Ⅸ
準備八割
松葉の家の道場の正面にはあやめが小さい時に書いた水墨画が飾ってある。
そしてその下には、松葉の家の者が生けた花が飾られている。
普段は静まり返っているその場所が、“ポゥ”と光だし、次第に大きくなった淡い光に包まれた。
その光は数秒もしない間に消えてしまった。
光が消えると同時に、音もなく風もなく一通の封書が舞い落ちた。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
私が当主代理として向かった催しで、他家からも認められた事(認めさせた事)で依頼が来る様になった。というか 、望まずとも来ることになっていた。
私としては分かり切っていた事だし、更にいえば遅すぎるくらいだ。
松葉の家に入った時点で依頼が来ると思っていたのに、何も言われず、何も無くで過ごせていたのが気持ち悪いくらいだった。
まあ、戻ってすぐは碌に動くことが出来ないと思われていたからかもしれない。
力があっても使いこなせなければ意味が無い
大体にして、依頼は常に大金と共に動いている。
松葉が受ける依頼料は、宿泊代なども含め百万単位に上る。
はっきり言って、“誰が払うんだ!”と思うが、これが結構払うものがいるんだよ。
命の危険が伴うのが殆どだから、保証金と言っても過言ではない。後に残された者用ね。
それに支払われるのは、何も現金だけでは無い。骨董品や舶来物の品々。どこからもってきたのか金など様々なのである。
だから管理者は選定しているし、それなりの対価も支払っている。それが四家の者達。
だんだん面倒になってきたから切りたいと思ってるんだけど、中々にうまくいかない。如何してだろう?
まあ今回も早々とどこで調べたのか私の口座に振り込まれていた様だ。
なんだかオレオレ詐偽の受取人にされた気分。
個人的依頼とみても額が大きすぎるし、慌ててる感じの筆跡だった様で、すぐに帰ってくる様にと呼び出しがあった。
まあ今回でこの集まりは無くなるし、顔を出す場所も限られてくる。
駅に向かって歩いていると、雛菊と蓮の姿が目に入った。
何故こんなところに?
そう思いつつも、ある一点から視線を外した二人は、雑踏の中に姿を消していった。
家に戻り、依頼内容を確認後出かける支度をしていると、雛たちが帰ってきた。それはそれは大量の荷物を抱えて。
雛・・・自分が払わないからって、買いすぎでは無いか?
ちゃんと蓮の分あるよね?
そんな目で見ていたからか、蓮がニッコリ笑って
「僕のが八割だから大丈夫だよ」
と言ってきた。それは本当に大丈夫というのか?と思いつつも、満足してるならいいかとそれ以上は突っ込まなかった。片付けをしたらご飯にしようと言っておいたので、2人共サッサと部屋に荷物を片付けに行った。
食事の席では、雛と蓮の買い物話に花が咲いた。ツッコミたい所も多々あったが、蓮が物凄く嬉しそうに話してくれたので、その笑顔にみんなが癒された。
食事が終わり片付けをしてお茶していると、珍しく雛に忠告されてしまった。
お前に手を下そうとしているのがいるから気を付けておけ、と。
おうっ、相当私が邪魔らしい。って事は、今回の依頼でも、何かしら絡んで来てるのかな?
それはそれは、
返り討ちならぬ、何事もなかった事にしないといけないな〜。
久しぶりに身体を動かすんだから、頑張らないと。
アレ、いいストレス発散にもなるんだよねー。
楽しみだ。
私の思いは誰にも知られる事はなかった。