視している。


二人の心はほぼ一致していた。

簡単に言えば



”え、なんで!?俺にだってそんな顔した事ないのに…!

 相手は超厳ついおっさんだぞ!?

 なんか、なんか、…男として釈然としない…!”



である。


そろり、と恥ずかしそうに持ち上げられたアメジストに

リナルドは唖然とした自身の情けない顔が映っている事に気づいて

慌てて咳ばらいをした。彼女の後ろから刺さる2対の視線が痛い。

リナルドは先ほど自分で言った通り自身の顔を理解している。

目が合うだけで子供に泣かれるのだから

認めたくなくても自覚しないほうが無理な話だった。

それでも時折キラキラした目を向けてくれるのは

先ほどセラが言っていた本の読者であり、男の子ばかりだったのである。

真っ向から向けられる憧れを宿した輝く美しいアメジストは

長い睫毛に縁取られ、照れくさそうに愛らしい微笑みを浮かべる少女を相手に

戸惑うなと言う方が無理だろうとリナルドは内心で呟いた。



「あー、男の子ならともかく、

 君の様な、少女(レディ)にそう言って貰えるとは思わず、驚いたよ。

 あれは子供向けのお伽噺として、実は随分と盛ってあるんだが……

 そう言って貰えるのなら、喜ばしい限りだ」



厳つい顔に照れからくる気まずさを乗せながら

そう言ったリナルドにセラはにこにこと笑顔を向けた。

怯えの欠片もない無邪気な笑顔にリナルドは怯えられるよりはいいが、

これはこれで調子が狂うなとむず痒い気持ちでそう思った。



「…さあ、もう行くぞ。これ以上あいつ等を待たせると碌なことがない」



リナルドにそう促され、セラたちは王騎士の詰め所へと向かった。

これから特に関わることの多い王騎士たちとの顔合わせのためだ。

実はリュグナードが呼びに来たのはこのためなのだが、

アルフェリアのせいですっかり遅くなってしまったため

待ちかねた団長さまが、直々に文句を言いにきたのである。

…本心は、珍しい紫の瞳を持った少女を見極めるためだったのだが、

どうにも出鼻を挫かれた気持ちで彼はこっそりとため息を付いた。

背後に続く少女がほっと胸を撫で下ろしている事には気付かずに。



王騎士の詰め所、基休憩所に集まっていた

20人ほどの男たちを前にセラはにこりと笑顔を作る。



「改めましてセラと申します。こちらは相棒のシロガネ。

 不慣れな事が多く皆様にはご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、

 日々精進を心掛けますので、皆さま、どうぞよろしくお願い致します」



…何、なんなのこの騎士団!?

イケメンのオンパレードとかいらない!

遠くから眺める分には目の保養だけど、近くで見ると目に毒!

心臓に負荷がかかるから正直あまりよろしくしたくない!

あっでも薔薇出てこないからこの人たちセーフ…?

サブキャラまでイケメンとか神様ちょっと奮発しすぎでは…?

私の身と心が持たないからホント勘弁してほしい。

というか、皆大きい。背高すぎ。圧迫感がとんでもないんだけど…!



と、内心の大荒れ具合などお首にも出さずに頭を下げた

セラに男たちは思わずほぉ、と感心したような息を吐いた。

陛下に紹介された時も思ったが、随分と見所のありそうな少女であるなと。



「…マジで、紫だ…」

「明日、エリオル殿が知ったらさぞ驚かれるでしょうな…」



顔を上げたセラにぽつりと言葉を漏らしたのは

セラに近い場所にいた騎士だというのに

前世でコンビニ前にたむろっていたヤンキーを思い出させる風貌の男。

アシンメトリーな前髪に入った金メッシュがヤンキー感をびしばしと醸し出している。

釣り目気味の目が驚きから丸くなり、彼の尖った印象を柔らかくさせていた。

彼の言葉に何処かしみじみと頷いたのは気品あふれる執事風のおじ様だ。

目尻の皺すら色気を感じる。

そんな二人にセラはにこっと笑顔だけ返して

明日?と気になった言葉を脳裏で呟いた。



「エリオル様は昨日と今日、

 つまり19日と20日は毎年家で家族と過ごされているんだ」

「へぇ…」



後ろからこそっと告げてきたリュグナードに

脳裏の呟きを聞かれたのかと思い、ドキリとしたセラだが

「そうなんですか」と動揺を抑えこんで答える。



……待っているの…?私が、帰ってくるのを。

あの仕事人間だったお父様も一緒に、この10年、家族揃って。

今も、待っているのか。17歳になった私を。



そう思うと何と表現したらいいのかわからないほど

ぐちゃぐちゃな気持ちが込み上げてくる。

足元がぐらつきしゃがみ込んでしまいそうになる。

けれどもじっとこちらを見つめるダークブルーと、深緑に

気づいているから彼女はその気持ちに上手に蓋をする事が出来た。

シロを抱きしめる腕にほんの少しだけ力を込めて。


その後は騎士たちの自己紹介に耳を傾け、顔と名前を覚える。

各々個性の出る自己紹介を聞きながら超エリート集団だと

聞いていたからどんな人たちだろうかと不安に思っていたセラだが、

意外と上手くやっていけそうだなと胸を撫で下ろした。

正直今まで出会ってきた無駄に偉そうな騎士たちは一体なんだったんだ、と

言いたくなるくらい、本当にお偉い騎士さまたちは驚くほどフレンドリーだった。

中には勿論、何でお前のような女が、と目で訴えてくる人もいたが

殆どの人が”陛下が決めた事なら”とすでに受け入れているようだった。

セラが抱っこしている子犬姿のシロを興味深そうに眺めたり、

犬好きが撫でようと手を伸ばして噛まれかけたりととても賑やかだ。



「それじゃあ自己紹介も済んだことだし、今度は城を案内しようか」

「お前は仕事があるだろう。彼女の案内は俺が引き受けよう」

「ユリウス…」



リュグナードの言葉に待ったをかけたのは、

何処となく生徒会長と呼びたくなる容姿を持つ美しい青年だった。

彼の名はユリウス=ルーンテッド。リュグナードの友の一人である。

そんな彼の言葉にリュグナードは苦々しい表情で彼を振り返った。



「そんな顔をするなよ、

 お前の机の書類の山がお前にしか片付けられないのは事実だろ?」



セラには相変わらずの鉄仮面にしか見えないが、正確にそれを読み取った

ユリウスは友の珍しい態度に驚き、苦笑いを浮かべた。

それに、と彼はセラに視線を移しながら続ける。



「俺がバベッジ副隊長から彼女の教育係を賜ったのでね」

「…わかった。セラど、セラ、そういう事だから」

「はい。よろしくお願いします、ルーンテッド様」

「ユリウスでいいよ」



告げられた言葉にリュグナードは渋々引き下がった。

つい癖で付けそうになった殿をすんでのところで言い直して

頭を下げたセラと笑って応えたユリウスをちょっと残念な気持ちで見守る。

「それでは」と退出して行った二人を見送って、リュグナードは

部屋中から突き刺さる視線にさてどうしたものかと首の後ろをかいた。

彼らが”陛下が決めた事なら”と二つ返事で受け入れた理由は

何かとても重要な理由がなければ、陛下やリュグナードが

国王の特権を使ってまで”ただの旅人”を騎士に、

ましてや王騎士などにしないという事を熟知しているからだ。


――さっさと吐きやがれ、とその視線たちは告げていた。


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