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華の乱  作者: 黒梟
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 真樹の憂鬱




 どうしてこうなったのか分からなかった。

 当時から自分にまとわりつく女が何人かいたが気にしなかった。それがいけなかったのかもしれない。

 自身の容姿と周りに対する対応に、余りにも無頓着すぎたのだ。

 穏やかな優男風の小顔、ストレートのサラサラした髪の毛が自身をより綺麗に魅せているのだとか。

 誰に対しても変わらぬ態度で接していた。


 だが、自身には結婚を決めていた女性もいた。

 仕事が忙しく余り一緒には居られなかったが、それでも時間を作りお互いの距離を縮めていた。筈だった。だから彼女からの連絡が少なくなっている事に気づけなかった。

 そう、彼女は私にまとわりついていた女達に酷い嫌がらせを受けていたらしい。彼女は私に何も言わなかった。私も気づけなかった。


 そんなある日、婚姻届だけでも出しておこうと、自身の欄だけ記載した紙を持って彼女に会った。勿論求婚するつもりで。

 だが彼女はソレを受けようとはしてくれなかった。理由を聞いても答えてくれない。

 仕方なく彼女に内緒で婚姻届を彼女の鞄に隠し入れた。別れた後にでも、気づいて名を書いてくれたら嬉しかった。本当にそんな想いでの行動だった。


 それがいけなかった。その後、彼女は襲われて鞄を奪われた。彼女自身には怪我がなかったのは幸いだった。

 だがその数日後、今の妻が子を連れ私の処にやってきた。取り巻きだった一人だ。

「貴方の子です。籍も入れました。これからどうぞ宜しくお願いします」と。


 即座に事態を把握して彼女に会った。

 中々口を割ってくれなかったので、思わずというていで、閨事に持ち込んだ。酷い行為は一切しなかった。

 元々彼女しか抱いたことが無いのと、彼女の初めても私が貰っている。

 弱いところに付け込んで、口を割らせた。

 ほぼ無理やりだったのだが、泣きながら今までのことを話してくれた。

 何度か暴漢にも襲われそうになったらしいが、何時も誰かが助けてくれたという。

 嫌がらせが酷く、何度か職も変えていたらしい。

 訴えても良かったのだが、精神的にも参っていたせいもあり、私と距離をとり落ち着くのを待っていたのだと。

 実際住んでいた場所も、二県離れた町外れであった。余りの酷さに、周りにも被害が出ても困るので、実家にも顔を見せなくなったのだとか。

 婚姻届の話も初耳だったらしく、(鞄を奪われたから)しきりに謝られた。

 私も今の状況を彼女に話した。少し悲しそうな顔で「おめでとう」と言われた時は強く抱き締め、「君以外と一緒になっても不幸なだけだ」と言い切った。

 DNA鑑定も出来る時代。ボロを出させる迄は我慢して欲しい旨も伝える。我儘なのは解っている。だが、彼女以外は嫌なのだ。

 今ならあの人、華さんに執拗に執着する紫炎さんの気持ちがわかる。

 二重生活では無いが、子供も欲しい事を伝える。一緒に育てるのは難しいかもしれないが、彼女が他の男に取られるのは嫌だし、この後どれだけの時間を有するかも分からなかったから。

 戸惑う彼女を了承させて、眠りにつかせた。

 泣き腫らした目元に口付けし、髪を梳く。愛しい彼女を追い詰めた彼奴らも許せないが、それに気付けなかった自分は最許せない。

 これからのことを思案して、二度と彼女を泣かさない事を自身に誓った。

 家の力を利用するのは気が引けるが、黙ったままでは居られない。あいつらが彼女にした事をそっくりそのまま返してやらねば。

 そう誓いを立てて、次の日には彼女と別れた。次に会う約束をして、勿論仕事の一貫としての旅行がてら。

 そこからは週に2日は会いに行っている。これ以上離れると、自分の心が壊れてしまいそうだったから。


 家にいる二人は、放っておいた。同じ空気すら吸いたくなかったのだ。年に一回会うか会わないかだった。

 そしていつの間にか、松葉の家に住み着いていた。愚かにも紫炎さんに喧嘩を売って手酷くあしらわれたらしい。



 **********



 何年か経って子供も生まれた。二人とも女の子だったが、彼女に似て可愛かった。立ち会いも出来たし(産まれたての顔が、妹の子にそっくりだったのは内緒だ)、産休も取れて、育休も少し取れた。会社を変えて、働きやすく、給料も良くなった。忙しい時期もあるが、家でも出来るので問題は無かった。上司に理解があったのも良かったのだが。


 彼女は住む場所を転々としていた。アイツらに見つかるのが怖いからだそうだ。確かに、子供や彼女に何かあってからでは遅い。だが、職や引越しにかかる費用は大丈夫なのかと心配していたら、全て雇い主が出してくれるそうだ。何時も親身になってくれるので、ありがたいとのこと。一度会ってお礼を言いたいと思った。


 *******


 時は流れ、葉様のお気に入りのあやめさんが帰ってくる事が知らされた。

 やっとの思いで事が成就されると思ったからだ。うち(真樹)の内情は五家の中でも有名だから、と言うのもあるが、あやめさんは自分の領域に他者が入り込むのを極端に嫌う。松葉に入り、落ち着いたら直ぐにでも行動に移してくれるという期待は裏切られなかった。



 四家の一つ、桧は弁護士の家系。ネットワークも広い。事はトントン拍子に進む。

 残りの問題は、此方でケリを付ける。

 離婚にむけての最終調整、向こうは譲る気は無さそうだが、此方も譲れない。集められるだけの情報を集めて、裏付けする。


「離婚はしません。片親になったらこの子が何を言われるか分かったものでは無いですからね」


 当然とばかりの主張に笑いが込み上げた。


「はっ、元々片親だろうに。DNA鑑定でも私との親子関係は無い。あの時の結婚届けも彼女を襲って奪ったものだろう?良くもぬけぬけと言えたものだな。

 まあ、離婚しなくても良いが、生活費は一定分しか出さない。後はお前が使い込んだ松葉の財産返済に当てるからな、10万が限度。それもあの子が高校卒業する迄の6年間。

 住む家の補助も4万迄だ。二人で済むなら問題ないだろ?どうせお前も働いて返さないといけないんだから。忠告を受けても尚使い込んで、八千万まで膨れ上がらせるとは恐れ入るよ」


 養育費として提示されたその金額に不満があったらしい。何処までも金の亡者だ。


「そんな金額で私立には通えないわ。それに今まで通りの生活が出来ないじゃない!」


 馬鹿を通り越して最早呆れた。期せずして冷静になれた。


「お前が八千万も使い込まなければ、こんな事にはならなかったんです。それに学校なんて私立には通う必要なんてありません。贅沢がしたければ、お金を全部返す事です。ま、何年掛かるか分かりませんが。私はもうお前達と住む気は無い。一万くらいのアパートを見つけたからそこに住みます。大体私がお前の使い込んだ金額の半分を持つんです、当たり前でしょう?私が職を無くしたらそれも支払えないからそのつもりで。どの道私の子じゃないし。本当の父親に頼ったらどうです?連絡は取ってるそうじゃないですか」


 贅沢も出来ず見栄もはれない。ましてや使い込んだ金の返済を言われるとは思ってもみなかったのか、怒りで顔を真っ赤にして睨みつけてくる。親子の件にしても、何故知っているのかと言うふうな感じであった。

 自分の金ではなかったのだ。返すのは当たり前だろう?常識も通じなくなったか?

 そんな思いで見返す。そして、提案と言う形で言葉を放った。


「此処で早々に離婚して貰えたなら、お前が返済すりはずだった分は全て私が引き受ける。渡す金額は先程のまま。期間は同じ、あの子の高校卒業迄の6年間のみ。お前が働いた分のお金は全てお前の物になりますが?父親の件も問題ないようですしね」


 金の誘惑で離婚をちらつかせてみた。働いたお金を全て持っていかれるよりは良いのではないかという提案。行政の補助もある、申請すれば受けられるであろう。あの男と一緒になるまでは。

 贅沢贅沢と言うが、金が無ければどうしようもないし。

 何しろ金額がデカすぎるのだ。馬鹿としか言い様がない。その後に続いた言葉にはもう口が開きっぱなしだった。


「明後日には私主催でレストランを貸し切ってパーティを予定してるんですよ。その分のお金も必要なんです!!!」


 もう向こうの弁護士もどうしようも無くなっている。何なのこの人間?見栄しか張れないのか?問題はそこ?

 ちょっと行けるかなという思いで、ボイスレコーダーを立ち上げて、二人の弁護士に目配せする。

 メモのご用意を、ではなく、パソコンの用意を。


「じゃあ、離婚して頂くのと、今後一切連絡を取らないの条件に、()()()()()何とかしてもらう、というのはどうですか?

 私、こと真樹があなたに支払うのは、返済額を差し引いた14万円。これは、お前の子供が高校卒業迄の6年間の養育費と、居住費の4万円を含んでいる。それから先は自分達で働いて生活してもらいます。大学に行くなら自分達で稼いで貯めて行ってください。

 これに納得して頂けたら先程言われたパーティ分だけ工面してもらう様にしましょう。どうです?体裁は保てますよ?(今回だけね)」


 少しの間考えていた様だが、どうやら毎回この手が使えると思ったのか、笑顔で納得した様だ。


 即座に先程の内容を書式化して貰い、内容に間違いがないかを確認。

 各弁護士の署名に、自身と相手の女の署名。

 判子がない相手は拇印を押してもらった。



 内容は以下の通り


 一、 返済額の全てを真樹が負担する代わりに、離婚に同意する。

 一、 今後一切連絡は取らない。

 一、 支払う金額は養育費と居住費の14万円。

 期間は子供が高校を卒業する迄の6年間のみ。


 追加として、某月某日の催しの費用のみ真樹が負担する。

  以上


 ちゃんと読んだのかは不明だが、嬉嬉としてサインして拇印を押してくれた。

 目先の利益に囚われて、後の事を考えていないのがよく分かる。だが、此方としては物凄く助かる。


 コピーを各々貰い、原本は私の弁護士が預る。書き換えられては、たまったものでは無い。

 直ぐに離婚届にサインをして貰う、書き損じなど無いかも確認してもらう。住居も、もう用意して有るので、引越し手続きだけ。

 相手の弁護士には、何かあれば、うちの弁護士を通して貰うように念押しして役所に向かい提出。受理されると同時に婚姻届を貰って帰った。



 彼女はもう此方に引越ししてもらっている。私も荷物の移動は終わっている。後は場所を知られないようにしなければ・・・。



 *********




 後で聞いた話。

 実際、彼女が住んでいたところに、幾人かの男達が押し寄せたそうだ。

 もぬけの殻だったから良かったものの、どういう意味か、分からないはずがなかった。

 今の場所はオートロックのある、身元の解っている者の入居者しかない。


 四家の内、うちを含む三家も住んでいる。うちの子供達は幼いが上の子がもう小学生。後の三家は小学校高学年や、中高生もいる。

 まあ、実力主義であるから、侮られることは無いと思いつつ、これからやっと家族で過ごせる事への歓びを噛み締めた。


 そして、あやめさんへの協力を惜しまない事を誓った。





色々書いてますが、細かいツッコミは無しでお願いします。

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