表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華の乱  作者: 黒梟
2/14

 晴れのち曇り




 花を摘んで華道部に向かう途中、ひい様の事を思い出す。

 余程のことがない限り、頭を下げることのない彼女をそこまで追い詰めたのは、息子である紫炎(しえん)である事は明白。

 そのツケを毎回支払わされてるのは、彼の長女であり、ひい様の孫である華月(かづき)

 紫炎と瓜二つの顔、違うのは肉付きと背丈。表情や話し方もそっくりだから、余程の付き合いがないと見分けられない。そして何より、彼女は殆ど表舞台に立たない。身代わりも、年5回あれば多い方だし。

 身体が弱く入退院を繰り返しているが、最近は落ち着いてきてると聞いてたけど、彼による心労で()()倒れたのかなぁ、とも思う。

 当主としての自覚の足りなさに、ため息しか出てこない。

 そして彼曰く、ほぼ赤の他人の私を頼るのもおかしな話。先代当主の葉様に可愛がられていたというだけの私を、口煩い可愛くないガキとしか思ってないのだから。

 それでも私をないがしろにできないのは、彼の妻である華が私と瓜二つの容姿と声をしているのと、その華が私を可愛がっていたからに他ならない。


 どうしたものかと考えながら、廊下に飾ってある綺麗な生け花、華道部の作品を見つめる。


『華の命は儚い。それをいかに綺麗の咲かすかが我々の役目だ』

 それは愛しい女性に対しても同じこと、と言外に言って、柔らかく微笑む葉様を思い出す。

(あの方くらいのおおらかさと人の感情に敏感であればなぁ。)


 人間関係拗らせ選手権たるものがあれば、物の見事に優勝をかっさらうんじゃないだろうかと、妻に対する態度を思い出してさらに深い溜息が漏れてしまう。


「お花届けに来ました」

 部室に入れば、綺麗な着物に身を包んだ、華道部部員の視線が一挙に集まる。


(な・・にかあったのかな?)


 若干引き気味に、花を渡す。

 と、ここまでは良かった。


「根垣さん、貴女も隅に置けませんね」

「・・・は?」


 声を掛けてきたのは華道部部長。名前は・・・知らないけど、確か部で唯一の華道家の息子と関係を持ってる一人だったはず。


「あら、週刊誌を見ましたよ。松葉家の紫炎様とお付き合いをなさってるそうじゃないですか?

 前にそういう方には興味は無いと仰っていたのに、ねぇ?」

 まるで、私も彼女と同じ穴の狢と言わんばかりの言葉に、

「あんなハゲに興味などあるわけないでしょう?」

(ホント、あんなののどこがいいのか理解できない!)

 間髪入れずに笑顔で答える。

 瞬間部長の顔が歪んだ。


「あ、あ、あなたねぇ、自分が愛されているからって、言っていいことと悪い事があるのよ?!」

「愛されてはいませんが、悪態吐いても咎められたこともありませんね」

(咎めるだけの言葉もでなかったとも言う)

「な、な・・・!!」

「話はそれだけですか?では失礼します」


 頭を下げてその場を去ろうとした時、奥から声がした。


「久しぶりに私と話していかないか?あやめ」


 正月以来の声に、唖然とした。声変わりのしていない、男性にしては高い声。

 なぜここに居るのか、ここに来たのはひい様だけでは無いのか?私に用があったのは、コイツだったのか?と。


 だが、応える言葉は一つ、

「話すことなど何も無い」

 冷めた声が響く、顔から表情すら向け落ちていることだろう。機嫌が悪いのが丸わかりなのはしょうがないことだと思う。

 実際話しをしたい人物ではなかった。


「そんな冷たいこと言うな。今日は頼みがあってきたんだ」

 入り口まで歩み寄り、笑顔で返される。

「ハゲの頼みは聞かないことにしている。それは昔から変わらない。

 私に頼みがあるなら、土下座でもして赦しをこうてからにして」

 いつもの調子と口調で返す。

 周りの声など、雑音でしか無い。

 そんな中、奥から出てきたおじさまと呼べる、着物を見事に着こなし、髪に白髪が混じっている落ち着いた雰囲気の人物に、キツイ口調で咎められた。


「最近の若いのは礼儀も知らんのか?」


(知った風な口を利く人だな、何も知らないくせに・・・)

 彼にではなく、紫炎口を開く、

「保護者がいないと一人で来れないの?

 それとも、久しぶりに運転する車の犠牲者を出したかった?」

「いや?出がけに会って、この学校に行くと言ったら、付いて行くと言ったから同乗させた」

「お気の毒に・・・」

(この人の運転技術を知っていたら、絶対乗らないだろう?華を乗せてる時ならいざ知らず・・・。

 ある意味勇者だな、うん)

 一人納得して立ち去ろうとするも、腕を取られ引き留められる。


「で、土下座すれば要件飲んでくれる?」

「紫炎!」

「えっ、嫌」

「貴様!」


 無視されたことと、紫炎に対する態度が気に入らないのだろう、横から煩い。


「もう転校手続きとかしてるんじゃないの?」


 流石にそれは無いだろうと思いつつも、尋ねずにはいられなかった。実際何度も、勝手にことを勧められたことがあるから。

 巻き込める人間は、駒のようにしか思ってない節もあるし。

(まあ、彼の中で迷惑かけても許されてると思ってる人間は少ないし)


「うん、来週から水仙と同じ学校に行ってね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ